Rye.

みやの

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雨に暴かれる様すらも滑稽である。

第9話

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今にも泣き出しそうな空である。
……と、誰が初めに言い出したのだろうか、キザな奴だな、と曇った夜空を見上げて日野は思った。

「ねえ日野くん、この後どうする?」

大学のコンペという名の合コンに連れて行かれ、何故か1番ハキハキとした姉御肌らしい1個上の女の先輩が日野の腕にまとわりついたまま解散となった。日野と女の先輩を見送る他のサークルメンバは何やらニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。先輩は僅かに頬を赤らめながら日野を目だけでちらりと見やる。

「あーどーしますかねー。終電あるんスよね、俺」

正直、日野はこういったことは苦手だった。否、恋人が居なかったわけではない。高校の頃は3人と付き合った事があるし、大学入ってからもこの間別れた子で2人目だった。ただ日野の好みは、「奥手でいじらしい女の子」であって、こうも大胆にこられると興が冷めてしまうらしい。何とも我儘な性格だと自負しているが、こればかりは致し方がない。全く反応を示さない息子を見せて諦めさせるか、このまま無理にでも終電に乗せて物理的に距離を離させるか、何やらぺちゃくちゃと話している先輩をまとわりつけたまま暫く適当に歩いていると、ふと先輩が呟いた。

「……ここ、ホテル街、だね」
「あー……」

めんどくさかった。
やる気は初めから無いのだ。確かに胸は大きいかもしれない。尻もそれなりにボリュームがあって、上に乗ってくれたら柔らかくて気持ちがいいかもしれない。けれど、楽しげに活き活きとセックスする女性を好きにはなれない。恥ずかしがって欲しい、本気で。難儀な性癖を持っている日野の歴代の彼女は全て日野から押しに押して押して押しまくった子達ばかり。初めは日野の強引さに惹かれるものの、結局怖気付いて別れを切り出されるいつものパターンだった。でもこの先輩はきっと違う。多分自分と同じ猛獣タイプなのだ。仕留めたい、そんな圧がガンガンくる。

「ごめん、先輩。俺かえ─……」
「日野くん?」

帰る、そう言って腕を離そうとしたその時、日野の視界真ん前に見知った顔があった。
その人物は、乱暴そうな男に引っ張られ、安っぽいショッキングピンクのラブホテルの看板の下を連れられて行く。
え、あれって─……

「ねえちょっと日野くん?」
「ごめん先輩。まじ今日無理だわ。ってか俺先輩のこと好きじゃないの。用事出来たから1人で帰って、ごめんね」

あ、これタクシー代。危ないから車で駅まで行ってね。

そう言って日野は先輩を置いて走りあと少しで入口を通過してしまう見知った人物─……行光の腕を掴んだ。
驚いた行光が日野に顔を向けると、行光の右の口端は切れ、左目の下も青あざと擦り切れた傷があった。
目を丸くしてかたまる行光に日野は努めて優しく微笑む。

「俺ん家行こう、行光」
「……っぇ、」

掠れて声が出しづらいのか、僅かに溢れた音を聴きとる。

「行こう行光」

無理に引っ張ろうと手首を強く掴むと、行光はびくりと大袈裟に肩を揺らした。日野はその様子にさらに強く行光を引っ張り、行光を掴んでいる男から引き離して行光の肩を抱いた。

「今日俺コイツと約束してたの、すっげ忘れてたんすわ。借りてって良いっすか」

行光を掴んでいた男はよくみると美麗な顔をしていた。首から鎖骨にかけて刺青が入っており、煙草を加え、伸ばしっぱなしの髪は後ろで乱雑に束ねられている。
線が細く、日野よりも華奢な男だった。
男は表情を変えずに、殴り傷のある指で煙草を挟み、口から離す。

「……良いけど、今助けても後で痛いのはソイツだぜ」

その言葉に行光は「あ、」と何かを話そうとした。悪いが今、お前の言葉を待っていられる余裕は無い。お前をこんな汚い所からすぐに引き離したい。

あんなに綺麗だったお前は今でも綺麗だから。


「……行くよ、行光」


日野の低い声は、行光を突き動かすには十分だった。


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