【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

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第14話 食堂の仕事

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明日から仕事ということで、今日はゆっくりさせてもらう。
ここは個室でベッドもある。
久しぶりのベッドに嬉しくなる。

両親とマンションで暮らしていた時はベッドだった。
叔母さんに引き取ってもらった時、その後の一人暮らしは布団で眠っていた。

その夜は、快適な部屋で、ぐっすりと眠った。
朝は、ゴードン夫妻の部屋から聞こえる目覚まし時計の音に驚いて、飛び起きた。
寝坊したらどうしようと心配だったけど、ジリリリーとすごい音だ。
寝坊しようにもできそうにない。

朝食はゴードン夫妻と一着に食べる。
彼らは、一人ぼっちの私を気にかけ、いろんなことを教えてくれた。

そのうち、彼らは私の親戚のような存在となり、ゴードンさんをおじさん、コレットさんをおばさんと呼ぶようになった。
おじさんもおばさんも私を子供のように、かわいがってくれる。

私は彼らを、この国でのお父さん、お母さんのように思っている。

ごくたまに、ヒューゴさんとマルクスさんが食事に来てくれるが、ジルとはこのこの国へ着いてすぐ、別れて以来会っていない。
彼は元気にしているだろうか。

仕事に慣れてきた私は、テーブルの片付けや皿洗い、配膳、食材の下ごしらえなど任せてもらえる仕事は何でも一生懸命取り組んだ。

短かった髪は、肩にギリギリ届く長くなり、シンプルな動きやすいワンピースを着るようになった。
ツムギが店先に出ることが増えてくると、明るく挨拶し、懸命に働く彼女を目当てに通うお客さんも増えてきた。

しばらくすると、おじさんは忙しい夜の賄いを私に任せるようになった。
ツムギは自分の食べたい料理を作る。
日本で作るものとは若干異なるものの、近い味のものができた。

ある日、ツムギがオムライスを作って、厨房の隅で食べていると、その料理が常連のお客さんの目に止まった。
見たことないトロトロした黄色い固まりに、赤いソースがかかっている。
黄色いものからは湯気があがり、何とも美味しそう。
それを満面の笑顔で口に運ぶつむぎ。

そのお客さんは、店主ゴードンに頼み込み、「文句は受け付けない。」との条件付きで、ツムギ特製オムライスを食べた。
黄色はトロトロの卵だった。
トマト味の炒めたご飯にトロトロ卵。上には濃厚なトマトソース。
初めて食べるオムライスにお客さんは感激。

「これからもオムライスを食べたい。できたらメニュー表に加えて欲しい。」
お客さんの言葉を受け、『文句不可。ツムギ特製オムライス』とのメニュー名でメニュー表への掲載が決定した。

オムライスは評判を呼び、食堂はますます繁盛。
そして街では、この食堂は賢者が働く店だとの噂が流れ始めていた。




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