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第4話 彼の家族

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お腹が満たされた私は、いつの間にか眠っていたようだ。

トントン

扉を叩く音で、パチッと目を覚ました。

「リリー、入るぞー。そろそろ落ち着いたか?
オヤジもオフクロもパン屋で働いてくれるのなら大歓迎だとよ。
この部屋で暮らしていいと言ってたよ。
うちの家族が君に会いたがってるんだが… 夕飯を一緒にどうだ?」

リュカが聞きに来てくれた。

「うん、是非。
これからお世話になるんだもん。
紹介してもらえると嬉しい。」

嬉しくて、安心して、顔が自然とほころぶ。

「おいおいリリー。
その顔は勘弁してくれ。
俺をどうするつもりなんだ…
まったく。」

リュカについて食堂へ向かう。
あー緊張する。
ドキドキする。
何としても気に入ってもらわないと。

私には帰るところがない。
せっかく手に入れた居場所を手放してなるものか。

彼に促され、入った食堂には、
ガッチリと大柄なおじさん。
少しふっくらした優しそうなおばさん。
私より少し年下かな?これまたキレイな顔の男の子が既に席についていた。

「お待たせてしてごめんなさい。
リリーです。
助けてくださりありがとうございます。
一生懸命働きます!
これからよろしくお願いします。」

一気に言って、ペコリと頭を下げる。

緊張したけど、何とか言いきったわ。

リュカを見ると、彼は苦笑い。

「リリー、そんなにかしこまらなくて大丈夫。
うちの家族が驚いてる。」

「ああ、びっくりした。
うちの息子がこんなに上品なお嬢さんを連れてくるなんて。
リュカ、どこでひっかけてきたんだい?
後で親御さんが怒鳴りこんで来たりしないだろうね?」

おばさんが大きなよく通る声で確認する。

「そうだぞ、リュカ。
うちは客商売だから、悪い噂が立ったりしたら終わりだ。
本当に大丈夫なのか?
まさか拐ってきたんじゃないだろうな?」

おじさんも心配みたい。

そりゃ、息子が得体の知れない女性を連れて来たら、心配だよね。

しかも私は意識を失っていたわけで…

はっ、リュカが私を運んだの?

意識のない私を?

重かっただろうな、重かったよね?

本当に申し訳ない。
縮こまって、もじもじしてしまう。

「オヤジもオフクロも…
ちゃんと説明しただろ?
道に彼女が倒れてたら放置するか?
放置できるか?
危険すぎるだろ。
俺が連れて帰らなきゃ、彼女はどうなってたか…」

「うん、確かにそうだね。
こんなキレイな子、悪いやつにみつかっていたら、家に帰れなくなってたかも。」

弟くんがリュカに同意し、頷いてる。

キレイな子?
私のことかー、ホントに?
恥ずかしい。

私は危ないところを助けてもらったんだ。

リュカがみつけてくれなかったら…
途端に怖くなる。

「あー、みんなあんまり大きな声を出さないでくれよ。
彼女がびっくりしてる。
まだ目覚めたばかりで混乱してるんだから。
そういえば、まだ紹介してなかったな。

オヤジのダン
オフクロのマーサ
弟のノア

これが俺の家族。
みんな騒がしいが、優しくて頼りになるぞ。
困ったら何でも相談するといい。」

「はい、よろしくお願いします。」

私が記憶喪失と知った彼。

私を「一目見たい。」「早く会わせて。」と騒ぐ家族を止めてくれていたらしい。

私がゆっくりと休めるように。

リュカ、イケメンなだけでなく、いい人だ。

***

パン屋の朝は早い。

起きたらすぐに顔を洗い、パパッと着替えて動き出す。

パンが次々と焼きあがる時間になると、用意されたスープとともに、おじさん曰く失敗作のパンを食べる。

失敗作とは言っても、店に出しても問題なさそう。

私にとってはホカホカ焼きたての美味しいパン。
これが毎朝食べられるなんて…
幸せすぎる。

おじさん、おばさん、リュカがパンを作っている間に、私はノアと一緒に使い終わった道具を洗う。

小麦粉の袋を結んでいたヒモが置いてあったので、マーサおばさんに聞いてみる。
「このヒモを1本もらっていいですか?」

「リリーちゃん、ヒモがいるの?」

「はい、髪をまとめようと思って。」

「そんなヒモを使わなくても…
確かバレッタがあったはず。
それを貸してあげるよ。」

「いえいえ、これで大丈夫ですから。」
長い髪をみつあみにして、クルクル丸めてまとめ、ヒモで結ぶ。

「そりゃ~、かわいい! 
そんな髪型は初めて見たよ。器用だね。
ただのヒモがオシャレに見える。」

「マーサおばさん、ありがとう。
そう言われると嬉しいな。」

店内を掃除したり、トレイやトングを並べたり…自分のできることをやっていく。

ノアは学校があるので、今から部屋に戻り、準備が終わり次第、出ていくそうだ。

開店時間が近づくと、店周りを掃除しに外へ出る。
ここでは店の外を掃除する習慣がないらしい。

「外まで掃除するのかい?」
おばさんに驚かれた。

「以前働いたパン屋では、お客さんに気持ちよくパンを買いに来てもらえるように、外もキレイにしてたんです。」

「リリーちゃんは本当に働いた経験があるんだ。
店周りがキレイなのは嬉しいね。
ありがとね。」

おばさんがニコニコ喜んでくれた。

おじさんも嬉しそう。

作業の合間に、リュカがお金の単位や会計方法を教えてくれた。

店頭では、私が慣れるまでは近くにいてくれるそうだ。

まずはパンを並べたり、トレイを片付ける仕事から始め、お客さんか少ない時間帯に会計をやってみることになった。

さぁ、いよいよ開店だ!
    
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