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第三章 世界樹の守護者
第30話 飛翔
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次の日、ミカゲとセレスは予想外に早起きしてしまったので、未だに眠るグレアラシルに書架の戸締りの方法やら、突然変幻しない為のアミュレットをダイニングのテーブルの上に置いて書架を出た。
「まぁ、あの書架のドアは特に戸締りしなくても自動的に閉まったり開いたりするけどね。」
セレスは入り口のドアの仕組みを漏らす。
どうやら、書架の入り口のドアは、ソルフゲイル軍を認識すると勝手に開かなくなるシステムが構築されている様で、それ以外の人はよっぽどの悪意が無ければ書架には自由に入れる様になっているのだった。
「出入口は何とかなるとしても、問題は変幻だけだな~。」
そこだけが気がかりだったが、まぁグレアラシルもイイ大人だし、あの説明をちゃんと読めれば何とかなるだろうとセレスは、これ以上残して行く者に対して心を砕く事は無かった。
ミカゲは、ほぼ手ぶらだったが、セレスは腰に小さめのバッグを装着している。
とりあえず荷物はそれだけの様で、一週間もかけて母親を探しに行くと言った格好には見えなかった。
多分バッグは小さく見えるが、セレスの魔法や魔道具の仕掛けで荷物を小さくしていると考えた方が良いのかも知れない。
二人は書架を出た後、特に急ぐ様子もなく、トトアトエ・テルニア時代に使われていた神殿の遺跡のある地にほどなく着いた。
一昨日の戦闘の跡は特に残っておらず、ただソルフゲイル軍が慌てて逃げかえった足跡だけが残っていて、それを見たミカゲが大笑いした位だった。
「あれは・・・・!本当、笑いたいのを我慢してたんだち!」
ミカゲは、その時の笑いを今実行していた。
まぁ、日頃から何だかんだで迷惑被っている相手が、一目散に逃げていく様を目の当たりにしたら、笑いが込み上げて来ない人なんて居るのだろうか?と思う人の方が多いだろう。
「さて、この辺でやるか。」
セレスは、歩みを止めてミカゲと向き合った。
そしてミカゲも、「うっしやるち!」と言って、まずは角に装着されている拘束具を外して行った。
外す度、地面にズシン!ズシンと重いモノの落ちる音がするが、ミカゲはまるで軽石でも持っているかのような手付きで自分の身体に付いている拘束具を外して行く。
知らない人が見たら、一昨日のグレアラシルやソルフゲイル軍の様な反応になる事は間違い無いだろう。
そうこうしているうちに、ミカゲの拘束はお腹に描かれている魔法陣だけになった。
セレスは、その魔方陣の正面に手をかざすと、
『古の王の古き使い魔に施されし封印よ、今こそ我が名セレスフィル・アズワルド・レティの元にその姿を現せ』
と唱えた。
いつもは語尾に付いているトトアトエの無い、魔界でのセレスの名前がミカゲの完全体への解呪の鍵になっていた。
もちろん、本当のミカゲの主であるセレスの父親には、この解呪も特に唱える事無くミカゲを完全体にする事は可能だと思われるが、その辺の詳細は当の本人に聞く必要があるだろう。
解呪の言葉の後、ミカゲの身体は光に包まれた。
そして光が収まると、神殿程の大きさはあろうか?と言う程巨大な竜の姿になっていた。
鱗は髪色と同じ深い青をしていて瞳は赤く、角は亜人の姿の時は2本だが竜になると6本に増えていた。
「何か、久しぶりにこの姿になったから、何だかムズムズするち!」
身体は変わっても、中身の人格はミカゲなので、いつもの口調で今の感想を言う。
セレスは、
「さて、行くよ!あんまり長い時間この姿で留まっていると、ソルフゲイル軍がまたゾロゾロやってくるからな!」
と言って、ミカゲの背中に飛び乗った。
ミカゲの背中と言っても、普通の人間位のサイズのセレスにはちょっとした広場の様な広さがあったので、その中でも特に鱗がゴツゴツしている部分を見つけて座って、気流などに巻き込まれても落ちない様につかまった。
「セレス!行くち!」
ミカゲはそう言うと、翼を軽く動かした。
それだけでかなりの浮力が生じて、一瞬にして2人は大空に舞い上がった。
「ミカゲ、進路は世界樹だ。もう少し高く上がったら見えるだろう?そこまで飛ぶんだ!」
セレスはミカゲに声をかけると進路の方向を指さした。
ミカゲは、自分の背中に居るセレスの声をちゃんと拾えている様で、右腕で了解のポーズを取ると進路を南西方向に取り、再び翼を動かした。
巨大な竜は風を切り、一瞬のうちに街から遠く離れて行った。
2人が書架を出て行ってしばらく後、そろそろもうクレモストナカに着いているであろう?頃にグレアラシルは目覚めた。
起きて自分の朝食を食べようとすると、テーブルの上にはミカゲが作っておいたと思われる目玉焼きの乗ったトーストと果物の盛り合わせ、それと冷蔵貯蔵庫に冷たいミルクがある旨の走り書きが添えられていた。
グレアラシルはそのメモを両手に持つと目元に押し付け、
「ミカゲさん!申し訳ないっす!大変ありがたく頂戴させていただきますっ!!」
と、涙ながらに叫んだ。
もう、彼女らは旅立った。
自ら決めた道を歩み始めた。
グレアラシルも、指示された任務を果たすため、まずはテーブルの上の食事を口に運ぶのだった。
「まぁ、あの書架のドアは特に戸締りしなくても自動的に閉まったり開いたりするけどね。」
セレスは入り口のドアの仕組みを漏らす。
どうやら、書架の入り口のドアは、ソルフゲイル軍を認識すると勝手に開かなくなるシステムが構築されている様で、それ以外の人はよっぽどの悪意が無ければ書架には自由に入れる様になっているのだった。
「出入口は何とかなるとしても、問題は変幻だけだな~。」
そこだけが気がかりだったが、まぁグレアラシルもイイ大人だし、あの説明をちゃんと読めれば何とかなるだろうとセレスは、これ以上残して行く者に対して心を砕く事は無かった。
ミカゲは、ほぼ手ぶらだったが、セレスは腰に小さめのバッグを装着している。
とりあえず荷物はそれだけの様で、一週間もかけて母親を探しに行くと言った格好には見えなかった。
多分バッグは小さく見えるが、セレスの魔法や魔道具の仕掛けで荷物を小さくしていると考えた方が良いのかも知れない。
二人は書架を出た後、特に急ぐ様子もなく、トトアトエ・テルニア時代に使われていた神殿の遺跡のある地にほどなく着いた。
一昨日の戦闘の跡は特に残っておらず、ただソルフゲイル軍が慌てて逃げかえった足跡だけが残っていて、それを見たミカゲが大笑いした位だった。
「あれは・・・・!本当、笑いたいのを我慢してたんだち!」
ミカゲは、その時の笑いを今実行していた。
まぁ、日頃から何だかんだで迷惑被っている相手が、一目散に逃げていく様を目の当たりにしたら、笑いが込み上げて来ない人なんて居るのだろうか?と思う人の方が多いだろう。
「さて、この辺でやるか。」
セレスは、歩みを止めてミカゲと向き合った。
そしてミカゲも、「うっしやるち!」と言って、まずは角に装着されている拘束具を外して行った。
外す度、地面にズシン!ズシンと重いモノの落ちる音がするが、ミカゲはまるで軽石でも持っているかのような手付きで自分の身体に付いている拘束具を外して行く。
知らない人が見たら、一昨日のグレアラシルやソルフゲイル軍の様な反応になる事は間違い無いだろう。
そうこうしているうちに、ミカゲの拘束はお腹に描かれている魔法陣だけになった。
セレスは、その魔方陣の正面に手をかざすと、
『古の王の古き使い魔に施されし封印よ、今こそ我が名セレスフィル・アズワルド・レティの元にその姿を現せ』
と唱えた。
いつもは語尾に付いているトトアトエの無い、魔界でのセレスの名前がミカゲの完全体への解呪の鍵になっていた。
もちろん、本当のミカゲの主であるセレスの父親には、この解呪も特に唱える事無くミカゲを完全体にする事は可能だと思われるが、その辺の詳細は当の本人に聞く必要があるだろう。
解呪の言葉の後、ミカゲの身体は光に包まれた。
そして光が収まると、神殿程の大きさはあろうか?と言う程巨大な竜の姿になっていた。
鱗は髪色と同じ深い青をしていて瞳は赤く、角は亜人の姿の時は2本だが竜になると6本に増えていた。
「何か、久しぶりにこの姿になったから、何だかムズムズするち!」
身体は変わっても、中身の人格はミカゲなので、いつもの口調で今の感想を言う。
セレスは、
「さて、行くよ!あんまり長い時間この姿で留まっていると、ソルフゲイル軍がまたゾロゾロやってくるからな!」
と言って、ミカゲの背中に飛び乗った。
ミカゲの背中と言っても、普通の人間位のサイズのセレスにはちょっとした広場の様な広さがあったので、その中でも特に鱗がゴツゴツしている部分を見つけて座って、気流などに巻き込まれても落ちない様につかまった。
「セレス!行くち!」
ミカゲはそう言うと、翼を軽く動かした。
それだけでかなりの浮力が生じて、一瞬にして2人は大空に舞い上がった。
「ミカゲ、進路は世界樹だ。もう少し高く上がったら見えるだろう?そこまで飛ぶんだ!」
セレスはミカゲに声をかけると進路の方向を指さした。
ミカゲは、自分の背中に居るセレスの声をちゃんと拾えている様で、右腕で了解のポーズを取ると進路を南西方向に取り、再び翼を動かした。
巨大な竜は風を切り、一瞬のうちに街から遠く離れて行った。
2人が書架を出て行ってしばらく後、そろそろもうクレモストナカに着いているであろう?頃にグレアラシルは目覚めた。
起きて自分の朝食を食べようとすると、テーブルの上にはミカゲが作っておいたと思われる目玉焼きの乗ったトーストと果物の盛り合わせ、それと冷蔵貯蔵庫に冷たいミルクがある旨の走り書きが添えられていた。
グレアラシルはそのメモを両手に持つと目元に押し付け、
「ミカゲさん!申し訳ないっす!大変ありがたく頂戴させていただきますっ!!」
と、涙ながらに叫んだ。
もう、彼女らは旅立った。
自ら決めた道を歩み始めた。
グレアラシルも、指示された任務を果たすため、まずはテーブルの上の食事を口に運ぶのだった。
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