ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

文字の大きさ
上 下
36 / 114
第三章 世界樹の守護者

第36話 取引の正体

しおりを挟む
 つまり、あの密会と言うか密談は、ただ単に自分をメルヴィレッジの総務大臣の孫娘の婿に?か或いは、『嫁』にくれ?と言う話だったと言うのか?

と、グレアラシルは納得の行かない様子で聞いていた。

ただ単に、『嫁』か『婿』か?の話で終わらなそうな身体のどこかの器官が感じ取っている様な、そんな感覚が体中を走っていた。

コレットは、

「大祖父に孫娘は確かに居て、私よりも2歳も年下の娘だから、当然嫁にやるやらないはまだ先の話だと思っていたんだけど。でも大祖父がそれを受け入れてしまったら、政略結婚としては上出来よね?と言うか、何で今?政略結婚なのかしら!?」

と、すっかり『嫁』か『婿』の話の方に夢中の様で、とりあえず苦々しい顔だけは維持したまま思考を続けていた。

 グレアラシルの方はと言うと、この『嫁』か『婿』か?の話に聞き覚えがあった。

前に、賞金稼ぎギルドじゃない普通の仕事を斡旋してくれるギルドに所属していた時、ちょっとした地元の名士の様な人の護衛をする仕事に就いた事があった。

その名士の人と何者かが密会と言う形で取引をしている場に用心棒として立ち会っていた時に、グレアラシルは確かに聞いたのだ。

 「私の嫁は3日後に嫁入りさせますんで・・・・」

この時、名士には妻も子供も無く、独り身の状態だったのでこの時に名士が発した『嫁』が気になって、後に他の用心棒仲間に聞いてみた事があったのをグレアラシルは、やっと思い出した。

「コレットさん、多分その『嫁』とか『婿』って生身の人間の事を指しているんじゃないと思いますよ。」

と、グレアラシルはコレットの思考を止める。

コレットはキョトンとした顔をして、グレアラシルの次の言葉を待った。

「多分その『嫁』とか『婿』って、極秘の取引の対象物に対しての隠語です。昔、俺がまだ若造過ぎた頃にやってた仕事で聞いたことがあるんす。確かその時の『嫁』は、この国と言うか普通に流通していない魔法を使うための道具かまたは法具の類の事ですよ。」

そう言って、グレアラシルは沈黙した。

つまり、総務大臣とソルフゲイル御三家のアルヴェント家の次男は、レアものの魔道具かまたは魔法具の取引交渉をしていた事になるのだろう。

『嫁』と呼ばれていたものがどれ位の魔道具か法具なのか分からないけども、相当に危険な取引現場に遭遇してしまって居た事は明白だった。

「なるほど・・・そう考えると、あの密会の意味がかなり変わってきますね。総務大臣は明らかにこの国を裏切る算段をしていたって事になりますよね。となると、取引材料となっていた『嫁』が一体何なのかを明白にしなければならないんですが・・・」

 コレットは、グレアラシルの説明を聞いた後からはすっかり嫁婿問題からは思考が離れ、問題の『嫁』と呼ばれた魔道具を見つけなければ!と言う考えにまで発展していた。

何か、『嫁』にまつわる魔道具なら考え着きそうな気がするのに?と、頭の回転をフル稼働させてコレットは考えた。

「ああ~そう言えば、一つ思い出したっすよ。その『嫁』についての事を。確か『光の女神アリエルシア』や、『深淵のエルフ』の『ソフィアステイル』が作った魔道具の事を時々『嫁』と言う事があるって。って。『深淵のエルフ」って姐さんの叔母さんじゃないっすか!」

グレアラシルは思い出しながら、時々「う~~んう~~ん」と唸りながらひねり出した記憶の中に、まさかの『深淵のエルフ』に関しての記憶が眠っていた事に驚いた。

しかも、『深淵のエルフ』の名前まで憶えていたとは!と、自分の意外と良かった記憶力に感心していた。

グレアラシルが発した言葉の中に、コレットは聞き覚えのある言葉を見つけて身震いしていた。

「私・・・私の家の家宝に、『アリエルシアの弓』と呼ばれる弓矢のセットがあります。これって昔からウチにあって、誰も使える人が居なかったシロモノなんですが、もしかしたら密会でソルフゲイルが欲しがったのがこの『アリエルシアの弓』だったとしたら・・・・」

それ以上は絶句して、コレットは言葉を喉の奥まで飲み込んだ。

グレアラシルは、その『アリエルシアの弓』こそ、御三家が喉から手が出るほど欲しい魔道具で法具なのかも知れないと思った。



 これを、ソルフゲイルに渡してはいけない。

コレットも、何とかしてこの弓を持ちだそうと決意した。

「でも、結構な所に飾ってあって、持ちだすのは難しそうなんですよね・・・・」

倉庫にしまってあると言う場合なら、倉庫に忍び込んで盗み出すと言う方法もあるのだが、堂々と大っぴらに家の中に展示してある場合は、堂々と盗み出すのはともかくとして、コソコソ盗み出すのは難しそうだ?と二人は悩んだ。

「これは一度、どこかでじっくりと作戦会議をした方が良さそうっすね。」

すっかり料理も食べ終わってお会計を済まそうとするグレアラシルにコレットは、

「じゃあ、これから書架に行きましょう!あの本棚の中から、何かヒントとなる書物が見つかるやも知れません!」

と、作戦を立てる事よりもまず、コレットは書架の本棚の本を読みたい願望を募らせ過ぎの状態で宣言した。

「そんなに本が読みたかったんなら、素直に本が読みたいって言えば~・・・」

グレアラシルは、そこまで言った所で両手で口を塞いだ。

まずは書架に行って、今後の作戦を練る。

それがこれからの二人に課せられた使命になった。

しおりを挟む

処理中です...