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第30話 幸せに
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クリード辺境伯からは早馬で、状況を知らせる手紙がエッセン伯爵へと届けられた。
リーゼの乗る馬車が襲撃を受けたと聞いたエッセン伯爵は、すぐにでも飛び出していきそうな勢いで、妻マリアに宥められていた。
「あなた、気持ちはわかりますが、クリードは遠いのですよ? みんな無事だと書いてあります。あとはクリード辺境伯オリバー様とシャロン様へお任せしましょう。私たちはリーゼたちが帰った時に、安心してゆっくりと休めるようにここにいるべきよ」
「そうですよ。お父様、迎えが必要であるのなら僕がテオと向かいますから」
今度はルーカスが飛び出していきそうだ。
「ルーカス、行ってはダメだ」
「ルーカスはここにいなさいね」
夫妻が彼を止める。
「僕もクリードへ行けると思ったのに……残念。早くお姉様、マーサ、ランスの無事をこの目で確認したかった」
シュンとルーカスが肩をおとした。
***
襲撃を受け、一旦クリードまで戻ったリーゼ一行。
馬車襲撃事件の捜査や護衛たちのキズの手当てが無事に終わり、予定より3日遅れてエッセンへと無事に帰りついた。
「リーゼ、お帰りなさい」
「リーゼ、ああ、無事でよかったわ」
「お姉さま、お帰りなさい」
「お父様、お母様、ルーカス、ただいま帰りました」
お母様に抱きつかれ、泣かれてしまった。
「リーゼ、おかえり。ランス、マーサ、リーゼを守ってくれてありがとう。今日、明日はゆっくり休んでくれ」
お父様が労う言葉を伝えている。
その後、お父様は、抱き合うお母様と私をまとめて抱き締めた。
「あっ、みんなずるいよっ」
慌てて後ろからルーカスが飛び付いてきた。
イタっ、そんな勢いで飛び付かれたら、痛いんだからねっ!
ルーカスに注意しようとして、彼の目尻がジワッと湿っていることに気づいた。
「ルーカスにも心配をかけてしまったわね。私は大丈夫よ。みんなが守ってくれたもの」
「そうだよっ、もうこんな心配させないでくれよ。明日にでもクリードの話を聞かせてくれたら許してやる」
ふふふっ、ルーカスったら、涙が出てしまって照れているのね。
「うん、ルーカス、ありがとう。明日、ゆっくり話をしましょうね」
自分の部屋へ戻り、一息ついてお風呂に浸かる。
銭湯のお試しで大きな浴槽を体験した私の家族は、借金を返し終わり、予算に余裕が出た途端、すぐに使ってなかった部屋を大きな浴槽があるお風呂場へ変えた。
クリード辺境伯家はどこも素晴らしかった。
でもお風呂だけは我が家も負けていないと思う。
我が家のこのお風呂場は銭湯にはそりゃ負けるけれど、一伯爵家のものとしては、かなり立派だと思うの。
立派とは豪華というのではなく、ゆったりとした作りで、使いやすいという意味よ。
浴槽に浸かって、手足をビーンて伸ばす。
ああ、最高!!
我が家へ帰ってきた~と実感するわね。
久しぶりに自分の部屋で眠る。
長年親しんだほのかな香りに包まれて、私はぐっすりと眠った。
***
エッセン領に戻ったリーゼの元へは、すぐにクリード辺境伯家長男レオンから婚約の申し出があった。
帰宅したリーゼから、実はシャロン様の護衛としてきていたレオンはクリード辺境伯のご子息であること、彼と想いを通わせたことを聞かされていたエッセン伯爵夫妻。
もちろん、お母様は大喜び。
「まぁまぁまぁ、なんてロマンティックなの。レオン様は素敵な方だったし、身分も申し分ないわ。シャロン様がリーゼのお義母様となるのなら、安心だわ」
頬に手をゆったりと添えて、ふふふっとご機嫌なお母様。
お父様は、苦虫を潰したような何とも言えない顔をしたまま動かない。
「あら、あなた。あなたはリーゼに幸せになってもらいたくないの?素直に娘の幸せを願えない?」
ご機嫌で微笑んでいたお母様の眉間にシワが寄る。
「いや、そんなことはないぞ。ああ、クリード辺境伯家との縁談はこれ以上ない良縁だと思うぞ。ただな~、距離がな~、遠すぎないか? いや、うん、まぁ、これはいい話しだな。喜んで話を進めよう」
「レオン様がお義兄様になるんだね!また剣の稽古をつけてもらえるねっ」
ルーカスも大喜びだ。
レオンとリーゼは恋愛関係にあり、身分的にも申し分がない。
クリード辺境伯家とエッセン伯爵家の話し合いは、穏やかで何とも明るいもので、あっという間に、2人の縁談は正式に結ばれた。
そうはいってもクリードとエッセンには距離があり……なかなか逢えない2人。
レオンはリーゼをそれは、それは、大切に扱い、周りがじれったくなるような逢瀬を重ね、婚姻。
婚姻式での2人は、幸せに満ち溢れていて、真っ白な衣装に包まれ、光輝いている。
何度も何度もリーゼ、レオンの視線が絡む。
なんとあのレオンの口角がずっと上がりっぱなしで……
微笑む家族たちの中、リーゼの父リカルドだけが男泣きして、マリアに慰められていた。
***
強くたくましいレオン。
彼は、昼、クリードの為に忙しく動き回るリーゼを上手く手のひらで転がし、夜はしっかりとガッチリと自分の腕の中に囲いこむ。
リーゼは、今 クリードで幸せな時を過ごしている。
あちこちへと、走り回りながら…
おわり
リーゼの乗る馬車が襲撃を受けたと聞いたエッセン伯爵は、すぐにでも飛び出していきそうな勢いで、妻マリアに宥められていた。
「あなた、気持ちはわかりますが、クリードは遠いのですよ? みんな無事だと書いてあります。あとはクリード辺境伯オリバー様とシャロン様へお任せしましょう。私たちはリーゼたちが帰った時に、安心してゆっくりと休めるようにここにいるべきよ」
「そうですよ。お父様、迎えが必要であるのなら僕がテオと向かいますから」
今度はルーカスが飛び出していきそうだ。
「ルーカス、行ってはダメだ」
「ルーカスはここにいなさいね」
夫妻が彼を止める。
「僕もクリードへ行けると思ったのに……残念。早くお姉様、マーサ、ランスの無事をこの目で確認したかった」
シュンとルーカスが肩をおとした。
***
襲撃を受け、一旦クリードまで戻ったリーゼ一行。
馬車襲撃事件の捜査や護衛たちのキズの手当てが無事に終わり、予定より3日遅れてエッセンへと無事に帰りついた。
「リーゼ、お帰りなさい」
「リーゼ、ああ、無事でよかったわ」
「お姉さま、お帰りなさい」
「お父様、お母様、ルーカス、ただいま帰りました」
お母様に抱きつかれ、泣かれてしまった。
「リーゼ、おかえり。ランス、マーサ、リーゼを守ってくれてありがとう。今日、明日はゆっくり休んでくれ」
お父様が労う言葉を伝えている。
その後、お父様は、抱き合うお母様と私をまとめて抱き締めた。
「あっ、みんなずるいよっ」
慌てて後ろからルーカスが飛び付いてきた。
イタっ、そんな勢いで飛び付かれたら、痛いんだからねっ!
ルーカスに注意しようとして、彼の目尻がジワッと湿っていることに気づいた。
「ルーカスにも心配をかけてしまったわね。私は大丈夫よ。みんなが守ってくれたもの」
「そうだよっ、もうこんな心配させないでくれよ。明日にでもクリードの話を聞かせてくれたら許してやる」
ふふふっ、ルーカスったら、涙が出てしまって照れているのね。
「うん、ルーカス、ありがとう。明日、ゆっくり話をしましょうね」
自分の部屋へ戻り、一息ついてお風呂に浸かる。
銭湯のお試しで大きな浴槽を体験した私の家族は、借金を返し終わり、予算に余裕が出た途端、すぐに使ってなかった部屋を大きな浴槽があるお風呂場へ変えた。
クリード辺境伯家はどこも素晴らしかった。
でもお風呂だけは我が家も負けていないと思う。
我が家のこのお風呂場は銭湯にはそりゃ負けるけれど、一伯爵家のものとしては、かなり立派だと思うの。
立派とは豪華というのではなく、ゆったりとした作りで、使いやすいという意味よ。
浴槽に浸かって、手足をビーンて伸ばす。
ああ、最高!!
我が家へ帰ってきた~と実感するわね。
久しぶりに自分の部屋で眠る。
長年親しんだほのかな香りに包まれて、私はぐっすりと眠った。
***
エッセン領に戻ったリーゼの元へは、すぐにクリード辺境伯家長男レオンから婚約の申し出があった。
帰宅したリーゼから、実はシャロン様の護衛としてきていたレオンはクリード辺境伯のご子息であること、彼と想いを通わせたことを聞かされていたエッセン伯爵夫妻。
もちろん、お母様は大喜び。
「まぁまぁまぁ、なんてロマンティックなの。レオン様は素敵な方だったし、身分も申し分ないわ。シャロン様がリーゼのお義母様となるのなら、安心だわ」
頬に手をゆったりと添えて、ふふふっとご機嫌なお母様。
お父様は、苦虫を潰したような何とも言えない顔をしたまま動かない。
「あら、あなた。あなたはリーゼに幸せになってもらいたくないの?素直に娘の幸せを願えない?」
ご機嫌で微笑んでいたお母様の眉間にシワが寄る。
「いや、そんなことはないぞ。ああ、クリード辺境伯家との縁談はこれ以上ない良縁だと思うぞ。ただな~、距離がな~、遠すぎないか? いや、うん、まぁ、これはいい話しだな。喜んで話を進めよう」
「レオン様がお義兄様になるんだね!また剣の稽古をつけてもらえるねっ」
ルーカスも大喜びだ。
レオンとリーゼは恋愛関係にあり、身分的にも申し分がない。
クリード辺境伯家とエッセン伯爵家の話し合いは、穏やかで何とも明るいもので、あっという間に、2人の縁談は正式に結ばれた。
そうはいってもクリードとエッセンには距離があり……なかなか逢えない2人。
レオンはリーゼをそれは、それは、大切に扱い、周りがじれったくなるような逢瀬を重ね、婚姻。
婚姻式での2人は、幸せに満ち溢れていて、真っ白な衣装に包まれ、光輝いている。
何度も何度もリーゼ、レオンの視線が絡む。
なんとあのレオンの口角がずっと上がりっぱなしで……
微笑む家族たちの中、リーゼの父リカルドだけが男泣きして、マリアに慰められていた。
***
強くたくましいレオン。
彼は、昼、クリードの為に忙しく動き回るリーゼを上手く手のひらで転がし、夜はしっかりとガッチリと自分の腕の中に囲いこむ。
リーゼは、今 クリードで幸せな時を過ごしている。
あちこちへと、走り回りながら…
おわり
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