【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

文字の大きさ
上 下
7 / 49

第7話 分け合う

しおりを挟む
美味しいとわかり、俄然 やる気になる私。
「ジル、果物集めは私に任せて。」
私は黒い肩掛けバッグから紐付きビニール袋を取り出した。

買い物時の袋が有料となり、私はナイロン製折りたたみ袋と紐付きビニール袋を持ち歩いている。

紐付きビニール袋は果物を入れるのにちょうどよかった。
摘み取った果物を入れたビニール袋に川の水を入れ、優しく洗う。
ビニールの口を絞って、水だけをチョロチョロと流せば、そのまま果物を保管できちゃう。

後でジルと一緒に食べよう。
そう思いつつ、何粒か私の口へ消えていった。
慌てて同じだけジルの口元へ運ぶ。
ジルはそんな私に、声を圧し殺して笑っている。 器用だな。
なぜ音を立てないように気をつけているかと言うと、今いる川にも魚が泳いでいるのだ。

あっでも逃げられてしまった。
私が近くで動いたから、魚に気づかれてしまったのだろう。
さっきまでいた魚は、もうどこにも見えない。

「ジル、ごめんなさい。」
「いいよ。仕方がない。それにここにはカマドがあるわけじゃない。火起こしも大変だ。それよりも先へ進んで、休める場所を探そう。」

ジルの優しさに涙が出そうだ。
さっき集めた赤い果実を二人で分けあって食べる。
お腹いっぱいとは程遠いが、甘酸っぱくて美味しいと元気が出る。
少しだけ疲れが軽くなったような気がする。


スノーへ乗ろうとするが、やはり上にあがるのは厳しい。
苦戦する私をみかねたジルが「捕まって。」と私を引っ張りあげてくれた。

ジルの手は私よりも大きくて固かった。
ゴツゴツしている。
私を引っ張りあげるなんて、意外と力があるんだな。
馬での移動に、少し慣れてくると背中に彼の体温を感じて、妙に意識してしまう。

たまに、彼のお腹、私のお腹が空腹を訴え、ギュルギュルと鳴る。
初めて自分のお腹がなった時には、それはもう恥ずかしかった。

だが、あまりにも鳴り続けると、恥ずかしいを通り過ぎ、もう乾いた笑いしか出ないよね。

何かそのまま食べられそうな果実をみつけたら、私が彼に確認。
だが、そう食べられそうなものはみつからない。
大事に食べていたクッキーと飴も底をついた。赤い果実も食べきってしまった。

私では、森にあるもので、食べれるもの、食べられないものを見分けられない。
見分けるためには、実際、口に入れて確かめるしかない。
こんなところで痺れて動けなくなったら、目もあてられない。

私にサバイバル生活は無理だ。

私たちはこのままこの世界とお別れなのだろうか。
途方にくれる私の前に、
「はい、ツムギ。」彼が魚を持ち帰ってくれた。
私はただ地面に座り込んで、ぼーっとしていた。
彼は食料を探してくれていたのに。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

処理中です...