【完結】賢者ではありませんが、私でいいのでしょうか?

青井 海

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第4話 山小屋

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山小屋はドアに鍵もかかっておらず、中はガランとしていた。
「えっ、何もない。」とジルがガックリ肩を落としている。
彼は落胆を隠せないようだ。

「でも何もないということは、誰も住んではいないんじゃない?使わせてもらえないかな?」
「女性もいることだし、今晩は泊まらせてもらおう。」

「ジルは火を起こせる?」
「ごめん、僕は本当に役立たずだ。」
「そんなことないよ。火は私が何とかするから力を貸してくれる?」
「うん、もちろん。」
「私が火を作っている間に、食べられそうなものを探してきてくれないかな?」
「わかった。探してみる。」
彼は小屋の中でみつけた金属の細い棒を持ち、出て行った。

ジルは川の方へと歩いていく。
山小屋近くに川があってよかった。
魚が取れたら嬉しいんだけどな。
私は私の仕事をしなきゃ。

ジルの愛馬であるスノーは、山小屋周りの草をモグモグ。
君はいいねぇ、草は美味しいの?
スノーが食べてるのと同じ草を摘んで、口に含んでみる。
ベッベー
うわぁ~にがっ。口の中が苦いよ。
スノー、すごいな。よく食べられるね。
この草を食べるのは最終手段にしたい。

私は地面に落ちて乾燥している枝を拾い集める。それを山小屋のカマドに入れて、バッグからライターを取り出す。

シュボッ
あとは火種を大事に育てて、あっ消えちゃった。
もう一度チャレンジ。
シュボッ
時間はかかったが、だんだん火種が育ってきた。
今度は大丈夫そう。

そう、私はライターを持ち歩いていたのだ。
タバコは吸わない。
このライターは、居なくなった父が家に忘れていたものだ。
母からのプレゼントで、父は大事にしていた。
これを私が持っていたら、いつか父が取りに来てくれるんじゃないかと、肌身離さずにいるのだ。
まさかこんなところで役に立つとは。

ジルが言うキーフォレス王国がどんな国かはわからない。
だが、彼は携帯を知らなかった。
火を起こせるかと聞くと、起こせないとシュンとしていた。
ライターは見せないほうがよさそうだ。
私はそう感じたのだ。

この山小屋も何もなさすぎる。
ここが日本であるならば、もっと何かしらありそうなものだ。
電気とガスがなくても電池があれば、ガス缶があれば助かるのにな。

あっ、でもあっても電池やガス缶で動く道具がないと意味ないか。
この山小屋には、カマドがある他には木製のテーブルとイスがあるだけ。

今が寒い時期じゃなくて助かった。
それでも夜は寒いかもしれない。

火が大きくなったところで、ジルが帰ってきた。
「はい。」と棒にさした魚を差し出された。

「ジル、すごいじゃない。魚が食べられるなんて嬉しい。早速焼くわね。」

「僕なんかより、ツムギのほうがすごいよ。もしかして魔法が使えるのか?」

えっ、魔法?
キーフォレス王国には、魔法が存在するの?

「ううん、魔法は使えない。使えないと思う。もしかしてジルは魔法が使えるの?」 











    
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