【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

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第16話 危機が迫る

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私を賢者と間違えて連れ去ったのだとすると、何が目的?
さっきの男性は、助けに来たと言った。
私に危害を加えるつもりではなさそう。
どちらかというと、恩を売って利用したい?

うわぁ~、まずい。
私が賢者ではない。何の利益も産まないとわかったらどうなる?
彼らが私を連れ去った事実は消えない。
彼らは犯罪者だ。

彼らの言葉を信じたふりして、賢者であると演じる。
そして逃げるタイミングをうかがいつつ、助けを待つしかない。

でもでも助けなんて来るの?
私が連れ去られたのは、おそらく誰にも見られていない。
一切騒ぎにならなかった。
さすがに誰か気づいたのなら、大声で助けを呼んでくれるのではないだろうか。

今、拘束されていない私は大声で叫ぶことができる。
ここがどこかわからない状態で、叫ぶのは危険だ。
私の声が犯人の気持ちを逆撫でして、危害を加えられたらと思うと震えてしまう。

私が帰らぬことに気づいたおじさん、おばさんが探してくれると信じるしかない。
『ジル、ジル助けて。おじさん、おばさん、助けて。』心の中で願う。

ジルとはしばらく会ってもいないのに、なぜ彼の名が一番に思い浮かぶのだろう。
あー、私は、そっか、私は彼が…


しばらくすると、また
カツカツ、カッカッカッと音がして、ギギッ、パタンと扉が空いた。
男性が二人入ってきた。
ベッドに座る私を見て
「おおっ、賢者様。ご無事で何よりです。私が助けに来たからにはもう大丈夫。さあさ、我が家へ参りましょう。」
先ほど聞いた声とはまた違う声のようだ。

今からこの男性の家へ向かうのか。
「はい、怪我もなく無事です。あなたが助けてくれたのですか?ありがとう。私の恩人の名前を知りたいのですが。」

「はい。私はベルトラン・スパイア。爵位は伯爵だ。」
スパイア伯爵……どこかで聞いたような。
私は丁重に扱われ、馬車で移動する。

馬車は大きな屋敷の前で止まった。
玄関に降り立つと、使用人と思わしき人たちがズラリと並び、上品な美しい女性が一人、前に出てきた。
「あなた、お帰りなさいませ。」
彼女はスパイア伯爵様の腕に手を絡ませる。

後ろから女の子が出てきた。
「お父様、お帰りなさいませ。」
彼女も伯爵の腕にしがみついた。
あっ、クリスティナ様だ。

「あら? ツムギさんではなくて? お父様、どうしてツムギさんを連れてらっしゃるの?」
「それがな。賢者様が拐われていたのを、このオーバンがみつけて私が保護したんだよ。」
オーバンとは、伯爵と一緒にいた男性かな。




    
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