上 下
30 / 30

第30話 幸せに

しおりを挟む
クリード辺境伯からは早馬で、状況を知らせる手紙がエッセン伯爵へと届けられた。
リーゼの乗る馬車が襲撃を受けたと聞いたエッセン伯爵は、すぐにでも飛び出していきそうな勢いで、妻マリアに宥められていた。

「あなた、気持ちはわかりますが、クリードは遠いのですよ? みんな無事だと書いてあります。あとはクリード辺境伯オリバー様とシャロン様へお任せしましょう。私たちはリーゼたちが帰った時に、安心してゆっくりと休めるようにここにいるべきよ」

「そうですよ。お父様、迎えが必要であるのなら僕がテオと向かいますから」
今度はルーカスが飛び出していきそうだ。

「ルーカス、行ってはダメだ」
「ルーカスはここにいなさいね」
夫妻が彼を止める。

「僕もクリードへ行けると思ったのに……残念。早くお姉様、マーサ、ランスの無事をこの目で確認したかった」
シュンとルーカスが肩をおとした。

***

襲撃を受け、一旦クリードまで戻ったリーゼ一行。
馬車襲撃事件の捜査や護衛たちのキズの手当てが無事に終わり、予定より3日遅れてエッセンへと無事に帰りついた。


「リーゼ、お帰りなさい」
「リーゼ、ああ、無事でよかったわ」
「お姉さま、お帰りなさい」

「お父様、お母様、ルーカス、ただいま帰りました」
お母様に抱きつかれ、泣かれてしまった。

「リーゼ、おかえり。ランス、マーサ、リーゼを守ってくれてありがとう。今日、明日はゆっくり休んでくれ」
お父様が労う言葉を伝えている。
その後、お父様は、抱き合うお母様と私をまとめて抱き締めた。

「あっ、みんなずるいよっ」
慌てて後ろからルーカスが飛び付いてきた。

イタっ、そんな勢いで飛び付かれたら、痛いんだからねっ!
ルーカスに注意しようとして、彼の目尻がジワッと湿っていることに気づいた。

「ルーカスにも心配をかけてしまったわね。私は大丈夫よ。みんなが守ってくれたもの」

「そうだよっ、もうこんな心配させないでくれよ。明日にでもクリードの話を聞かせてくれたら許してやる」

ふふふっ、ルーカスったら、涙が出てしまって照れているのね。

「うん、ルーカス、ありがとう。明日、ゆっくり話をしましょうね」

自分の部屋へ戻り、一息ついてお風呂に浸かる。
銭湯のお試しで大きな浴槽を体験した私の家族は、借金を返し終わり、予算に余裕が出た途端、すぐに使ってなかった部屋を大きな浴槽があるお風呂場へ変えた。
クリード辺境伯家はどこも素晴らしかった。
でもお風呂だけは我が家も負けていないと思う。
我が家のこのお風呂場は銭湯にはそりゃ負けるけれど、一伯爵家のものとしては、かなり立派だと思うの。

立派とは豪華というのではなく、ゆったりとした作りで、使いやすいという意味よ。

浴槽に浸かって、手足をビーンて伸ばす。
ああ、最高!!
我が家へ帰ってきた~と実感するわね。

久しぶりに自分の部屋で眠る。
長年親しんだほのかな香りに包まれて、私はぐっすりと眠った。

***

エッセン領に戻ったリーゼの元へは、すぐにクリード辺境伯家長男レオンから婚約の申し出があった。

帰宅したリーゼから、実はシャロン様の護衛としてきていたレオンはクリード辺境伯のご子息であること、彼と想いを通わせたことを聞かされていたエッセン伯爵夫妻。

もちろん、お母様は大喜び。
「まぁまぁまぁ、なんてロマンティックなの。レオン様は素敵な方だったし、身分も申し分ないわ。シャロン様がリーゼのお義母様となるのなら、安心だわ」
頬に手をゆったりと添えて、ふふふっとご機嫌なお母様。

お父様は、苦虫を潰したような何とも言えない顔をしたまま動かない。

「あら、あなた。あなたはリーゼに幸せになってもらいたくないの?素直に娘の幸せを願えない?」
ご機嫌で微笑んでいたお母様の眉間にシワが寄る。

「いや、そんなことはないぞ。ああ、クリード辺境伯家との縁談はこれ以上ない良縁だと思うぞ。ただな~、距離がな~、遠すぎないか? いや、うん、まぁ、これはいい話しだな。喜んで話を進めよう」

「レオン様がお義兄様になるんだね!また剣の稽古をつけてもらえるねっ」
ルーカスも大喜びだ。

レオンとリーゼは恋愛関係にあり、身分的にも申し分がない。
クリード辺境伯家とエッセン伯爵家の話し合いは、穏やかで何とも明るいもので、あっという間に、2人の縁談は正式に結ばれた。


そうはいってもクリードとエッセンには距離があり……なかなか逢えない2人。
レオンはリーゼをそれは、それは、大切に扱い、周りがじれったくなるような逢瀬を重ね、婚姻。

婚姻式での2人は、幸せに満ち溢れていて、真っ白な衣装に包まれ、光輝いている。
何度も何度もリーゼ、レオンの視線が絡む。
なんとあのレオンの口角がずっと上がりっぱなしで……

微笑む家族たちの中、リーゼの父リカルドだけが男泣きして、マリアに慰められていた。

***

強くたくましいレオン。
彼は、昼、クリードの為に忙しく動き回るリーゼを上手く手のひらで転がし、夜はしっかりとガッチリと自分の腕の中に囲いこむ。

リーゼは、今 クリードで幸せな時を過ごしている。
あちこちへと、走り回りながら…

おわり
    
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

かーえでん
2022.07.30 かーえでん

22話 24話


1箇所くらいずつですが。

スパイがスバイになっている箇所があります。
あえて、ならばコメ内容は失礼しました。

青井 海
2022.07.30 青井 海

誤字のお知らせありがとうございます。
第何話と書いてくださっていて、誤字をみつけやすかったです。
お知らせ助かりました♪

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。 そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。 悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。 「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」 こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。 新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!? ⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎

婚約者と王の座を捨てて、真実の愛を選んだ僕の結果

もふっとしたクリームパン
恋愛
タイトル通り、婚約者と王位を捨てた元第一王子様が過去と今を語る話です。ざまぁされる側のお話なので、明るい話ではありません。*書きたいとこだけ書いた小説なので、世界観などの設定はふんわりしてます。*文章の追加や修正を適時行います。*カクヨム様にも投稿しています。*本編十四話(幕間四話)+登場人物紹介+オマケ(四話:ざまぁする側の話)、で完結。

婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。 ※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。  お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

悪役令嬢に転生したおばさんは憧れの辺境伯と結ばれたい

ゆうゆう
恋愛
王子の婚約者だった侯爵令嬢はある時前世の記憶がよみがえる。 よみがえった記憶の中に今の自分が出てくる物語があったことを思い出す。 その中の自分はまさかの悪役令嬢?!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。