ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

文字の大きさ
上 下
30 / 114
第三章 世界樹の守護者

第30話 飛翔

しおりを挟む
 次の日、ミカゲとセレスは予想外に早起きしてしまったので、未だに眠るグレアラシルに書架の戸締りの方法やら、突然変幻しない為のアミュレットをダイニングのテーブルの上に置いて書架を出た。

「まぁ、あの書架のドアは特に戸締りしなくても自動的に閉まったり開いたりするけどね。」

セレスは入り口のドアの仕組みを漏らす。

どうやら、書架の入り口のドアは、ソルフゲイル軍を認識すると勝手に開かなくなるシステムが構築されている様で、それ以外の人はよっぽどの悪意が無ければ書架には自由に入れる様になっているのだった。

「出入口は何とかなるとしても、問題は変幻だけだな~。」

そこだけが気がかりだったが、まぁグレアラシルもイイ大人だし、あの説明をちゃんと読めれば何とかなるだろうとセレスは、これ以上残して行く者に対して心を砕く事は無かった。



 ミカゲは、ほぼ手ぶらだったが、セレスは腰に小さめのバッグを装着している。

とりあえず荷物はそれだけの様で、一週間もかけて母親を探しに行くと言った格好には見えなかった。

多分バッグは小さく見えるが、セレスの魔法や魔道具の仕掛けで荷物を小さくしていると考えた方が良いのかも知れない。

二人は書架を出た後、特に急ぐ様子もなく、トトアトエ・テルニア時代に使われていた神殿の遺跡のある地にほどなく着いた。

一昨日の戦闘の跡は特に残っておらず、ただソルフゲイル軍が慌てて逃げかえった足跡だけが残っていて、それを見たミカゲが大笑いした位だった。

「あれは・・・・!本当、笑いたいのを我慢してたんだち!」

ミカゲは、その時の笑いを今実行していた。

まぁ、日頃から何だかんだで迷惑被っている相手が、一目散に逃げていく様を目の当たりにしたら、笑いが込み上げて来ない人なんて居るのだろうか?と思う人の方が多いだろう。

「さて、この辺でやるか。」

 セレスは、歩みを止めてミカゲと向き合った。

そしてミカゲも、「うっしやるち!」と言って、まずは角に装着されている拘束具を外して行った。

外す度、地面にズシン!ズシンと重いモノの落ちる音がするが、ミカゲはまるで軽石でも持っているかのような手付きで自分の身体に付いている拘束具を外して行く。

知らない人が見たら、一昨日のグレアラシルやソルフゲイル軍の様な反応になる事は間違い無いだろう。

そうこうしているうちに、ミカゲの拘束はお腹に描かれている魔法陣だけになった。

セレスは、その魔方陣の正面に手をかざすと、

 『古の王の古き使い魔に施されし封印よ、今こそ我が名セレスフィル・アズワルド・レティの元にその姿を現せ』

と唱えた。

いつもは語尾に付いているトトアトエの無い、魔界でのセレスの名前がミカゲの完全体への解呪の鍵になっていた。

もちろん、本当のミカゲの主であるセレスの父親には、この解呪も特に唱える事無くミカゲを完全体にする事は可能だと思われるが、その辺の詳細は当の本人に聞く必要があるだろう。

解呪の言葉の後、ミカゲの身体は光に包まれた。

そして光が収まると、神殿程の大きさはあろうか?と言う程巨大な竜の姿になっていた。

鱗は髪色と同じ深い青をしていて瞳は赤く、角は亜人の姿の時は2本だが竜になると6本に増えていた。

「何か、久しぶりにこの姿になったから、何だかムズムズするち!」

身体は変わっても、中身の人格はミカゲなので、いつもの口調で今の感想を言う。

セレスは、

「さて、行くよ!あんまり長い時間この姿で留まっていると、ソルフゲイル軍がまたゾロゾロやってくるからな!」

と言って、ミカゲの背中に飛び乗った。

ミカゲの背中と言っても、普通の人間位のサイズのセレスにはちょっとした広場の様な広さがあったので、その中でも特に鱗がゴツゴツしている部分を見つけて座って、気流などに巻き込まれても落ちない様につかまった。

「セレス!行くち!」

ミカゲはそう言うと、翼を軽く動かした。

それだけでかなりの浮力が生じて、一瞬にして2人は大空に舞い上がった。

「ミカゲ、進路は世界樹だ。もう少し高く上がったら見えるだろう?そこまで飛ぶんだ!」

セレスはミカゲに声をかけると進路の方向を指さした。

ミカゲは、自分の背中に居るセレスの声をちゃんと拾えている様で、右腕で了解のポーズを取ると進路を南西方向に取り、再び翼を動かした。

巨大な竜は風を切り、一瞬のうちに街から遠く離れて行った。




 2人が書架を出て行ってしばらく後、そろそろもうクレモストナカに着いているであろう?頃にグレアラシルは目覚めた。

起きて自分の朝食を食べようとすると、テーブルの上にはミカゲが作っておいたと思われる目玉焼きの乗ったトーストと果物の盛り合わせ、それと冷蔵貯蔵庫に冷たいミルクがある旨の走り書きが添えられていた。

グレアラシルはそのメモを両手に持つと目元に押し付け、

「ミカゲさん!申し訳ないっす!大変ありがたく頂戴させていただきますっ!!」

と、涙ながらに叫んだ。

もう、彼女らは旅立った。

自ら決めた道を歩み始めた。

グレアラシルも、指示された任務を果たすため、まずはテーブルの上の食事を口に運ぶのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

食堂の大聖女様〜転生大聖女は実家の食堂を手伝ってただけなのに、なぜか常連客たちが鬼神のような集団になってるんですが?〜

にゃん小春
ファンタジー
魔獣の影響で陸の孤島と化した村に住む少女、ティリスティアーナ・フリューネス。父は左遷された錬金術師で村の治療薬を作り、母は唯一の食堂を営んでいた。代わり映えのしない毎日だが、いずれこの寒村は終わりを迎えるだろう。そんな危機的状況の中、十五歳になったばかりのティリスティアーナはある不思議な夢を見る。それは、前世の記憶とも思える大聖女の処刑の場面だった。夢を見た後、村に奇跡的な現象が起き始める。ティリスティアーナが作る料理を食べた村の老人たちは若返り、強靭な肉体を取り戻していたのだ。 そして、鬼神のごとく強くなってしまった村人たちは狩られるものから狩るものへと代わり危機的状況を脱して行くことに!? 滅びかけた村は復活の兆しを見せ、ティリスティアーナも自らの正体を少しずつ思い出していく。 しかし、村で始まった異変はやがて自称常識人である今世は静かに暮らしたいと宣うティリスティアーナによって世界全体を巻き込む大きな波となって広がっていくのであった。 2025/1/25(土)HOTランキング1位ありがとうございます!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

かつて最弱だった魔獣4匹は、最強の頂きまで上り詰めたので同窓会をするようです。

カモミール
ファンタジー
「最強になったらまた会おう」 かつて親友だったスライム、蜘蛛、鳥、ドラゴン、 4匹は最弱ランクのモンスターは、 強さを求めて別々に旅に出る。 そして13年後、 最強になり、魔獣四王と恐れられるようになった彼女ら は再び集う。 しかし、それは世界中の人々にとって脅威だった。 世間は4匹が好き勝手楽しむ度に 世界の危機と勘違いをしてしまうようで・・・? *不定期更新です。 *スピンオフ(完結済み) ヴァイロン家の少女が探す夢の続き~名家から追放された天才女騎士が最強の冒険者を目指すまでの物語~ 掲載中です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...