みったろくん!

みやの

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とどのつまりセフレでしかない。

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side 佐光


「いやぁほんとレアだわ、佐光が飲みに乗ってくれんの。お前マリコちゃんとしか行かねぇだろ?」

目の前で焼き鳥をむしゃむしゃ食う声のでかい男は、俺の昔の同僚の、志場(しば)だ。
同じ店で彫り師をしていたが、俺がその店を辞めて以降連絡はあったけれど、飲みには行かなかった。

「最近マリコちゃんが、"佐光ちゃん、またイケナイコトしてるのよ"って怒ってたけど、お前今度は何したの?」

あの口軽女、クビにしてやろうか。

「……別に」

「なァ~教えろよォ~!! 俺にもやらしてよ! 今度はどんな子? ツンデレ系? やんちゃ系?」

だから飲みに来たくなかったのだ。

志場という男は、俺と仲がいい時点でわかる通りコイツの趣味はマジで良くない。性癖は《寝取ること》。
特に俺のセフレに手を出すのが好きなので、よくちょっかい出してくる。

俺は別にセフレに独占欲は湧かないのでとられること自体はどうでもいいんだけど、コイツはセックスプレイは多分俺より悪趣味で、セフレが再起不能になるまでやり続けだりするから、俺の分がいつもなくなってしまう。

しっかり回せと言うのに、自分のところで終わらせてしまうし、仕舞いにゃセフレのトラウマになったりしてるらしく、俺の所に来る頃にはセックスなんてとてもできない状態になっている。

コイツがどんなプレイしてるのか、聞きたくもないし興味もないけど、……今までのセフレみたいに琥太郎を乱雑にして欲しくない。

琥太朗は今日のエネマグラを見て、真っ青になってたし、普段ならワガママとかお強請りとかしないのに、早く帰ってこいと言ってきた。

……多分、相当苦手なんだろう。

だからと言って情けをかけてやるわけがない。
金払って買ったんだからしっかりないてもらわないと困る。

「……佐光ぅ~、俺も混ぜてぇ~? いいじゃん、セフレの話だろぉ? もう酷くしないからさぁ~」

おねがーい、とキラキラした目で見てくるので、心底ウザったい。

「お前の"酷くしない"ってセリフほど信用できないものは無い」

言ってやれば志場は「ちぇー! 珍しく超ケチ!」と言ってきた。

志場は俺が言うのもなんだが、別にモテない容姿ではないと思う。
むしろ、一般的にはモテるんじゃないか。

小麦肌で、健康体、筋肉がついていてガタイもいいし、俺より背が高い。顔も爽やかな部類だ。

……まあ、顔以外に入った刺青達が無ければの話だけど。

「いいなぁー、俺も新しい玩具欲しいー」

「……」

カチッとタバコに火をつけて吸いつつ、ぼーっと携帯の時間を確認した。

そろそろ、1時間半か。
琥太朗生きてるかな。

「なぁ写真見してよ、写真! お前の好み、俺の好みでもあるしさ、そんだけ渡したくないってことは、お気に入りなんだろ? めっちゃ可愛いってことだろ!? 胸デカイ? 男? 女?」

あーーー……うっぜ

「……撮ってねぇよ」

「えー!! ハメ撮りもしてないの!?」

デカい声で言うセリフじゃないな。
居酒屋でうるさいはずなのに、一瞬俺らの席の周りだけ静かになった。

さて、そろそろ出るか。

家に着く頃には2時間放置くらいにはなるだろう。

「……なぁ俺、お前でも良いんだぜ? 佐光」

立ち上がろうとした腕を掴まれ、そう言われる。

「前から言ってんだろぉ? 俺はテメェが選んだ人間も好みだが、おめぇが1番好みだって。その面、泣かしてぇんだわ」

志場が掴む手に力が入り、みしり、と骨が軋む。
僅かに顔を歪めれば楽しそうに覗き込んでくる志場。

「……俺はもうネコはやんねーの」

振り払えば志場は簡単に手を離した。

志場から誘ってきた飲みだから勿論コイツの奢りだと思ってるし、1円も出す気は無いので、酒も飲んだし飯も食ったけど会計伝票なんて見ずに店を出た。

「……チッ……そろそろいけっと思ったのになぁ……」

1人の男の醜い欲望が吐き出されたことに、今はまだ誰も気づいていなかった。







志場の気持ち悪い顔と声とセリフを上書きしたくて、早々に帰宅した俺は、寝室に居る琥太朗に「ただいまー」と声をかけた。
部屋のドアを開けた時、想像していた匂いとは何か違う臭いがして琥太朗にゆっくり近寄った。

琥太朗はぴく、ぴく、と震えて虚ろな目でまだ感じているようだった。

「……あらら、吐いちゃったの? 琥太朗」

臭いの正体は琥太朗の嘔吐物だった。
ビシャビシャと2、3度吐いたのか、汚れの量と箇所が1度のものでは無さそうだった。
ヒューヒュー、と苦しそうにしている琥太朗が、可哀想で可愛くて、俺の息子が反応してしまう。

本当は目いっぱい甘やかしてドロドロに抱くつもりだったけど、こんなに吐いてちゃ多分もう快楽よりも苦痛が勝ってるんだろうな。

俺は荷物をそこら辺に置いて袖を捲り琥太朗の頭を撫でる。

「あ゛ッう……ッ」

頭を撫でるだけでさえ、ビクリと震え、ボロボロ泣いた。

あー……これは完全にやり過ぎた。

ひたすら苦しそうな琥太朗に手を伸ばして無理やり抑えた。

「あ゛ッや゛!! やらぁ!!! やらぁッ!!!!!」

何故かバタバタと暴れてボロボロ泣く琥太朗を不思議に思いつつ、グッと足を広げてやると、「あ゛ひッ!?」と喘いでまたビクビクとドライでイッたようだった。

ああもうこれは、何されても気持ちよくなっちゃってるのね。

どうしても足をばたつかせるので琥太朗にキスをして、聞こえるように耳元で話す。

「……琥太朗、ただいま。ごめんね、ちょっとやり過ぎちゃったね、今取ってあげるから大人しくして」

そう言うと、琥太朗はパクパクと口を動かした。

「え? なに?」

耳を寄せてきくと、

「……ゃら……さみ、つ、さ……とっ……らめ、って……とら、……な、ぃ……で……」

……俺がとっちゃダメって言ったから、取るなって?

いやいや俺が取ったげるっつってんのに馬鹿かこの子は。

……もしかして、俺が佐光だって分かってない?

「……琥太朗? 俺が佐光だよ。……あれ、手血だらけだ。お前、噛んだの?」

琥太朗は「う、ぁ」と小さく呻きながら僅かに頷いた。

「自分で取っちゃわないように我慢したんだ」

もう琥太朗は聞こえてないのか、押さえつけてる俺に擦り寄って、はふはふ、苦しそうに呼吸していた。

「……取り敢えず、一気に抜くから暴れんなよ」

より一層強く押さえ込み、エネマグラを一気に引き抜いた。

「ッあ゛ぁ゛あ゛ッい゛ぐッ!!」

ビクンビクンッと大きく跳ねて空イキした琥太朗はそのままパタリ、と俺の腕の中で意識を失ってしまった。

琥太朗のケツの穴はクパクパしていて、ちょっと出来心で触れたら、ビクリ、と体が震えていた。


「……よく頑張ったね」


なんとなく、ぎゅ、と抱き締めてやれば、ほんのり安心した顔になったような気がした。






「こたろー、こたー……ごめんって」

琥太朗はベッドで俺に背を向けて微動だにしなくなってしまった。

あれから気絶した琥太朗を風呂に入れ、ゲロまみれの布団を片付け、換気し、琥太朗を無理矢理起こして水を飲ませて睡眠薬で眠らせてやった。
そして、翌朝起きたらコレだ。

「ねぇ悪かったよ。今回は俺が悪いよね、ごめん」

そっと背中に触れてやれば、ビクッと大袈裟に震えてガバりっと布団を頭から被って篭ってしまった。

今日は午後から施術があるから午前中は休みだけど、午後は琥太朗についててやれない。

今のうちに機嫌直して食べられるもの食べて午後はまた薬飲ませて眠らせてやりたいんだけど、琥太朗は全然俺を拒絶して顔を出してくれない。

「……ねー琥太朗。俺もうそろそろ仕事なんだけどさー。流石に心配だからみてくれる人呼ぶね」

そう声を掛けて、心底嫌だけどメッセージアプリを開いて文字を打った。
こういう時、自分の性格のせいで気軽に頼れるのがああいうのしか居ないと困るな、と初めて人間関係に不便を感じる。
すると、ガバッと勢いよく起き上がった琥太朗が俺に強く抱きついてきた。

「……琥太朗? ごめんね」

首に抱きついてくる琥太朗が少し震えていて、余程嫌だったのだと改めて知り、流石にちょっと罪悪感だった。
両手も肘下の腕まで包帯が巻かれていて、本当に頑張って耐えてくれたのだと知る。

いっその事、縛ってあげた方がラクだったかもね。

「……琥太朗。怖かった? つらかった?」

気づけば琥太朗は、俺の肩口でひぐひぐと泣いていた。
ぐすぐすと静かに泣く琥太朗は、癇癪以外では初めてでどうしたらいいか分からない。

「……琥太朗、ぎゅうしよう」

膝の上に乗せて抱っこし、頭を抱えて抱き締めてやれば声を押し殺すように泣いていた琥太朗は、僅かに、「……ひっ、さみ、さん……ッひぐっ、」と俺の名を呼びながら泣いていた。

「なぁに?」

俺史上最高に優しく聞いてやれば、琥太朗はしゃくりあげながら言葉を紡いだ。

「……ひぐっ……きょ、う……っ、いか、な……で……っ」

「え」

琥太朗が、またワガママ言った……

「いかな、で……ッ、しゃみつ、さ……ッ、」

顔をぐしゃぐしゃにしながら震えて縋ってくる琥太朗。
なんで俺にいて欲しいんだ? 怒ってたんじゃないのか?
俺がお前を泣かせてるのに、お前はなんで俺に縋るんだ?
分からない。
今までのセフレは目をハートにしてもっと、と言ってくるか、怒って出て行ったりだったから、琥太朗の反応の意図が分からない。

「……琥太朗。でも俺仕事だから」

「……っ! ……ご、め……なさ……っ、ごめなさいッ……~ッ」

えー、こたろー悪くないじゃん、なんでお前が謝んの。
益々訳が分からなくて混乱した。
なんなのこの子、めんどくさい。

……てかコイツちょっと体熱くない? もしかして熱出てんの?

珍しくちょっと焦り、琥太朗のデコに手を当てるとジリジリとした熱を持っていてびっくりした。

「琥太朗、お前熱あるね」

「……ね、つ……?」

潤んだ瞳で見上げてくる。頬は紅くて、息も荒い。
うんこれは、熱だ。完全にやらかした。
ベッドから起き上がらなかったり動かなかったのは、熱が出ててだるくて動けなかったのか。
こうやって珍しくワガママ言ってきたのもボロボロ泣いてるのも熱で情緒不安定なのか。
全部に納得がいった。

「琥太朗、今日はゆっくりしな。家事はしなくていいよ、汚れてないし」

そう声を掛けて頭を撫でたけど、いつもの笑顔の琥太朗は居なかった。

俺は手早く携帯を操作し、ある人物にメッセージを送ると即既読がつき、返信が返ってきた。

《志場:まじ! すぐ行く! (ハート) 》

借りは作らない主義なんだけど、まあ今日は自分のせいなので仕方がない。

「琥太朗、俺は予約あるから休めないけど、代わりの奴呼んだから」

そう声をかけると、琥太朗はボロボロ泣き出してしまう。

「……えー……なんで泣くの……」

はぁ、とため息を吐くと琥太朗はビクリと肩を揺らした。

「流石に何もされないと思うけど、ソイツが来るまではお前の所に居るから」

こんなので気休めになるのか知らないけど、そう言ってやれば琥太朗はこくん、と頷いて擦り寄ってきた。

まるで犬だな。















「何この子ちょーーー可愛いじゃん!!」

「俺今日は20時上がりだから21時ぐらいに帰る」

「俺、志場!! よろしくね、琥太朗くん!!」

「志場、うるさい。話聞きな」

絶対こうなると思った。
志場は目を輝かせて琥太朗を見る。
琥太朗は苦しそうに呼吸しながら、俺に縋ってきた。

「お前を呼んだのはコイツの看病の為だから。勘違いすんなよ」

「わーってるよ、ねぇ琥太朗くん」

志場は琥太朗を可愛がろうとするけど、琥太朗は何故か持ち前の明るさを見せない。
……と言っても、熱があるんだから当たり前だけど。

「琥太朗そろそろ離して。仕事行くから」

しがみついて来る琥太朗の腕を掴むけど、いやいやと首を振る。

流石にイラッとして、「琥太朗」と強めに言うと、ぴくっと反応した。

「ワガママ言わないで。仕事だって言ってるでしょ」

そう言うと琥太朗はおずおずと手を離して、俺の事を恐る恐る見上げた。

「おーおー怖いねぇキミのご主人様は」

ここぞとばかりに志場は琥太朗の頭を撫でる。
心做しか琥太朗の元気が一気になくなった気がする。
まあそれはそれで別にどうでもいいや。
どうせただのセフレだし。

「じゃ行くから。よろしく志場」

「おー、いってらぁ~」

ひらひらと手を振る志場を見て俺は寝室から出た。




……まあ帰りに琥太朗の好きな物でも買って帰るか。




[newpage]



[chapter:side こたろ]


ぱたん、と扉が閉じて佐光さんが行ってしまった。
……怒られた。
佐光さん、怒ってた。殴られはしなかったけど、怒ってた。
じわじわと視界が歪んで鼻がツンとした。
佐光さんに会いたい、佐光さんがいい

頭の中それでいっぱいで徐に起き上がった。

「お? どうした琥太朗くん。トイレ?」

俺を看病に来てくれたのは志場さんという人だった。
志場さんは明るくて爽やかでニコニコしてて良い人そうに見える。
でも何だかあんまり好きとは思わなかった。

とりあえず佐光さんのとこ行きたい。
まだ出てないと思う。
玄関の音しないし、俺がしがみついてたからまだ仕事の準備してないと思うし。
よたよたと歩くと、志場さんに捕まる。

「だぁめ、どこ行くの? トイレなら連れてくよ」

「……はなして……といれじゃない……」

そう言うと、志場さんは「じゃあどこ行くんだ?」と首を傾げてくる。

「……さみつさんのとこ」

志場さんはケラケラ笑って、俺の腕をグッと強く引いた。
その力が強くて、思わず床に倒れ込んだ。

「ダメだよォ~琥太朗くん。佐光は仕事だっつったでしょ? 俺とここに居よう」

佐光さんに会えない……

そう改めて認識したら寂しさが爆発して、ポロポロ涙が溢れてきた。

「え!? なんで泣くの!? 腕痛かった!?」

俺の涙に志場さんはオロオロする。

「……っひぐ、しゃみつさんに、あ゛い゛た゛い゛~ッ」

わんわん泣くと志場さんはヨシヨシと頭を撫でてきた。

「しゃみつに会いたいかァそっかァ~」

この人に撫でられてもこの人は佐光さんじゃない。

佐光さん21時に帰ってくるって言ってた。

21時までがまんする。

─……ワガママ言わないで。

佐光さんの声が頭にひびく。

分かった、ワガママ言わない。
言わないから早く帰ってきてね。

「よーし琥太朗くん、俺が看病しちゃる!! 何食いたい? てか食える? 熱計った? ってか冷えピタも貼ってくれてねぇの? アイツ本当鬼だなぁ~」

志場さんは、でも、セフレに看病つけるって初めてだな、なんて呟いていた。

「んじゃコレで熱計って音鳴ったら見してな。冷えピタも今持ってきてやる。スープとかなら食えそう?」

志場さんは俺をお姫様抱っこして再びベッドに戻して優しく、寝かせてくれた。

志場さんの問いに、こくん、と頷く。

「おっけ、じゃあ作ってくるな」

わしゃわしゃと撫でてくれる佐光さんより雑で大きな手がちょっと心地よくて目を細めた。

寝室から出ていった志場さん。
しまったドアを見つめていつの間にか眠ってしまっていた。
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