Rye.

みやの

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雨に暴かれる様すらも滑稽である。

第8話

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あの時も今も、どうしても行光の笑顔は泣きたい気分になってしまう。切ない。持って行き場の無いような気持ちになる。

「……ねえ、ひの、……おれ、帰るね」
「え、な、なんで!!」

思わず咄嗟にグイッと行光を引っ張ってしまい、行光は「わ、」と声を出しながらぽすんっと日野の胸に倒れ込んだ。日野はこれ幸いとばかりに行光を抱き締めて、逃がすまいとする。
夕は何故こんなに何度も抱き締められたり、帰るのを止められるのかとはなはだ疑問でしか無かったが、とりあえず腕を突っ張って抵抗した。意味は無かった。

「……ひ、日野……お、おれかえる、かえりたいっ」
「……なんで」

「な、なんでも!」
「やだ」

だ、駄々っ子だ……。
いつも大人っぽい日野が何でか今は駄々っ子だ。
でもどうしよう、そろそろ帰らないと那津が帰って来てしまう。
夕飯を準備しておかないと、日野が手当てしてくれた意味がなくなってしまう。

「……日野、おねがい」

懇願するように、日野のお腹のあたりのシャツを、きゅっと掴むと日野はゆっくり渋々といった様子で顔を上げてくれた。見せてくれた顔は拗ねているように見えて、夕は、くすり、と笑ってしまう。

「……また、絶対家来て」
「え?」

小さい子供のように強請る日野に驚きつつ聞き返せば、日野は僅かに口を尖らせる。

「メールもちゃんと返して。一言二言じゃなくて。あと、痛い事されたら辛くなくても俺に言って。朝でも昼でも夜でもいつでも構わない。すぐ、行光のところに行く」
「え、え」

何故そこまでしてくれるのか、という言葉は日野によって本日3度目、飲み込まれて行った。

「俺との約束。出来ないなら離さない」

獲物を捕らえる鋭い視線に行光は早々に根を上げたのだった。


「だ、だからそういうのずるいんだってば……!」

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