【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

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第33話 これからの生活

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ずっと会いたかった賢者様。 
私が間違えられた賢者は、私の両親だった。
私の前から突然消えたのは…キーフォレスへ来ていたから。

自分の意思で来たのか、私と同じく迷い込んだのか。
聞きたいが、聞きたくない。
聞くのが怖い。

そんなことを考えていると、お母さんが目の前にカップを出してくれた。
濃い緑の液体。
鼻に近づけると、懐かしい香りがした。
湯気がたち、熱そうだ。
フーフーと息を吹きかけ冷ます。
一口飲むと、やはり緑茶だった。
久しぶりの緑茶に心弾む。

ジルは緑茶が苦手なようだ。
苦味があるからね。
子供だな~。

両親が私を引き取ると言い出した。
私は邪魔じゃないの?と嬉しい反面、今の生活も壊したくなくて…

ここは賢者様の家。
両親と一緒に過ごす為には、ゴードン夫妻、クリスティナ様、ヒューゴさん、そしてジルに簡単には会えなくなる。

頭を抱えた私に気づいたジルが
「彼女は混乱しています。考える時間が必要です。今日は一旦帰らせてください。彼女の気持ちが決まったらまた連絡ということでいいでしょうか?」

あー、私がこんなだから、ジルが代わりに言ってくれた。

「私はつむぎと話しているの。」
「お母さん、ごめんなさい。私はすぐに決められない。ジルが言ってくれたとおり、後で連絡させて。」

「つむぎ、どうして…」

「私には、大切な人たちがいるの。その人たちと離れてここで暮らすかどうか、すぐには決められない。」

「そんな…」
「ごめんなさい。お母さん。今日は帰るね。お父さんもそれでいい?」
「そうだな。つむぎにはつむぎの生活がある。ゆっくり考えなさい。もし別々に暮らすことになっても、いつでも遊びに来なさい。」
「お父さん、ありがとう。」
「あなた。せっかくまたつむぎに会えたのに…」
泣き崩れるお母さんに心が揺れる。

ジルに支えられて、私は両親の家をあとにした。
帰りも行きと同じ馬車で送ってくれた。
馬車では、隣に座るジルが、ずっと手を繋いでいてくれた。

途中、マルクスさんとも無事に合流でき、ひと安心。


食堂へ帰りつくと、おじさん、おばさんが手を止めて駆け寄ってきてくれる。
「ツムギちゃん、大丈夫だったかい?」
おはさんがギュッと抱きしめてくれる。

「おばさん、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫。今から働くね。」
「大丈夫じゃないだろ?今日は休め!」
「おじさん…ではお言葉に甘えて、休ませてもらうね。」

部屋へ戻り、ベッドへ寝転んだ。
天井をぼーっと見つめ、これからのことを考える。

すぐに結論が出るはずもなく、疲れていた私は、そのまま眠っていたようだ。
おばさんが「夕飯できたから、食べなさい。」と部屋に食事を運んでくれる。

食べ慣れたおじさんの料理。
今の私でも食べやすい優しい味の料理だった。
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