ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第二章 ソラ・ルデ・ビアスの書架とは?

第17話 故郷の味

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「だから実際の所、アタシがこの世界に来てからは魔界の時間では166年って所なんだけど、蒼壁の大陸ではザっと500年は経っているだろうね~。」

「500年?!」

コレットとグレアラシルは同時に言ったので、ちょっとハモっている様に聞こえたな?と思いながらセレスは笑った。

「あははは!そんなに驚かなくても。ってまぁ驚くよな。アタシは見た目は赤毛の普通の人間臭い見た目をしているから、エルフの特徴とか特性とかが見当たらないだろうけど、でも高位の魔導士になると気配がバレちゃってね。それでソルフゲイルの魔導士が昔、アタシに結構付きまとって来たんだよ。」

なるほど~と言う目をコレットは向けながら、自分の目の前に置かれていた朝食をほぼ平らげていた。

家でもこんなに食べないのに今朝の朝食が美味しくて、話を聞きながらどんどん口に運びながら、自分はこんなにご飯を食べられる人だったのか?と、自分自身に感心していたりした。

「で、やっと嵌めた嵌められた~の話になる訳だけど。」

セレスはようやく話の原点に辿り着いて、お茶を全部飲み干した。

それを見たグレアラシルが、

「とりあえず一旦話を休憩しませんか?朝食のデザートを持ってきますよ。」

と言いながら、皆が食べたお皿を片付け始める。

すると、ちょうど食べ終わったミカゲも「あちしも手伝う!」と言って、共に台所の流し台の方に空の皿を持って行った。

 グレアラシルとミカゲが皿洗いをしている間、コレットはセレスに別の疑問を聞いていた。

「お二人が魔界から来ていると言う話を聞いて物凄く驚いたんですけど、魔界と言うと絵本や魔導書や学校の教科書に必ずと言っていい程、不気味な容姿をしたオドロオドロしい生き物が住んでいて、魔物や魔物を操る怪しい魔導士が多く存在していて~・・・と言う文献ばかり見かけるのですが、先程のセレスさんの話だと、街が存在していて普通に文化的な暮らしをしている、ただの別の世界の話の様に聞こえたんですが?」

と、畳みかけて来た。

確かに、多くの文献では、魔界に住む者は、いつしかこの世界に住む人類を滅ぼそうと目論んでいて、強大な力や魔力を持っていて、その力を操って魔物を使役して~と言った表現をされている事をセレスは当然知っていた。

セレス自身も、この世界に来てこの世界の成り立ちや住んでいる人々の事を知りたくて、その昔から色々と調べたり学んだりして来た。

その中で幾度と無く目にした文献の多くが、魔界に対して良くない事ばかり書いてある話ばかりだったので、いつかこれらの文献のルーツを調べたいと思っていたのだ。

「確かにね、コレットの言う通り魔界はかなり文化的な暮らしをしていてね、魔族の殆どがアタシの様な人間の様な風貌をしている。その中に、魔力の強い人が居たりミカゲの様な竜族が居たりしている感じ。だから、不気味な世界~と言う感じの世界では無いんだけどなー。誰かが向こうで怖い思いをして、それを書いたのが流行っちゃったのかも知れないね。」

途方も無い歴史の中にある謎の違和感を感じながら、セレスは思い出していた。

「文化的な暮らしと言えば、魔界では魔物もそれぞれ仕事をして給料を貰って生活していたりするんだよ。魔物の中にビリビリとした電撃を放つ者は結構たくさん居るんだけど、その電撃を利用して『電気』を集めている。電気は上手く使うとほら、この部屋の明かりみたいに使う事が出来たり、魔道具を作り出せたりする。その実、アタシは魔法を使う事もあるけど魔道具を作る方が得意でね、電気があると通常の魔力で武器錬成するよりも短時間でかつ魔力の消耗も殆ど無く作れてしまうんだ。因みに電機はタダでは無い。電撃系の魔物に給料を支払うために、電気を使っている者は毎月一定額を支払う事になっているよ。」

と、話した所でセレスは手を組んで腕を伸ばして伸びをした。

肩がバキバキ鳴る音は、コレットの耳にも届いた。

「あ~ははは・・・こりゃ、運動不足かな?」

 セレスは今度は、音が鳴った肩をグルグル回し始めた。

そこにようやく、皿洗いなどの後片付けを終えてかつ、デザートとお茶を持ってきたグレアラシルとミカゲがやってきた。

お茶はハーブティだが光の魔法がかけられていて、心身をリラックスさせると共に、これから仕事に向かう人に精神的活力を与える効果が付与されていた。

「特にお茶に魔法をかけるとか、この辺じゃあんまり目にしないけど魔界じゃ普通なんだよ。これが魔界の普通のお茶。コレットが昨日書架に駆け込んできた時にミカゲに出されたお茶も、運動して走って来て汗だくになった時に飲むと、急激に身体を冷やしてくれるから便利なんだよ。」

と、セレスはお茶の説明もした。

グレアラシルが、

「後は焼くだけの仕込みがされてたアップルパイがあったので、焼いてきましたよ。と言うか、この台所、色々不思議ですよね~、貯蔵庫はもう氷の魔法がいつまでも切れないし、アップルパイも、何も熱源が無いのにかまど?に入れて何やらミカゲさんが操作した十数分の後に焼きあがってしまって・・・」

と、首をかしげまくりだった。

この辺の説明はまた個別に追々するとして、とりあえず目の前に出されたお茶とアップルパイを食べる。

ミカゲが仕込んだのであろうアップルパイは、セレスの懐かしの魔界の故郷街のの味がした。

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