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第66話 作ります
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バルバラ侯爵邸に帰りついたので、すぐにささっと着替え、厨房へ向かう。
あまり立ち入ったことのないであろう厨房へ、ヘンリー王子とダイアナ様もついてきた。
まずは、よく手を洗い、たまねぎをみじん切りにして炒める。
私のみじん切りの早さに、おふたりはびっくりしていたわ。
トントントン、トントントン
包丁がまな板にあたる音が響いて、なんだか料理できる人みたいに見えるのよね。
たまねぎのみじん切りをフライパンで炒めて、粗熱をとっている間に、ミンチを作りましょう。
牛肉のぶつ切りを包丁で細かく叩く。
うーっ、手が疲れたよ~。
一旦休憩しようと包丁を置いたら、王子が私を真似てやり出した。
初めて包丁を握った子どもみたい。
剣を握ったりするから抵抗はないのかな。
嬉しそうに二ッコニコしてる。
隣ではダイアナ様が見守っている。
私が休んでいるうちに、しっかりミンチ状になってる。
腕まくりして腕の筋肉が浮き出ていて、真剣な顔つきで包丁を握る姿、なかなかかっこいいです。
王子、婚約者にいいとこ見せることができてよかったですね。
ダイアナ様があなたを誇らしそうに見ていますよ。
ミンチに塩コショウして、よく混ぜ混ぜする。で、卵、パン粉、牛乳を混ぜて、さっきのたまねぎ入れて混ぜ混ぜ。
チーズの塊を真ん中に入れ形を整え、フライパンへ。
ジュージューと肉の焼けるいい香り。
牛肉100パーセントという何とも贅沢なハンバーグ。
ソースはショユ(醤油)を使って既に作ったものを持参してる。
だって牛肉があると聞いて、絶対にハンバーグ食べたいと思っていたんだもん。
とりあえず好き嫌いもわからないので、小さめのハンバーグを大量に作ってみました。
足りなければおかわりしてもらえばいいし。
「いただきます」
ヘンリー王子、ダイアナ様、私は同じテーブルで食べる。
お付きの方々、ロナ、ドーラ、ハンスは別のテーブルへ出してある。
「すごく美味しいが、ミンチ作りとみじん切りが大変だな」
そうでしょう、そうでしょう。
王子も実際にやったから、大変さがよくわかったはず。
「ここにはフードプロセッサーがないので……、あっ、そうだ!魔法で似たようなことができるんじゃないでしょうか?」
「食材を細かく切るのなら、風魔法でできるかもしれないわ。今度試してみます」
ダイアナ様、さすがです。
でも風魔法ですよ?使えるんですか?
私の心の声が聞こえたかのように、彼女はにっこりと笑い、頷いた。
なるほど……
風魔法は食材を細かく切るだけでなく、混ぜるのにも使えそうですよね。
バルバラ領、ますます発展していきそうです。
夢にまで見たハンバーグをお腹いっぱい食べた私は、満腹のお腹をさすりながら、馬車へと乗り込んだ。
王宮についた頃にはもう日が暮れていて、報告は明日でいいことになった。
さすがに疲れたわ。
***
ポタンポタン、ボタンポタン
大粒の雨が窓にあたる音で目が覚めた。
カーテンを開けると、空は灰色の雲に覆われ、横殴りの雨がふっている。
心まで暗く染まってしまいそうで、ロナに頼んでローズピンクのドレスにしてもらう。
明るいドレスを着るだけで、気持ちが明るくなった気がする。
謁見の間へ向かうのは、いつまで経っても慣れない。
はりつめたような空気がそうさせるのか……
今回も次々と視察の報告が行われていく。
私は陛下から一番離れた場所で自分が呼ばれるのを待つ。
名が呼ばれ、陛下の前へ歩いていくと、
「この度もいろいろなアイデアを授けたようだな。ご苦労であった」と労いの言葉をかけられた。
これで終わりかと立ち去ろうとしたところで……
「そう急ぐでない。ヘンリーから報告を受けた。そなたはこの国に感謝していて、できるだけ力になりたいと話していたと……」
「はい、確かにそう言いました。できる限りのことをやっていきたいと」
「ふむ。そなたの活躍には目覚ましいものがある。何か褒美を与えたいと思うのだが……」
「いえ、私はただ恩返しをしたかっただけで……」
褒美をいただくほどの働きをした覚えはない。私はただ思い付いたことを口にしただけ。それを実行するのは別の人々だ。
「リナさん、ここはしっかりと交渉しないとダメよ。さぁ、チャンスを掴んで」
陛下の隣に座る王妃様から声がかかった。
「王妃様、そうですね。陛下、私は今後もこの国に滞在し思いついたアイデアは伝えていきますし、視察や会議など要請があれば、できる限り参加いたします。その代わり、私に自由をください。
好きな人と過ごす自由を。
好きな場所で暮らす自由を。
好きな仕事をする自由を。」
「まだ足りないわ。優れたアイデアには対価が必要よ」
「王妃様、本当にありがとうございます」
「はぁー、ステラは私の味方ではないのか?」
「陛下、私はいつでもあなたの味方ですよ。私はあなたに尊敬される統治者であって欲しいだけです」
「まったく……ステラには敵わないなぁ」
「〈神贈り人〉よ。そなたの自由を認めよう」
「では、準備がととのい次第、デリーノ伯爵邸へ帰りたいと思います。ケント様との婚約についても認めていただきたいです」
「ああ、わかった。どちらも認めよう」
「ありがとうございます」
喜びで踊り出したい気持ちを何とか我慢。
退室した私は、自分の部屋へと戻った。
手を握りしめ、バタバタと駆け足で部屋中を駆け回る私。
「リナ様、やりましたねっ!」
「リナ様、よかったですね……」
ロナとドーラも私と一緒に喜んでくれた。
けれど、ドーラが少し元気がないような……
「リナ様、ロナさんともうすぐお別れなんですね……」
そうだ、ドーラは元々陛下についているんだった。
私が引き抜けるような存在ではない。
「ドーラ、私はこれからも王宮に来るわ。来たら必ずあなたに会いに来るから」
「はい、絶対に幸せになってくださいね」
ドーラは私の傍を離れるのは寂しいと泣き、私の願いが叶ってよかったと涙を流してくれた。
あまり立ち入ったことのないであろう厨房へ、ヘンリー王子とダイアナ様もついてきた。
まずは、よく手を洗い、たまねぎをみじん切りにして炒める。
私のみじん切りの早さに、おふたりはびっくりしていたわ。
トントントン、トントントン
包丁がまな板にあたる音が響いて、なんだか料理できる人みたいに見えるのよね。
たまねぎのみじん切りをフライパンで炒めて、粗熱をとっている間に、ミンチを作りましょう。
牛肉のぶつ切りを包丁で細かく叩く。
うーっ、手が疲れたよ~。
一旦休憩しようと包丁を置いたら、王子が私を真似てやり出した。
初めて包丁を握った子どもみたい。
剣を握ったりするから抵抗はないのかな。
嬉しそうに二ッコニコしてる。
隣ではダイアナ様が見守っている。
私が休んでいるうちに、しっかりミンチ状になってる。
腕まくりして腕の筋肉が浮き出ていて、真剣な顔つきで包丁を握る姿、なかなかかっこいいです。
王子、婚約者にいいとこ見せることができてよかったですね。
ダイアナ様があなたを誇らしそうに見ていますよ。
ミンチに塩コショウして、よく混ぜ混ぜする。で、卵、パン粉、牛乳を混ぜて、さっきのたまねぎ入れて混ぜ混ぜ。
チーズの塊を真ん中に入れ形を整え、フライパンへ。
ジュージューと肉の焼けるいい香り。
牛肉100パーセントという何とも贅沢なハンバーグ。
ソースはショユ(醤油)を使って既に作ったものを持参してる。
だって牛肉があると聞いて、絶対にハンバーグ食べたいと思っていたんだもん。
とりあえず好き嫌いもわからないので、小さめのハンバーグを大量に作ってみました。
足りなければおかわりしてもらえばいいし。
「いただきます」
ヘンリー王子、ダイアナ様、私は同じテーブルで食べる。
お付きの方々、ロナ、ドーラ、ハンスは別のテーブルへ出してある。
「すごく美味しいが、ミンチ作りとみじん切りが大変だな」
そうでしょう、そうでしょう。
王子も実際にやったから、大変さがよくわかったはず。
「ここにはフードプロセッサーがないので……、あっ、そうだ!魔法で似たようなことができるんじゃないでしょうか?」
「食材を細かく切るのなら、風魔法でできるかもしれないわ。今度試してみます」
ダイアナ様、さすがです。
でも風魔法ですよ?使えるんですか?
私の心の声が聞こえたかのように、彼女はにっこりと笑い、頷いた。
なるほど……
風魔法は食材を細かく切るだけでなく、混ぜるのにも使えそうですよね。
バルバラ領、ますます発展していきそうです。
夢にまで見たハンバーグをお腹いっぱい食べた私は、満腹のお腹をさすりながら、馬車へと乗り込んだ。
王宮についた頃にはもう日が暮れていて、報告は明日でいいことになった。
さすがに疲れたわ。
***
ポタンポタン、ボタンポタン
大粒の雨が窓にあたる音で目が覚めた。
カーテンを開けると、空は灰色の雲に覆われ、横殴りの雨がふっている。
心まで暗く染まってしまいそうで、ロナに頼んでローズピンクのドレスにしてもらう。
明るいドレスを着るだけで、気持ちが明るくなった気がする。
謁見の間へ向かうのは、いつまで経っても慣れない。
はりつめたような空気がそうさせるのか……
今回も次々と視察の報告が行われていく。
私は陛下から一番離れた場所で自分が呼ばれるのを待つ。
名が呼ばれ、陛下の前へ歩いていくと、
「この度もいろいろなアイデアを授けたようだな。ご苦労であった」と労いの言葉をかけられた。
これで終わりかと立ち去ろうとしたところで……
「そう急ぐでない。ヘンリーから報告を受けた。そなたはこの国に感謝していて、できるだけ力になりたいと話していたと……」
「はい、確かにそう言いました。できる限りのことをやっていきたいと」
「ふむ。そなたの活躍には目覚ましいものがある。何か褒美を与えたいと思うのだが……」
「いえ、私はただ恩返しをしたかっただけで……」
褒美をいただくほどの働きをした覚えはない。私はただ思い付いたことを口にしただけ。それを実行するのは別の人々だ。
「リナさん、ここはしっかりと交渉しないとダメよ。さぁ、チャンスを掴んで」
陛下の隣に座る王妃様から声がかかった。
「王妃様、そうですね。陛下、私は今後もこの国に滞在し思いついたアイデアは伝えていきますし、視察や会議など要請があれば、できる限り参加いたします。その代わり、私に自由をください。
好きな人と過ごす自由を。
好きな場所で暮らす自由を。
好きな仕事をする自由を。」
「まだ足りないわ。優れたアイデアには対価が必要よ」
「王妃様、本当にありがとうございます」
「はぁー、ステラは私の味方ではないのか?」
「陛下、私はいつでもあなたの味方ですよ。私はあなたに尊敬される統治者であって欲しいだけです」
「まったく……ステラには敵わないなぁ」
「〈神贈り人〉よ。そなたの自由を認めよう」
「では、準備がととのい次第、デリーノ伯爵邸へ帰りたいと思います。ケント様との婚約についても認めていただきたいです」
「ああ、わかった。どちらも認めよう」
「ありがとうございます」
喜びで踊り出したい気持ちを何とか我慢。
退室した私は、自分の部屋へと戻った。
手を握りしめ、バタバタと駆け足で部屋中を駆け回る私。
「リナ様、やりましたねっ!」
「リナ様、よかったですね……」
ロナとドーラも私と一緒に喜んでくれた。
けれど、ドーラが少し元気がないような……
「リナ様、ロナさんともうすぐお別れなんですね……」
そうだ、ドーラは元々陛下についているんだった。
私が引き抜けるような存在ではない。
「ドーラ、私はこれからも王宮に来るわ。来たら必ずあなたに会いに来るから」
「はい、絶対に幸せになってくださいね」
ドーラは私の傍を離れるのは寂しいと泣き、私の願いが叶ってよかったと涙を流してくれた。
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