【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

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第35話 男爵令嬢

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私がなぜ貴族令嬢の教育をラウンド家だけでなく、スペイア家でも受けることになったのか。

それは…
私がいなくなり、寂しくて仕方がないとクリスティナ様が食堂へ押しかけるようになったからだ。

ゴードン夫妻の食堂は、貴族が集まる店ではない。
庶民が普段の食事を楽しむ場所だ。
クリスティナ様がいると、店内は一気に華やかになる。
でも、落ち着かない、とにかく落ち着かないのだ。

お客さんもガタンと扉を開け、彼女を一目見て、「間違えました。」と出ていってしまう。
入ってきたお客さんは、美人の貴族令嬢を目の当たりにして緊張するのだろう。
ガチガチとぎこちない動きで食べたり、上品に食べようとして失敗したり。

ゴードンさんの美味しい料理を楽しめていない。
これではダメだ。

クリスティナ様へ食堂には来ないよう伝えたが、「私もお客さんよ。」と言う。
確かに、彼女は食堂で料理を頼み、食べている。

彼女のような生粋の貴族に、庶民の料理は口に合わないのではとの心配は不要だった。
毎回 ワクワクした顔で新たなメニューを注文しては、私に感想を伝えてくれる。

今まで食べた料理は、どれも初めて食べる味で、こってりして美味しかったそうだ。
確かに、少しのおかずでパンをいっぱい食べるように濃いめの味付けだと思う。

私はどうしたらいいのだろうと悩んでいた。


私は午後だけ働き、午前中はラウンド家で貴族令嬢としての教育を受けることが決まっていた。

私は一応 キリノ男爵の娘だとのことで、父がジルに教育を頼んだらしい。

それを聞き付けたクリスティナは、
「ジルベール様だけずるい!!」
と抗議。

だが、ジルもキリノ男爵に教育を頼まれたのは僕だと引き下がらない。
キーっと牽制し合う二人。

私が見た初日のクリスティナ様。
あれは、何だったんだ。
あんなにジルベール様に甘えてたのに。
もうどうでもいいらしい。

どうも彼女にとってジルへの想いは、過去のことになったようだ。
私が以前お見合いしたセドリック様は、やはり只者ではなかった。
私が相手では、自分は跡継ぎになれないかもとあっさり切り替え、クリスティナ様を口説きにかかった。

まあ、クリスティナ様はかわいいし、切り替えて当然なのかもしれないけれど…

全くなんて男だ。
私は苦手だと感じたが、彼はスペイア伯爵が認めた男性。
頼もしい大人の男性に見えたのか…
しっかりクリスティナ様の心を掴み、婚約者に収まった。
未来のスペイア伯爵は彼で決まりだな。
全くあっぱれだ。

結局、私はラウンド辺境伯家とスペイア伯爵家へ交互に通い、勉強やレッスンを受けている。
私がスペイア家にいる間、クリスティナ様は常に私と一緒にいるので、食堂へ来ることはほとんどなくなった。

ダンスのレッスンは我が家でと、それだけは譲れないとジルが頑なに主張、勝ち取っていた。

ジルとのダンスは安心する。
ダンスは距離が近く、私にはかなり恥ずかしいもので抵抗がある。
それでもジルと踊る時だけは、恥ずかしい気持ちはあるものの、嫌な気持ちになることは一度もなかった。





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