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第三章 世界樹の守護者
第29話 自分にしか出来ない事
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もう、グレアラシルは何を聞いても驚かない様にしようと思っていたが、まさかの叔母さんの登場に少々思考が疲労感を感じているのを感じていた。
何だかもう、このセレスと言う人物はただの魔導書の書架の店主と言う所までの情報で、自分の思考を止めておけば良かったと後悔していた。
昨夜、ミカゲと対峙した時の恐怖感なんて、そろそろ脳内の奥地に設置していある遠くの倉庫に葬られそうな勢いで、続々と新しくて恐ろしい情報が入ってくる度に、自分の思考が凍って行くような気がしていた。
「へ、へぇ~叔母さん!何か世界は狭いですね~、姐さんの親戚がまさかこの世界でしかも隣の国に居るなんて。」
グレアラシルがちょっと疲れた様な笑みで話すと、セレスはグレアラシルの精神状態を読み取り、
「グレ、お前無理してこの話について来ようとしなくても良いんだぞ?これからアタシがやる事は、普通の人間には到底理解しがたい事をやる訳だからな。」
と言った。
ミカゲも、
「ライカンスロープ君は、自分に出来る事だけやったらイイんだち。無理して背伸びすると寿命が縮むだけだち。」
そう言ってグレアラシルの肩を叩いた。
そうこうしているうちに料理の皿はすべて空になり、今日の夕飯が終わった。
ミカゲは皿洗いを熱心にやっていて、グレアラシルはここに来て初めて台所の片付け作業をせずにテーブル席でお茶を飲んでいた。
自分に出来る事。
それはさっきセレスが言った、総務大臣の動向調査の様な事。
他に出来る事は、家事全般程度。
そんなの、誰でも出来る仕事じゃないのか?
自分には、特別に出来る凄い事なんて何も無い。
時々、満月の夜に小動物並みの殺傷能力しか無いウサミミ狼にしか成れない自分を、ひどく滑稽に感じている日々。
世界樹のたもとの街で生まれ育って、自分もいつか大きな仕事をしてやろうと思ってメルヴィ・メルヴィレッジを巡ってみたり隣国アルメイレに行ってみたりもしたけれど、でも行ってみただけ。
その国で何かをやってみた事は無かった。
そうして、このメルヴィレッジ首都外れの寂れた下町に流れ着いて、賞金がかかった極悪人を狩る賞金稼ぎをやってみたけど、これも自分だけが出来る仕事じゃなかった。
ちょっと強かったら誰でも出来る仕事だった。
なら?自分には何が出来る?
自分にしか出来ない凄い特技は何かあるのか?
そもそも、ライカンスロープのグレアラシルはこの世界に居ても良い存在なのか?
グルグルと頭の中で自分と言う存在の意義を確かめようとしてみたものの、一向に自分にしか出来ない事も自分の存在意義も見つからなかった。
ただ、今はとりあえず、セレスに頼まれたあの総務大臣の動向を探る仕事だけは全うしなければ!と強く思った。
「姐さん、分かりました。俺はこれから、俺にしか出来ない事を考えて生きていきます。俺に出来ない事は極力関わらない様にしていきます。」
向かいの席でお茶を飲みながら眠そうにしているセレスに、グレアラシルは決意を述べる。
半分意識が睡魔に持って行かれそうだったセレスは、
「イイんじゃない?イイと思うよ。無駄な事や出来ない事には簡単に首を突っ込まない方がイイ。それが賢い選択だとアタシは思うよ。身の丈に合った仕事をするのさ。それが一番自分らしい生き方を見つけられる方法さ。」
そう言って笑った。
「俺はとりあえず今は、姐さんに任された総務大臣の動向をキッチリ調べ上げて、次に姐さんに会った時には良い報告が出来る様にしますよ!」
グレアラシルは何か吹っ切れたような、爽やかな笑顔でセレスに言った。
セレスは?と言うと、半分近く睡魔に意識が持っていかれていた様で、このグレアラシルの決意がちゃんと頭に入っているのかは分からなかったが、
「ヨシ~偉い偉い。それでこそ男子だね~。」
と言いながら満足そうにした。
この、だいぶ眠った状態に近いセレスの声を聞いたミカゲは、ちょうど片付けや皿洗いも終わった様子で、
「ああ~!もうセレスは食後にすぐ眠ろうとするクセ、全然治っていないんだち。小さい頃からずっとこんなんで困るんだち!」
と言いながら、テーブル席で脱力して眠りこけ始めているセレスを持ち上げて抱きかかえた。
「あちし、このまま寝室に行ってセレス置いた後寝ちゃって、しかも明日は早くこの家出ちゃうから、ライカンスロープ君とは次回会うまでは会えないと思うんだけど、あちしに何か言いたい事とかあったら言っとくんだち!」
セレスを抱きかかえた状態で、ミカゲはグレアラシルに問いかけた。
グレアラシルは、
「いえ、今は特に俺に言える事は無いっすね。ただ、無事で帰って来てくださいと伝えて欲しいです。」
と言って、ミカゲに深々と頭を下げた。
ミカゲは、何でそんなに頭を下げられるのか分かっていない様だったが、
「分かったち。セレスに伝えておくんだち。ライカンスロープ君も無理をするんじゃないちよ?任務と言ってもあくまでも動向を探るだけ、その先に踏み込もうなんて考えたら駄目だちよ?」
と、普段ののほほ~んとした雰囲気だけでは想像もつかない程に、的確な指示を出した。
グレアラシルは初めて、このミカゲと言う竜の少女の事を、本当に心の底から尊敬の念を抱くとともに、この上なく恐ろしく思った。
何だかもう、このセレスと言う人物はただの魔導書の書架の店主と言う所までの情報で、自分の思考を止めておけば良かったと後悔していた。
昨夜、ミカゲと対峙した時の恐怖感なんて、そろそろ脳内の奥地に設置していある遠くの倉庫に葬られそうな勢いで、続々と新しくて恐ろしい情報が入ってくる度に、自分の思考が凍って行くような気がしていた。
「へ、へぇ~叔母さん!何か世界は狭いですね~、姐さんの親戚がまさかこの世界でしかも隣の国に居るなんて。」
グレアラシルがちょっと疲れた様な笑みで話すと、セレスはグレアラシルの精神状態を読み取り、
「グレ、お前無理してこの話について来ようとしなくても良いんだぞ?これからアタシがやる事は、普通の人間には到底理解しがたい事をやる訳だからな。」
と言った。
ミカゲも、
「ライカンスロープ君は、自分に出来る事だけやったらイイんだち。無理して背伸びすると寿命が縮むだけだち。」
そう言ってグレアラシルの肩を叩いた。
そうこうしているうちに料理の皿はすべて空になり、今日の夕飯が終わった。
ミカゲは皿洗いを熱心にやっていて、グレアラシルはここに来て初めて台所の片付け作業をせずにテーブル席でお茶を飲んでいた。
自分に出来る事。
それはさっきセレスが言った、総務大臣の動向調査の様な事。
他に出来る事は、家事全般程度。
そんなの、誰でも出来る仕事じゃないのか?
自分には、特別に出来る凄い事なんて何も無い。
時々、満月の夜に小動物並みの殺傷能力しか無いウサミミ狼にしか成れない自分を、ひどく滑稽に感じている日々。
世界樹のたもとの街で生まれ育って、自分もいつか大きな仕事をしてやろうと思ってメルヴィ・メルヴィレッジを巡ってみたり隣国アルメイレに行ってみたりもしたけれど、でも行ってみただけ。
その国で何かをやってみた事は無かった。
そうして、このメルヴィレッジ首都外れの寂れた下町に流れ着いて、賞金がかかった極悪人を狩る賞金稼ぎをやってみたけど、これも自分だけが出来る仕事じゃなかった。
ちょっと強かったら誰でも出来る仕事だった。
なら?自分には何が出来る?
自分にしか出来ない凄い特技は何かあるのか?
そもそも、ライカンスロープのグレアラシルはこの世界に居ても良い存在なのか?
グルグルと頭の中で自分と言う存在の意義を確かめようとしてみたものの、一向に自分にしか出来ない事も自分の存在意義も見つからなかった。
ただ、今はとりあえず、セレスに頼まれたあの総務大臣の動向を探る仕事だけは全うしなければ!と強く思った。
「姐さん、分かりました。俺はこれから、俺にしか出来ない事を考えて生きていきます。俺に出来ない事は極力関わらない様にしていきます。」
向かいの席でお茶を飲みながら眠そうにしているセレスに、グレアラシルは決意を述べる。
半分意識が睡魔に持って行かれそうだったセレスは、
「イイんじゃない?イイと思うよ。無駄な事や出来ない事には簡単に首を突っ込まない方がイイ。それが賢い選択だとアタシは思うよ。身の丈に合った仕事をするのさ。それが一番自分らしい生き方を見つけられる方法さ。」
そう言って笑った。
「俺はとりあえず今は、姐さんに任された総務大臣の動向をキッチリ調べ上げて、次に姐さんに会った時には良い報告が出来る様にしますよ!」
グレアラシルは何か吹っ切れたような、爽やかな笑顔でセレスに言った。
セレスは?と言うと、半分近く睡魔に意識が持っていかれていた様で、このグレアラシルの決意がちゃんと頭に入っているのかは分からなかったが、
「ヨシ~偉い偉い。それでこそ男子だね~。」
と言いながら満足そうにした。
この、だいぶ眠った状態に近いセレスの声を聞いたミカゲは、ちょうど片付けや皿洗いも終わった様子で、
「ああ~!もうセレスは食後にすぐ眠ろうとするクセ、全然治っていないんだち。小さい頃からずっとこんなんで困るんだち!」
と言いながら、テーブル席で脱力して眠りこけ始めているセレスを持ち上げて抱きかかえた。
「あちし、このまま寝室に行ってセレス置いた後寝ちゃって、しかも明日は早くこの家出ちゃうから、ライカンスロープ君とは次回会うまでは会えないと思うんだけど、あちしに何か言いたい事とかあったら言っとくんだち!」
セレスを抱きかかえた状態で、ミカゲはグレアラシルに問いかけた。
グレアラシルは、
「いえ、今は特に俺に言える事は無いっすね。ただ、無事で帰って来てくださいと伝えて欲しいです。」
と言って、ミカゲに深々と頭を下げた。
ミカゲは、何でそんなに頭を下げられるのか分かっていない様だったが、
「分かったち。セレスに伝えておくんだち。ライカンスロープ君も無理をするんじゃないちよ?任務と言ってもあくまでも動向を探るだけ、その先に踏み込もうなんて考えたら駄目だちよ?」
と、普段ののほほ~んとした雰囲気だけでは想像もつかない程に、的確な指示を出した。
グレアラシルは初めて、このミカゲと言う竜の少女の事を、本当に心の底から尊敬の念を抱くとともに、この上なく恐ろしく思った。
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