【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

文字の大きさ
上 下
14 / 49

第14話 食堂の仕事

しおりを挟む
明日から仕事ということで、今日はゆっくりさせてもらう。
ここは個室でベッドもある。
久しぶりのベッドに嬉しくなる。

両親とマンションで暮らしていた時はベッドだった。
叔母さんに引き取ってもらった時、その後の一人暮らしは布団で眠っていた。

その夜は、快適な部屋で、ぐっすりと眠った。
朝は、ゴードン夫妻の部屋から聞こえる目覚まし時計の音に驚いて、飛び起きた。
寝坊したらどうしようと心配だったけど、ジリリリーとすごい音だ。
寝坊しようにもできそうにない。

朝食はゴードン夫妻と一着に食べる。
彼らは、一人ぼっちの私を気にかけ、いろんなことを教えてくれた。

そのうち、彼らは私の親戚のような存在となり、ゴードンさんをおじさん、コレットさんをおばさんと呼ぶようになった。
おじさんもおばさんも私を子供のように、かわいがってくれる。

私は彼らを、この国でのお父さん、お母さんのように思っている。

ごくたまに、ヒューゴさんとマルクスさんが食事に来てくれるが、ジルとはこのこの国へ着いてすぐ、別れて以来会っていない。
彼は元気にしているだろうか。

仕事に慣れてきた私は、テーブルの片付けや皿洗い、配膳、食材の下ごしらえなど任せてもらえる仕事は何でも一生懸命取り組んだ。

短かった髪は、肩にギリギリ届く長くなり、シンプルな動きやすいワンピースを着るようになった。
ツムギが店先に出ることが増えてくると、明るく挨拶し、懸命に働く彼女を目当てに通うお客さんも増えてきた。

しばらくすると、おじさんは忙しい夜の賄いを私に任せるようになった。
ツムギは自分の食べたい料理を作る。
日本で作るものとは若干異なるものの、近い味のものができた。

ある日、ツムギがオムライスを作って、厨房の隅で食べていると、その料理が常連のお客さんの目に止まった。
見たことないトロトロした黄色い固まりに、赤いソースがかかっている。
黄色いものからは湯気があがり、何とも美味しそう。
それを満面の笑顔で口に運ぶつむぎ。

そのお客さんは、店主ゴードンに頼み込み、「文句は受け付けない。」との条件付きで、ツムギ特製オムライスを食べた。
黄色はトロトロの卵だった。
トマト味の炒めたご飯にトロトロ卵。上には濃厚なトマトソース。
初めて食べるオムライスにお客さんは感激。

「これからもオムライスを食べたい。できたらメニュー表に加えて欲しい。」
お客さんの言葉を受け、『文句不可。ツムギ特製オムライス』とのメニュー名でメニュー表への掲載が決定した。

オムライスは評判を呼び、食堂はますます繁盛。
そして街では、この食堂は賢者が働く店だとの噂が流れ始めていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...