上 下
66 / 70

第66話 作ります

しおりを挟む
バルバラ侯爵邸に帰りついたので、すぐにささっと着替え、厨房へ向かう。

あまり立ち入ったことのないであろう厨房へ、ヘンリー王子とダイアナ様もついてきた。

まずは、よく手を洗い、たまねぎをみじん切りにして炒める。
私のみじん切りの早さに、おふたりはびっくりしていたわ。 
トントントン、トントントン
包丁がまな板にあたる音が響いて、なんだか料理できる人みたいに見えるのよね。

たまねぎのみじん切りをフライパンで炒めて、粗熱をとっている間に、ミンチを作りましょう。
牛肉のぶつ切りを包丁で細かく叩く。

うーっ、手が疲れたよ~。
一旦休憩しようと包丁を置いたら、王子が私を真似てやり出した。
初めて包丁を握った子どもみたい。
剣を握ったりするから抵抗はないのかな。
嬉しそうに二ッコニコしてる。
隣ではダイアナ様が見守っている。

私が休んでいるうちに、しっかりミンチ状になってる。
腕まくりして腕の筋肉が浮き出ていて、真剣な顔つきで包丁を握る姿、なかなかかっこいいです。
王子、婚約者にいいとこ見せることができてよかったですね。
ダイアナ様があなたを誇らしそうに見ていますよ。

ミンチに塩コショウして、よく混ぜ混ぜする。で、卵、パン粉、牛乳を混ぜて、さっきのたまねぎ入れて混ぜ混ぜ。
チーズの塊を真ん中に入れ形を整え、フライパンへ。

ジュージューと肉の焼けるいい香り。
牛肉100パーセントという何とも贅沢なハンバーグ。
ソースはショユ(醤油)を使って既に作ったものを持参してる。

だって牛肉があると聞いて、絶対にハンバーグ食べたいと思っていたんだもん。

とりあえず好き嫌いもわからないので、小さめのハンバーグを大量に作ってみました。
足りなければおかわりしてもらえばいいし。

「いただきます」

ヘンリー王子、ダイアナ様、私は同じテーブルで食べる。
お付きの方々、ロナ、ドーラ、ハンスは別のテーブルへ出してある。

「すごく美味しいが、ミンチ作りとみじん切りが大変だな」

そうでしょう、そうでしょう。
王子も実際にやったから、大変さがよくわかったはず。

「ここにはフードプロセッサーがないので……、あっ、そうだ!魔法で似たようなことができるんじゃないでしょうか?」

「食材を細かく切るのなら、風魔法でできるかもしれないわ。今度試してみます」
ダイアナ様、さすがです。
でも風魔法ですよ?使えるんですか?

私の心の声が聞こえたかのように、彼女はにっこりと笑い、頷いた。
なるほど……

風魔法は食材を細かく切るだけでなく、混ぜるのにも使えそうですよね。

バルバラ領、ますます発展していきそうです。

夢にまで見たハンバーグをお腹いっぱい食べた私は、満腹のお腹をさすりながら、馬車へと乗り込んだ。

王宮についた頃にはもう日が暮れていて、報告は明日でいいことになった。
さすがに疲れたわ。

***

ポタンポタン、ボタンポタン
大粒の雨が窓にあたる音で目が覚めた。
カーテンを開けると、空は灰色の雲に覆われ、横殴りの雨がふっている。

心まで暗く染まってしまいそうで、ロナに頼んでローズピンクのドレスにしてもらう。
明るいドレスを着るだけで、気持ちが明るくなった気がする。

謁見の間へ向かうのは、いつまで経っても慣れない。
はりつめたような空気がそうさせるのか……

今回も次々と視察の報告が行われていく。
私は陛下から一番離れた場所で自分が呼ばれるのを待つ。

名が呼ばれ、陛下の前へ歩いていくと、
「この度もいろいろなアイデアを授けたようだな。ご苦労であった」と労いの言葉をかけられた。

これで終わりかと立ち去ろうとしたところで……
「そう急ぐでない。ヘンリーから報告を受けた。そなたはこの国に感謝していて、できるだけ力になりたいと話していたと……」

「はい、確かにそう言いました。できる限りのことをやっていきたいと」

「ふむ。そなたの活躍には目覚ましいものがある。何か褒美を与えたいと思うのだが……」

「いえ、私はただ恩返しをしたかっただけで……」
褒美をいただくほどの働きをした覚えはない。私はただ思い付いたことを口にしただけ。それを実行するのは別の人々だ。

「リナさん、ここはしっかりと交渉しないとダメよ。さぁ、チャンスを掴んで」
陛下の隣に座る王妃様から声がかかった。

「王妃様、そうですね。陛下、私は今後もこの国に滞在し思いついたアイデアは伝えていきますし、視察や会議など要請があれば、できる限り参加いたします。その代わり、私に自由をください。
好きな人と過ごす自由を。
好きな場所で暮らす自由を。
好きな仕事をする自由を。」

「まだ足りないわ。優れたアイデアには対価が必要よ」

「王妃様、本当にありがとうございます」

「はぁー、ステラは私の味方ではないのか?」

「陛下、私はいつでもあなたの味方ですよ。私はあなたに尊敬される統治者であって欲しいだけです」

「まったく……ステラには敵わないなぁ」

「〈神贈り人〉よ。そなたの自由を認めよう」

「では、準備がととのい次第、デリーノ伯爵邸へ帰りたいと思います。ケント様との婚約についても認めていただきたいです」

「ああ、わかった。どちらも認めよう」

「ありがとうございます」
喜びで踊り出したい気持ちを何とか我慢。
退室した私は、自分の部屋へと戻った。

手を握りしめ、バタバタと駆け足で部屋中を駆け回る私。
「リナ様、やりましたねっ!」
「リナ様、よかったですね……」
ロナとドーラも私と一緒に喜んでくれた。
けれど、ドーラが少し元気がないような……

「リナ様、ロナさんともうすぐお別れなんですね……」
そうだ、ドーラは元々陛下についているんだった。
私が引き抜けるような存在ではない。

「ドーラ、私はこれからも王宮に来るわ。来たら必ずあなたに会いに来るから」

「はい、絶対に幸せになってくださいね」
ドーラは私の傍を離れるのは寂しいと泣き、私の願いが叶ってよかったと涙を流してくれた。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

処理中です...