ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第一章 ライカンスロープとの決戦

第11話 急転直下

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 ミカゲを外に取り残したまま、礼拝堂の奥まで進んで行ったセレスとコレットだったが、外の様子がどうしても気になって、ものの数分でまた入り口付近まで戻って来ていた。

セレスが「あちゃ~~!」と言いながら頭を抱えて結界の前で立ちすくむ。

よく見ると、ミカゲの周囲には普段身に着けている腕輪や足輪、角の拘束具などが散らばっており、指示通りに2つだけ外したような状況では無いのが一目瞭然だった。

セレスは、

「あちゃ~~!イカン!!あれはイカンよ?マジで・・・ああどうするか!!」

と言いながらその場で頭を抱えながらウロウロして、でも何も出来ない状況だと言う事を諦めようとしたり~と、一人葛藤を繰り返していた。

その様子を見て居たコレットは、

「え?一体何が問題なんですか?拘束具をそんなに取ったら駄目なんですか?」

と、問いかけて来る。

セレスは、この問いかけに疑問符を抱かずに居られなかった。

外のソルフゲイル軍を見ている限りでは、拘束具を取っ払ったミカゲの状態に恐れ慄いている状況が見て取れるので、ミカゲの気配はかなりの重圧になっている筈だったからだ。

 一方こちらの礼拝堂側は、声は届かないけれども気配は届くし姿を見るだけなら出来るので、普通の神経を持っている人間ならかなりの重圧に耐えかねて精神的に病みそうな状況であるにも関わらず、何の変化も無くまるで普通の日常の光景の様な反応を見せるコレットに、少々どころかかなり!疑問を抱いたのだ。

「コレット、一つ聞いていいか?今、お前さん特に身体や心に何か変化を感じたりしないのか?」

身に着けている拘束具の9割を取っ払ったミカゲの気配を目の当たりにしても動じないとか、ちょっと信じがたい状態になっているよな?と、何度もコレットの顔をマジマジと見ていたセレスだったが、もしかするとこの鈍感さがミカゲにとって救いになるかも知れないと思っていた。

そんな当のコレットと言えば、

「え!?いきなり何ですか?身体や心・・・ですか?特に変化と言うか別に何も無いですけど?」

と返信してきたので、これは確実に普通の人間とは違う感性を持っているかまたは、本格的に感覚器官が麻痺している可能性があるとセレスは判断した。

 とりあえず、今は何も出来ない礼拝堂側のメンバーだったので、セレスはミカゲの正体の気配だけでソルフゲイル軍が撤退してくれる事を祈って戦況?を観察していたが、案の定~ミカゲの恐るべき気配に戦慄したソルフゲイル軍が、恐怖のあまり戦意を喪失して散り散りになって逃げていくと言う~面白い様を見られたので、それだけでも拘束具を外した価値はあった・・・・と思う事にした。

この光景を共に見ていたコレットは、

「何かソルフゲイルの人達、何にもしないで逃げて行っちゃいましたね~?何故なんでしょう?」

と、のほほんな雰囲気の日常を思い出させてくれる反応を見せてくれたので、実は異様に肝が据わっているだけなのか?とセレスは思ったりした。

 コレットは規格外の鈍感?女子と言う事が判明したが、真っ先に自分の本性を見られたくなくて礼拝堂の中に駆け込んだグレアラシルは?と言うと、礼拝堂の一番奥のパイプオルガンが置いてある場所で縮こまって佇んでいる。

ミカゲの重圧に慄いたのか?それともただ単に自分の正体を見られたくないからなのかは分からないが、あんなに威圧しながら追って来ていた姿を思い出せない程に、怯え切っていた。

その姿を見たセレスは、

「おやぁ~?グレアラシルさんよ?そんな所に縮こまってどうしたよ?お前の巨躯からだはそんな所にすっぽり収まる様なモノでも無かったろう?」

と言いながら、グレアラシルの服の端を掴むと、ほろほろと良く煮込んだ肉が崩れていくかの様に服が地面に散らばった。

セレスは、一瞬驚いて一歩後ろに後ずさったが、もしかしてこれが本性を現している時の状態か?と思い、服の先に居る小さな毛玉を「むんず」と掴んで引っ張り出した。

 引っ張り出した毛玉は、小さなウサギのような姿をしていた。

ウサギの様だが、顔立ちは犬の様な雰囲気を醸し出していたので、これはもしやラビットウルフと呼ばれる小型の狼なんじゃないか?と気が付いた。

当の本人であるだろう~小さな狼の姿に変貌したグレアラシルは?と言うと、あの巨躯からは想像出来ない程に小さなケモノの姿に変貌した今の状況にミカゲの重圧が加わって、ほぼパニック状態になっていた。

「嗚呼あああ~!!参ったーー・・・なるほどね、と言うか、前に見た時はおぼろげだったけど、こんな状態だったとは!確かに、この姿を見られたくないから、ライカンスロープなのに月夜の日の仕事を拒んでたって訳か。」

セレスは笑いながらも、でもあまりにも気の毒な姿をしているグレアラシルに対して、同情と言うか哀れみと言うか複雑で微妙な感情を抱きながら、そのウサギの様な狼の毛玉を抱きかかえた。

抱きかかえたまま床に落ちた服を拾い、コレットの居る結界近くまで戻って行く。

すると、セレスが何かを抱えて戻ってくる様子に気付いたコレットが、セレスの方に向かって走ってきた。

「わぁぁぁああ~!可愛い!!どうされたんですか?この子は??」

と、無邪気に訊いてくるのでセレスは、

「ふっふっふっふ~!驚いた?コイツは何とあの、コレットを執拗なまでに追いかけまわしていたグレアラシル君の本性ナリ~~!!」

と言って、抱きかかえていたウサ狼を脇の下から持ち上げた。

グレアラシルと思しき毛玉は、涙目になってふるふると震えていて、知らない人が見たらセレスがこの生き物をイジめている様にしか見えない光景になっていた。

「セレスさん・・・・・・何かグレアラシルさん、可哀そうですよ・・・・」

コレットが同情して、セレスの行いに不信感を抱いた。

 このままだと、セレスは小さい生き物をイジメる駄目な人!?と言う認識を持たれてしまうのか?と察し、ウサ狼を地面に下ろす。

そして、小脇に抱えていたグレアラシルの服を、元の姿に戻った時にちゃんと着用していられるような状態になる様に、ウサ狼に被せた。

「よし!これで毛玉から人間に戻っても、全裸を免れるだろう~多分!」

と、今までの行いを強制的に払拭ふっしょくするかの様に言い放つとコレットに、

「少し離れていた方がイイ、時期にコイツは元に戻る。」

と言って、3歩程後方に離れた。


 ボワン!


 離れてほんの数分の後、小さな爆発音と共にグレアラシルの身体から煙の様なものが立ち込めると、周囲の目を眩ませる程の光が放たれた。

煙と光が収まると、ウサ狼の居た場所には大きな身体の男がポツンと立っており、セレスが気を利かせて服を被せたお陰か、全裸ではなく割と的確に服を着た状態で戻っていた。

その様子をコレットは、目を丸くしたまま口を開けて放心状態で見つめていた。

そんなコレットを目の前にしていたグレアラシルは、恥ずかしさのあまり赤面して、まるで少女の様に両手で顔を覆った。

「よ!おはよう~グレアラシル君。驚異のライカンスロープがまさか・・・・とは驚いたよ。所で、体調はどうだね?」

と、苦笑いをしながら訪ねるセレスにグレアラシルは、

「俺・・・・・姐さんの所にお婿に行きます・・・・」

と言って泣いた。

「はぁ!?!!」




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