【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

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第37話 私の未来

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第三王子がカツカツと近づいてくる。
嫌だ、私のほうに来ないで。

ジルが耳元で話してきた。
「ごめん、王子の誘いは断れない。一曲だけ我慢してくれ。絶対に君を取り返すから。」

嫌だけど、確かに一曲は踊らないと断れない。
願わくば、別の令嬢を迎えに行って欲しい。

あーあー、来ないで、来ないて。
私の願いは叶わず、カツン
私の前で、足音が止まる。
「お嬢さん、私と踊っていただけますか?」

「はい。」
と答えて、差し出された王子の手に、チョンっと自分の手をのせる。
できるだけ触れる面積を少なくね。

すると、腰に手を回され、グイグイ引き寄せられた。
近くない? 近すぎて嫌悪感がわいてくる。
第三王子 ウィリアム様は、金髪に青い瞳の誰もが見惚れるイケメンだ。

普通の女性は見惚れるだろう。
わたしはナルシストが苦手。
見合いしたセドリック様にもそういった仕草が見てとれた。
ウィリアム王子もそうだ。
容姿端麗、しかも王族。
さぞかしチヤホヤされているのだろう。

踊りながら、やたらと話しかけてくる。
「はい。」と「いいえ。」で会話を打ち切り、何とか一曲踊り終えた。

疲れた。早く帰りたい。
ところが、ウィリアム王子は手を腰を離してくれない。
力業で離れるのは失礼よね…
どうしよう、二曲目が始まっちゃう。

「ツムギ、次は僕と踊っていただけますか?」
ジルが来てくれた。
安心して、嬉しくて…
「はい、喜んで。」
満面の笑みで、ジルの手に私の手を伸ばす。

えっ、離して。
ウィリアム王子が私の手をギュッと強く握りなおした。
こんなのあり? 


「ウィリアム王子、申し訳ありません。次は私の順番ですので、彼女を離していただけますか? 彼女は私の婚約者です。」

ん? ジル? 今、婚約者って?
私は聞いてないんですけど!

どういうことだと、ジルをみつめる。
「ツムギはまだ聞いてなかった? 先日 ラウンド家からキリノ家へ正式に婚約の申し入れを行い、了承されたんだ。今は王家の承認待ちだけど、反対されることはないはずだよ。」

ウィリアム王子がググっと拳を握る。

辺境伯と賢者が決めたこと。
たとえ王家であっても蔑ろにはできない。


王家の承認待ちってことは、第三王子は知っていて、婚約者とのファーストダンスを邪魔したの?

私たちの会話が聞こえる範囲に立つ貴族の顔が険しいぞ。
さすがにそれは…といった感じ?


ウィリアム王子は私の手を離して、どこかへ行ってしまった。

よかった…

止まっていた音楽が再開、二曲目が始まる。

ジルに優しく腰を引き寄せれ、彼のリードで踊る。
やはり彼の傍は安心する。

二曲目が終わっても、別の男性が声をかけてくることはなかった。

「ウィリアム王子はいい仕事をしてくれた。これで他の貴族も近寄れまい。」

ジルの笑顔が若干黒いような…
さては、こうなるとわかってた?

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