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第65話 街歩き
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馬車に乗り込み、街へ向かう。
ちょうど昼時ということもあり、あちこちから美味しそうな香りが漂ってくる。
ダイアナ様の案内で、赤い屋根のかわいらしい店に入る。
「ここのシチューは絶品なの」
出てきたのは、あっつあつのビーフシチュー。
大きめの牛肉がゴロゴロ入っている。
歯がスーっと入り、噛むとホロホロと崩れる。
あまりの美味しさに頬が落ちそう。
「とっても美味しいです。ところで、殿下、困り事って何ですか?」
早く知りたくて問いかけた私に、答えてくれたのはダイアナ様だった。
「バルバラ領には多くの牛がいるんだけど、どんどん数が減っているの。盗まれているのか、動物に襲われているのか……何が起こっているのか掴めないのよ」
「牛は牛舎で管理しているんじゃないんですか?」
「ええ、夕方から朝にかけては牛舎に入れているわ。昼間は高原に放しているの。」
「そこで牛は食事をしたり、自由に過ごしているということなんですね。何が起こっているかわからないということは襲われた形跡はないんですよね?」
「ええ。本気夕方に牛を集めて連れて帰るのだけど、だんだん減っているのよ」
「人が監視しているのですか?」
「毎日三人体制で監視しているはずよ」
「では、誰が担当の時に何頭減っているのか。信頼のおける方にこっそり調べてもらうようにしてください。誰かが監視をサボっている間に盗まれているのか……疑いたくはないでしょうが、監視している担当者自身が盗人の仲間かもしれません。
あとは、牛を管理する犬を育成できるといいんですけど……」
「牛を管理する犬?」
「はい。群れから離れた牛を連れ戻したり、外敵が近づいたら威嚇したり、吠えて人に知らせたりしてくれます」
「それはいいわね。そんな賢い犬がいるの?」
「ここにいるかはわかりませんが、私がいた場所には羊を管理する犬がいましたよ。牛を管理できる賢い犬もいると聞いたことがあります。実際に見たことはないんですが……適正がありそうな犬を訓練してみてはどうでしょう?」
「ええ、是非ともチャレンジしてみたいわ。これからも力になってくれる?」
「はい、私にできることなら……
牛がいなくなっている件も、どうなったか後日教えていただけますか?原因が特定できない時には他にも考えてみますから」
「リナさん、ありがとう」
ダイアナ様はきっと人を疑いたくないんだ。
あまり人を監視したくないんだと思う。
複雑そうな顔だったけど、こっそり調べることが必要だと思いながらも、先延ばしにしていたみたい。
「リナさん、そんな安請け合いしていいの?」
ヘンリー王子が心配してくれる。
彼が私をここへ連れてきたのに……
悪い人じゃないんだなぁ。
ちゃんと私のことも気遣ってくれている。
「私はこの国に来てから、ずっと周りの方々に助けていただいて、今まで生きてきました。すごく感謝しています。だから、私にできることはやってみたいんです。この国への恩返しみたいな感じですかね……」
「あっ、でも私からもお願いしてもいいでしょうか?ダイアナ様にお願いがあります。牛肉を使って、私に料理を作らせてもらえませんか?」
「えっ、そんなことでいいの?」
「はいっ!ヘンリー殿下の希望でもありますし……」
「おお、そうだった。何か美味しいものを作ってくれと頼んでいたんだ。
ダイアナ、彼女は変わった料理を作るんだ。しかも美味しい。土産のクッキーも変わっていただろう?」
「はい、真っ白なクッキーはサクッとしているのに、すぐにシュワ-と溶けてしまって……不思議な感じ。しかも美味しかったです。リナさんがヘンリー殿下に何か料理を作るのでしたら、私も食べたいです」
ウルウルとした瞳でおねだりされたら……もちろん断ることなどできない。
お姉さんに任せなさいっと言いたい。
それに、ダイアナ様の後ろから殿下の『断るなよ』というするどい視線がビシビシと刺さる。
「わかりました。作りましょう!今日のうちに王宮へ帰るんでしたら、バルバラ侯爵邸に帰り次第、すぐ作ります。早めの夕飯にいかがですか?」
「わかったわ。連絡を入れるので必要なものを教えて」
ダイアナ様に材料の用意と厨房の使用許可をお願いする。
ミンチ状の牛肉を頼んだが、そういったものはないそうで、ぶつ切りを用意してもらうことになった。
包丁で叩いてミンチにするのは大変そうだ。
材料を擂り潰すような調理器具についてもあれば準備してくれるよう頼んだ。
シチューを食べ終わり、街を歩いて散策する。
串焼きの店が多いわね。
乳製品を遣ったお菓子が多いんじゃないかと想像していたが、意外と少ない。
「デザートの店は少ないんですね」
「デザートは冷たい場所で保管しないとならないから、氷や水魔法持ちが関与しない限りは難しいのよ。だから魔法持ちを雇えるくらい大きな商店でないと無理なの」
「そうなんですね。牛乳やバター、チーズがあればデザートを食べ歩きする街みたいにしたらいいのになぁと思って。デザートをあれこれと気軽に食べられると女性が集まるでしょ?デートの目的地にもなりますよ」
「リナさんはすごいわね。あなたと話していると、次々とアイデアが飛び出してきて面白いわ。領地の利益に繋がる話だし、試せるものからやっていきたいわ」
「ダイアナ様こそ、決断が早くて頼もしいです。バルバラは安泰ですね」
「ふふっ、ありがとう。いずれはヘンリー殿下と私で盛り立てていく予定よ」
ヘンリー王子と視線を合わせ、頬を染めるダイアナ様。初々しくていいっ。
「ダイアナ、リナさんと仲良くなれてよかったな。さぁ、遅くなる前に帰ろう。リナさんの手料理が楽しみだ」
優しく彼女の背を押すヘンリー王子。
あー、いいな。
私もケント様に会いたくなっちゃった。
ちょうど昼時ということもあり、あちこちから美味しそうな香りが漂ってくる。
ダイアナ様の案内で、赤い屋根のかわいらしい店に入る。
「ここのシチューは絶品なの」
出てきたのは、あっつあつのビーフシチュー。
大きめの牛肉がゴロゴロ入っている。
歯がスーっと入り、噛むとホロホロと崩れる。
あまりの美味しさに頬が落ちそう。
「とっても美味しいです。ところで、殿下、困り事って何ですか?」
早く知りたくて問いかけた私に、答えてくれたのはダイアナ様だった。
「バルバラ領には多くの牛がいるんだけど、どんどん数が減っているの。盗まれているのか、動物に襲われているのか……何が起こっているのか掴めないのよ」
「牛は牛舎で管理しているんじゃないんですか?」
「ええ、夕方から朝にかけては牛舎に入れているわ。昼間は高原に放しているの。」
「そこで牛は食事をしたり、自由に過ごしているということなんですね。何が起こっているかわからないということは襲われた形跡はないんですよね?」
「ええ。本気夕方に牛を集めて連れて帰るのだけど、だんだん減っているのよ」
「人が監視しているのですか?」
「毎日三人体制で監視しているはずよ」
「では、誰が担当の時に何頭減っているのか。信頼のおける方にこっそり調べてもらうようにしてください。誰かが監視をサボっている間に盗まれているのか……疑いたくはないでしょうが、監視している担当者自身が盗人の仲間かもしれません。
あとは、牛を管理する犬を育成できるといいんですけど……」
「牛を管理する犬?」
「はい。群れから離れた牛を連れ戻したり、外敵が近づいたら威嚇したり、吠えて人に知らせたりしてくれます」
「それはいいわね。そんな賢い犬がいるの?」
「ここにいるかはわかりませんが、私がいた場所には羊を管理する犬がいましたよ。牛を管理できる賢い犬もいると聞いたことがあります。実際に見たことはないんですが……適正がありそうな犬を訓練してみてはどうでしょう?」
「ええ、是非ともチャレンジしてみたいわ。これからも力になってくれる?」
「はい、私にできることなら……
牛がいなくなっている件も、どうなったか後日教えていただけますか?原因が特定できない時には他にも考えてみますから」
「リナさん、ありがとう」
ダイアナ様はきっと人を疑いたくないんだ。
あまり人を監視したくないんだと思う。
複雑そうな顔だったけど、こっそり調べることが必要だと思いながらも、先延ばしにしていたみたい。
「リナさん、そんな安請け合いしていいの?」
ヘンリー王子が心配してくれる。
彼が私をここへ連れてきたのに……
悪い人じゃないんだなぁ。
ちゃんと私のことも気遣ってくれている。
「私はこの国に来てから、ずっと周りの方々に助けていただいて、今まで生きてきました。すごく感謝しています。だから、私にできることはやってみたいんです。この国への恩返しみたいな感じですかね……」
「あっ、でも私からもお願いしてもいいでしょうか?ダイアナ様にお願いがあります。牛肉を使って、私に料理を作らせてもらえませんか?」
「えっ、そんなことでいいの?」
「はいっ!ヘンリー殿下の希望でもありますし……」
「おお、そうだった。何か美味しいものを作ってくれと頼んでいたんだ。
ダイアナ、彼女は変わった料理を作るんだ。しかも美味しい。土産のクッキーも変わっていただろう?」
「はい、真っ白なクッキーはサクッとしているのに、すぐにシュワ-と溶けてしまって……不思議な感じ。しかも美味しかったです。リナさんがヘンリー殿下に何か料理を作るのでしたら、私も食べたいです」
ウルウルとした瞳でおねだりされたら……もちろん断ることなどできない。
お姉さんに任せなさいっと言いたい。
それに、ダイアナ様の後ろから殿下の『断るなよ』というするどい視線がビシビシと刺さる。
「わかりました。作りましょう!今日のうちに王宮へ帰るんでしたら、バルバラ侯爵邸に帰り次第、すぐ作ります。早めの夕飯にいかがですか?」
「わかったわ。連絡を入れるので必要なものを教えて」
ダイアナ様に材料の用意と厨房の使用許可をお願いする。
ミンチ状の牛肉を頼んだが、そういったものはないそうで、ぶつ切りを用意してもらうことになった。
包丁で叩いてミンチにするのは大変そうだ。
材料を擂り潰すような調理器具についてもあれば準備してくれるよう頼んだ。
シチューを食べ終わり、街を歩いて散策する。
串焼きの店が多いわね。
乳製品を遣ったお菓子が多いんじゃないかと想像していたが、意外と少ない。
「デザートの店は少ないんですね」
「デザートは冷たい場所で保管しないとならないから、氷や水魔法持ちが関与しない限りは難しいのよ。だから魔法持ちを雇えるくらい大きな商店でないと無理なの」
「そうなんですね。牛乳やバター、チーズがあればデザートを食べ歩きする街みたいにしたらいいのになぁと思って。デザートをあれこれと気軽に食べられると女性が集まるでしょ?デートの目的地にもなりますよ」
「リナさんはすごいわね。あなたと話していると、次々とアイデアが飛び出してきて面白いわ。領地の利益に繋がる話だし、試せるものからやっていきたいわ」
「ダイアナ様こそ、決断が早くて頼もしいです。バルバラは安泰ですね」
「ふふっ、ありがとう。いずれはヘンリー殿下と私で盛り立てていく予定よ」
ヘンリー王子と視線を合わせ、頬を染めるダイアナ様。初々しくていいっ。
「ダイアナ、リナさんと仲良くなれてよかったな。さぁ、遅くなる前に帰ろう。リナさんの手料理が楽しみだ」
優しく彼女の背を押すヘンリー王子。
あー、いいな。
私もケント様に会いたくなっちゃった。
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