【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

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第28話 久しぶりの再会

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朝は久しぶりに早起きし、ゴードン夫妻とともに朝食を食べる。

おはさんに「心配したんだからね!」と言われ、馬車で連れ去られたこと、スペイア伯爵家に滞在し、お世話になったことを話した。

「ツムギちゃんが帰って来ないから、騒ぎになって大変だったんだよ。ヒューゴ様も来てくれてね…ツムギちゃんから手紙が届いても誰かに書かされたんじゃないかと心配で。」

あの辿々しい文章では伝わらなかったか。
逆に怪しかった?

「ツムギ!!」久しぶりに聞く声。
私を呼ぶのは…… 「ジル?」
キョトンてした私に、彼が駆け寄ってきた。
「ツムギ、怪我してないか?」
パシパシとあちこち触って確かめられる。
えっ、えー。

「怪我はないな? 大丈夫だな?」
「うん、大丈夫だよ。ジル、ありがとう。」
まさかジルが来てくれるなんて…

「ジルは? ジルは元気にしてた?」
「うん。元気だよ。様子を見に来ることができずごめん。突然居なくなって周りに迷惑かけたから、その分 頑張ってた。」

ジルは私の両腕をギュギュッと握ったまま。


視線を感じて振り帰ると、おばさんがニヤニヤしてた。
「ツムギちゃんの大切な人かい?」

ん? 大切な人?
そうなのかな? そうかもしれない。

おばさん、彼のことを覚えてないのかな。
私が初めて食堂へ来た時、彼と一緒だったのにな。

ヒューゴさん、マルクスさんも食堂へ入ってきた。
「ご無事でよかった。」
「ご心配をおかけしてすみません。」
ベコリと頭を下げる。


はっとしたジルが、私と距離をとった。
腕に残る彼の熱が消えていく。
寂しい、寂しいな。
旅の間は大変だったけれど、ジルと一緒で楽しかったな。

ジルは辺境伯令息。
遠い、遠い人。

マルクスさんが隣にやってきた。
「朝食後、担当者を呼ぶから事件のことを話してくれるか?」

「でも、仕事が…」
「ツムギちゃん、私たちは大丈夫。話してきなさい。」
「おばさん、わかりました。」


食堂向かいの警備兵の詰所で、事件の話をする。拐われた場所、馬車の色や形、覚えていることを思い出しながら…
恐怖がよみがえり、ガクガク、ガチガチと震える。
「大丈夫、大丈夫です。犯人は俺たちが捕まえますから。」
担当してくれた警備兵も食堂のお客さん。
力強い、安心できる。


食堂へ戻ると、ジル、ヒューゴさん、マルクスさんが待っていてくれた。
ジルが「大丈夫だから。」と頭を撫でてくれる。

ジル、ジル、ダメだよ。
そんなことされたら… もっともっと好きになってしまう。


みんなが帰り、いつもの食堂へと戻る。
おじさん、おばさんと開店準備を進める。

カランカラン
「いらっしゃいませー。」

「ツムギちゃん、無事で良かった。」
「おっ、ツムギちゃん、久しぶり。」
「ツムギちゃーん、会えなくて寂しかった。」

みんな温かい。








    
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