上 下
23 / 26

第23話 悪きモノ

しおりを挟む
僕 伊集院 尊は、雛子に会う為に、桃井家を訪れた。

婚約者となった彼女。
彼女には、僕のことは『尊』と呼ぶように伝えていた。
ぎこちないながらも『尊さん』と呼ぶ彼女の声。
これがまたなかなかいい。

それなのに、今日はなぜか『伊集院さん』と他人行儀に呼んだ。

まさか…
他に好きなヤツができたのか!
僕と離れたいのか!

頭に血が上り、彼女を押し倒す。
さぁどうする?

大きくあいた首周り。
浮き上がった鎖骨が目に止まる。
そのまま鎖骨に噛みつく。
痛いと可哀想だから、軽く甘く。

君は僕のモノだと印をつけた。

僕の所為で赤くなった肌。
僕の心は満たされる。



盆休みに入った。

雛子は家で退屈していることだろう。
僕も休みだし、たまには外でデートもいいな。
突然だったが、彼女を迎えに桃井家にやって来た。
両親、雛子ともに不在だと、手伝いの女性に告げられた。

せっかく僕が会いに来てやったのに、彼女は何をしてるんだ。
雛子の帰宅予定を聞き、一旦引き上げる。

帰宅予定の少し前に、再度訪れ、客間で雛子の帰りを待たせてもらう。

窓から玄関先を眺めていると…
雛子が帰ってきた。
隣には男がいる。
男は彼女に手を振り、あっさり帰っていった。

今はまだ、親しい仲というわけではなさそうだ。

僕は帰宅した彼女を問い詰めた。

驚くことに彼女は、僕の呼び方を間違え、噛まれたことを覚えていなかった。
僕の印を彼女に刻んだ、あの記念すべき瞬間を覚えていないと言うのか?

有り得ない!!

さっきのヤツは学園の先輩で、神社で倒れていた雛子を助けただけの関係らしい。

彼女が倒れた?
僕は聞いていない。
なぜ僕に連絡が来ない?

それに彼女の様子がおかしい。
何かを隠しているようだ。

そういえば、あの時の彼女もおかしかった。
僕の目をみつめた彼女の瞳。
あの瞳は彼女のものだったか?

雛子、君は上手く隠せたと思っているようだが、甘いな。
何年 君を君だけを見てきたと思っているんだ。


結局、雛子は僕の尋問に落ちた。
『青芝見神社』
おもしろそうじゃないか。
願いを叶える力が強い。
いい、凄くいい。

悪きモノが集まっている?
それがどうした。
君が僕のモノになるのならば、何が起きても問題ないよ。

桃井家を飛び出し、神社へ向かう。
彼女が慌てて追ってきた。
ついてきても無駄なのに。
僕はもう決めたのだから…

学園には入れない。
裏道へ入って行くと、神社の鳥居が見えた。
こちらから入れるようだ。

よしっ、気合いを入れて、鳥居をくぐる。
雛子のことが気になり後ろを振り返る。
彼女は鳥居の前で、佇んでいた。

顔は青ざめ、少し震えているように見える。
駆け寄って、抱き締めたい衝動に駆られる。
だが、今はダメだ。

手を合わせ、願う。
『雛子と一生を共にできますように』
いやいやこんなあまっちょろい願いじゃダメだな。
『雛子が僕が傍でしか生きられなくなりますように。』

周りの空気がヒヤリ冷え、僕の髪がブワッと広がる。
雛子が言っていた悪いモノが寄ってきたのか。

まぁいい。

「明日から毎晩会いに行くから。」
そう彼女へ告げた後、僕は立ち去った。



    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冀望島

クランキー
ホラー
この世の楽園とされるものの、良い噂と悪い噂が混在する正体不明の島「冀望島(きぼうじま)」。 そんな奇異な存在に興味を持った新人記者が、冀望島の正体を探るために潜入取材を試みるが・・・。

実体験したオカルト話する

鳳月 眠人
ホラー
夏なのでちょっとしたオカルト話。 どれも、脚色なしの実話です。 ※期間限定再公開

『夢』

篠崎俊樹
ホラー
私が書いた、夢をテーマにした、短編ホラーです。ゾッとする話です。読むと、思わず、背筋が凍ります。第6回ホラー・ミステリー大賞にエントリーします。大賞を狙いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】呪いの館と名無しの霊たち(仮)

秋空花林
ホラー
 夏休みに廃屋に肝試しに来た仲良し4人組は、怪しい洋館の中に閉じ込められた。  ここから出る方法は2つ。  ここで殺された住人に代わって、 ー復讐を果たすか。 ー殺された理由を突き止めるか。  はたして4人のとった行動はー。  ホラーという丼に、恋愛とコメディと鬱展開をよそおって、ちょっとの友情をふりかけました。  悩みましたが、いいタイトルが浮かばず無理矢理つけたので(仮)がついてます…(泣) ※惨虐なシーンにつけています。

吸収

玉城真紀
ホラー
この世には説明がつかない事が沢山ある。その中の一つ「胎児」に焦点を当ててみよう。

愛か、凶器か。

ななな
ホラー
桜木雅はある出会いを境に、その姿を、理性を崩していった。 僕の目に止まったそれは、知れば知る程僕を魅了するばかり。 最終章で彼女が手に握るのは、愛か、凶器か。 僕はそれが気になって、日を重ねるごとに彼女に執着していた。

【完結】山梔子

清見こうじ
ホラー
山梔子;くちなし 花言葉:幸福 天国に咲く花とされ、幸運を呼び込むとされる。 けれど、その香りが呼び込むのは、幸運とは限らない………。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「NOVEL DEYS」でも公開しています

彼らの名前を呼んではいけない【R18】

蓮恭
ホラー
 眼鏡の似合う男性ハジメと女子高生の美沙、二人はちょっと変わった美形カップルだった。  元々美沙は自分のサディズムという性質を抑えきれずに、恋人達とのトラブルが絶えなかった。  そんな美沙はイトコの涼介が開業するメンタルクリニックで、とある男を紹介される。それがハジメというマゾヒストで。  はじめは単なるパートナーとしてストレスの発散をしていた二人だったが、そのうちお互いへの想いから恋人になる。  けれど、この二人には他にも秘密があった。  とある事務所を開いているハジメは、クライアントである涼介からの依頼で『患者』の『処置』を施すのが仕事にしていた。  そんなハジメの仕事に同行し、時々手伝うのが美沙の役割となり……。 ◆◆◆  自分の名前に関する『秘密』を持つ男女が主人公のサイコホラーです。  異常性癖(パラフィリア)、サイコパス、執着と愛情、エロス、読んでちょっとゾクリとしてもらえたら嬉しいです。  創作仲間との会話から【眼鏡、鬼畜】というテーマで書くことになり、思いつきと勢いで書いた作品です。    

処理中です...