【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

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第8話 野宿

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ジルも疲れてるだろうに、魚を取ってきてくれた。
やはり彼はすごい。頼りになる。
甘えてばかりいるのは嫌だ。
私も何かしないと。

そうだ、火を火を準備しなきゃ。
ぼーっとした頭のまま、手だけはしっかり動かす。
乾いた小枝を集め、石を積んで、さぁ火をつけよう。
バッグからライターを出す。

今 目の前にはジルがいる。
もういいや。彼には知られても大丈夫だろう。
少し考えた後、ライターでシュボッと火をつけた。

えっ? ジルは目を見開いている。
やっぱりライターを知らないんだ。
ジルは驚いた顔をしていたが、何も聞かずにいてくれた。
見なかったことにしてくれたのかな。

二人で分けあって食べた焼魚はふっくらと柔らかく、とても美味しかった。
本当にジルはすごいな。
魚を捕まえるなんて。

スノーに乗って一人で帰れば、もっと楽なはずなのに、決して私を見捨てない。
彼のことは信じられる。


焼魚を食べ終わる頃には、辺りは薄暗くなっていた。
「今からの移動は危険だ。今日はここで眠ろう。」とのジルの言葉に従い、火の近くで眠れそうなできるだけ平らな場所を探す。

「私はここにする。」と言うと、ジルが確認に来た。
「いや、ここじゃダメだ。」
結局、ジルがみつけた場所で、彼と背中合わせで眠ることになった。

二人の上にはジルのマントがかかっている。
ジルは「僕の傍から離れてはダメだ。」と言うのだ。

夜は冷えるので、互いの熱を逃がさないようできるだけひっつく。
また危険が迫った時に知らせあい、すぐに対応できるように傍にいる。
ジルは私を守ってくれようとしているようだ。

誰かの温もりを感じながら眠るなんて、いつぶりだろう。
小学生までは母に抱き締められて母のベッドで一緒に眠っていた。

小学生になった時に、自分のベッドを買ってもらった。
少し大人になったようで嬉しかったのだが、夜になり、いざ一人で眠るとなると、冷たい布団に悲しくなった。寂しくなった。

時々、母のベッドへ行くのだが、私の添い寝をしなくなった母は、まだベッドにいなかった。
がっかりして、一旦は自分のベッドへ戻る。

夜中に起き出して、母のベッドへ潜り込む。
そんな日々を何度か繰り返したが、いつのまにか夜中に目を覚ますこともなくなり、朝まで自分のベッドで眠れるようになった。

背中にジルの温もりを感じて、一人じゃないと安心する。
彼が私を気づかってくれているのがわかる。
できるだけ、私が眠れるように眠りやすい位置は私に譲ってくれたようだ。
彼はそこで眠れるのだろうか。

自分が守られていると感じる。
両親がいなくなってから、ずっと気が張っていた私。
ジルの前では、自然体の自分でいられるようだ。




    
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