【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

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第15話 人違いです

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ツムギはおじさん、おばさんにかわいがられ、しっかりと自分の居場所と呼べる関係を築いていた。

食堂の休憩時間、彼女は久しぶりに街をブラブラしていた。
前からガラガラと馬車がやってきて、ツムギの少し手前でゆっくりと停まった。
ツムギが馬車と壁の隙間を通り過ぎようとしたところで、突然 馬車の扉が開き、二つの腕が伸びてきて彼女を馬車の中へ引っ張り込んだ。

彼女が馬車へと引っ張り込まれた姿を見たものは誰もいなかった。

馬車の中には見知らぬ男性が三人。
つむぎは声をあげようとしたが、すぐ布で鼻と口を押さえられた。
布からは変な匂いがする。薬? 
ツムギが抵抗しようと伸ばした手は空を切り、彼女はそのまま意識を失った。

馬車は何事もなかったかのように、ガラガラ走り去る。
それは、ほんの一瞬の出来事だった。


食堂が夜の営業が始まる時間になっても、彼女は戻らない。
真面目な彼女が営業時間までに戻らないなんて初めてのことだ。

コレットが警備兵がの詰所へ駆け込む。
「ツムギちゃんが、ツムギちゃんがまだ戻らないの。お願い、誰かつむぎちゃんを。」
いつもどんと構えたコレットの取り乱した姿に、警備兵たちも只事ではないと、動き出す。

みんな目の前にある食堂にはお世話になっている。
ゴードンとコレットは、若い兵士にとっては
第二のお父さん、お母さんのような存在。
そして食堂で働くつむぎは、妹のようだったり、友人、淡い恋の相手だったりするのだ。

   
うっう~ん
ツムギが目を覚ますと、そこは知らない場所だった。
以前 ジルと過ごした山小屋のように、天井も壁も床も木がむき出しだ。
部屋を見回したが、私が横たえられていたベッドのみ。
他に家具がないのは、不自然だ。
誰かが日常的に生活している場所ではないのだろう。
幸いなことに、拘束はされていない。

外から男性の話し声が聞こえた。
「はい、約束どおり賢者を手に入れました。」
「うむ。では、これを。」
ジャラジャラとお金がすりあったような音が聞こえ、何人かの足音が遠ざかって行った。

賢者? 
私は賢者と間違えられて連れ去られたの?
私の瞳が黒いから、間違えられたんだ。

これから私はどうなるのかな。
急に怖くなり、サーっと血の気が引いていく。

ギギー、パタン、カツカツカツ
扉が開いて、人が入ってきたようだ。
相手は一人?
慌てて私は眠った振りをする。
「賢者様、起きてください。もう大丈夫です。私はあなたを助けに来ました。」
男性の声がした。

えっ、本当に?
さっき、誰かとやりとりしてた人じゃないの? 信用していいのだろうか。
そのまま眠った振りを続けていると、
「まだ薬が効いてるのか。後でまた来るとするか。」と独り言を言い残し、立ち去った。

今の独り言。
確実に私を連れ去らった仲間のようだ。 
仲間? いや連れ去りを依頼した人?
どうしよう。




    
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