ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第一章 ライカンスロープとの決戦

第10話 本当の敵は

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 グレアラシルが恥ずかしさのあまり礼拝堂遺跡の中に駆け込んだのを確認したセラスは、このトトアトエ遺跡群に元々かかっていた的な結界を、普段よりも強固にかけなおした。

そして、

「はいはいはいはい!!コレット!、アタシもアイツに続いてあの礼拝堂の建物の中に入るんだ。」

と言いながら、コレットの背中を押す。

コレットは、強引に自分をあの建物の中に連れて行こうとするセレスに疑問を抱いて、

「セレスさん!何でミカゲは置いて行くんですか?!」

と、詰め寄った。

セレスは、コレットがミカゲに固執する理由が良く分からないと言うか、もしかしてこの子は感覚器官が愚鈍なのかな?とか思いながらも、とりあえず素人に説明するかの様に、誰でも分かる様な簡単な言い回しで説明する。

「イイかい?さっきも少し感じたかも知れないが、アイツはタダの小娘じゃない。普段はその力が強大過ぎるので力の封印も兼ねた拘束具を付けていないと、普通に街で暮らせない様なヤツなんだ。それを、さっき一つ威嚇のためとは言え、外してしまった。しかも更に、これから来るって言うソルフゲイル軍に対しても、更なる威嚇のために拘束具をあと2つは外してもらおうと思ってるんだ。」

そう言って、一つため息をついた。
これで理解してくれない様なら、コレットは魔法が使えるだけのポンコツだ、とセレスは思っていた。

当のコレットは?と言うと、少しの間考えている間の様なものがあったが、首を横に2~3回振った後口を開いた。

「はい、分かりました。ミカゲは何か凄い力を持っていて、これから来るソルフゲイル軍にも対抗しうる力を持っているから、私達が逃げて隠れ続けて居られる様に、おとりとして残る・・・と言う事ですね。」

そう言いながらセレスの目を見据えた。
セレスは、何だ分かってるじゃん?と言いたげな目をコレットに向けた後、

「そー言う訳だ、だから急ぐんだ!ソルフゲイル軍はね、もう結構長らくアタシを追い詰めたくてウズウズしていたと思うんだよね。今回派兵されているメンバーは、アタシの魔法を警戒するあまり、かなりの高位の対魔法戦を想定したメンバーを連れている可能性がある。そいつらとアタシが正面切って相対したら、アタシは多分早々に投降する事になるんだよね・・・・」

と言いながら、礼拝堂の中に入った。
続いてコレットも中に入る。

 礼拝堂の入り口のドアは壊れて、完全に封鎖する事が出来なくなって使えなくなっているのでセレスは、更にソルフゲイル軍に感づかれない様に新しい別の結界を張り始めるが、完全に結界が閉じる寸前にミカゲに最終指示を与えた。

「と言う訳だからミカゲ!拘束具はあと2つは外していいから!!今すぐ!!」

と、叫んだ後、完全に礼拝堂は外との行き来を絶たれる程に強固な結界が築かれた。

ミカゲの状況を見る事は出来ても、ミカゲに何かしらの言葉をかける事は一切できない状態になっていた。

拘束具を外して良い!と言われた当のミカゲは、あと2つは~のくだりがあまりよく聞こえなかった様で、角のもう片方の拘束具を始めに、次には両腕の腕輪のアクセサリーの様な拘束具も両方外し、更に両足に付けていたモノも外して地面に放り投げた。

放り投げられた拘束具は、先程の角の拘束具の時と同様に、ミカゲの手から放物線を描きながら地面に落ちた後は、鈍い音を立てながら地面にジワジワと沈み込んで行った。

その様子は、もうあと数メルトの距離に来ていたソルフゲイル軍にも察知出来る様になっており、目の前に佇む亜人風の少女の気配が尋常ではない生命体のモノになっている事に、かなり戦慄を感じていた。


「全体~止まれ!!」

 ソルフゲイルの軍勢が、先頭に立つ隊長らしい者の指示でその場で止まる。

ミカゲまでの距離をかなり取って止まっていた。

隊長らしき男は軍勢をその場に待機させて、とりあえず自分だけ先行して相手の様子を見てくると言い残し、一人ミカゲの近くに歩み寄ろうとした。

所が、歩み寄ろうとするその足が、全く動かなかった。

何か、足の動きを遅らせる魔法でもかかっているのか?と、待機を命じられた軍勢のメンバーは思っていたが、そんな 生易しいモノでは無かった。

隊長らしき男の足の前に進もうとする足の歩みを止めていたのは、そう言う魔法でも何でも無くて、ただのその男の恐怖心から来るモノだったのだ。

隊長があまりにも戦慄し過ぎているのを見かねた隊のメンバーの数人が、隊長に自分らが見て来ますよ?と言って隊長の前に歩み出ようとするも、彼等もまた隊長と同じ様に足がすくみ、前に進む事が出来なくなっていた。

「これは・・・・マジでヤバいっすよ・・・・アイツ、あの小娘一体何者なんすかね・・・・」

 ミカゲから滲み出て来る気配は、ドロドロとした憎悪の様な混沌とした世界への入り口を開いてしまった魔界の使者の様な、そんな雰囲気をソルフゲイル軍の全員が感じ取っていた。

セレスの予想通り今回は、対魔法戦に長けている者が多かった所為か、このドロドロした気配を持つ目の前の亜人の少女の正体について、少々知識のある者も居た。

「俺・・・昔祖父に聞いたんですがね、まだこの国がトトアトエ・テルニアだった頃、この国の王が使役していた竜の話を思い出したんすよ。王が使役していた竜は、何でも魔界の王の影武者もこなせる程の実力者で、その本体は大きな山と同じ位の巨体の竜だって聞いた事があるんすよね・・・・」

と言いながら、博識な者は涙を流していた。

あまりの恐怖と戦慄と威圧によって、精神が崩壊しそうになっていた。

つまりミカゲは、この博識君の説明通りなら、魔王の影武者『御影みかげ』の竜と言う事になるのだろう。

 そうして、ミカゲの正体?らしき情報が派兵されてきたソルフゲイル軍の面々に伝わる頃には、彼らの戦意など消え去り、早くこの場から撤退する方法を模索するに留まる、ただの一般市民の様に成り果てていた。

「ひっ!!ひぇぇぇぇええええーーー!!!」

隊の一人が恐怖感に耐え切れず、一人この場から走って撤退して行った。
他のメンバーも、誰一人そいつを臆病者!とののしる事もなく、むしろそれに習う様に続々とその場から全速力ともいえる速度で走って街の方に逃げ去って行く。

隊長らしき男は、その場で足がすくんで動けなくなっていたが、隊長に歩み寄っていた数人に支えながらその場を後にした。

進行してセレス一味を一網打尽にしてやろうと目論んでいた軍勢は、アリの子を散らすように散りじりになりながら撤退して行った。


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