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第63話 バルバラ領

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ヘンリー王子からバルバラ領視察の話を聞いてから、困り事が何なのか、私で力になれることがあるのか気になっている。
でも、それ以上に牛肉が気になる。
ずっとずっと食べたいものがあるのだから……

牛肉が、牛肉があるって言ってたわね。
焼かれた肉は食事に出てくるんだけど、あれ、あれが出てこないのよねぇ。
食べたい、食べたいなぁ。

今日はダンスレッスンがある。
よくできた侍女ロナは私の髪をサイドに寄せたフィッシュボーンに編み込んでくれた。
ロナもドーラも知らない編み方だというので編み方を教えたら、すぐにできるようになった。
ドーラはふんわり柔らかなメイクを施してくれた。
今日のはアイボリーのレース生地でできたドレス。

「今日のリナ様はかわいらしい妖精のようです」
「本当に可憐です」
ふたりして私を持ち上げてくれる。

もうすぐケント様に会える。
そう考えただけで、胸が高鳴る。
少しでもいい。かわいいと思ってくれるかな……

ダンスホールへ向かうと、まだ早い時間にも関わらずケント様が来ていた。
マーラ夫人が来るまで休憩用のイスに座り、
会話を楽しむ。

ケント様はお父上であるアレン様の仕事を順調に引き継ぎ、かなりの部分を1人で担当するようになったそう。

「ケント様、すごい、すごいですね」

「ああ、リナが帰ってきたら婚姻に向かって具体的に動きだそう」

「えっ……でも、まだ婚約の許可もおりてないのに大丈夫なの?」

「それが何とかなりそうなんだ。前回の視察で目覚ましい活躍があったそうじゃないか。それに王太子夫妻との仲も良好とのことで、もう少ししたら、デリーノへ帰してもいいのではとの意見があがっていると聞いたんだ」

「えっ、そうなの?そうなれば嬉しい。それまではしっかりと学び、しっかり働かないと」

「働くって、リナは働いてるの?」

「ううん、特には何もしてないよ。でも、お世話になりっぱなしは申し訳ないから、何かこうしたほうがと気づいたことがあれば伝えたりしてる。
本当に小さなことなんだけどね。
効率化やコストカットに繋がればいいなと思って。
ほら、『塵も積もれば山となる』と言うじゃない。些細な行動も積み重ねていけば、大きな結果に繋がるという意味よ。
自ら協力する意思があると示していけば……」

「ふうーん、『塵も積もれば山となる』初めて聞いたよ。リナの生まれ育った国ではそういった言葉があるんだね」

「そう、そういう言葉をことわざというのよ。学校で習うんだ。懐かしいな~」

「帰りたくなった?」

「うーん、帰りたくないと言ったら嘘になるかな。でも考えないようにしてる。起きたことは仕方がないでしょ?私は前を向いて生きていきたいの。ケント様と……」

「うん」

彼と話していると、あっという間に時間が経ち、マーラ夫人がやってきた。

まずは基本のステップを踏み、次に夫人のピアノに合わせ、ケント様と踊る。

「息もぴったりですね。もうダンスレッスンは終了でいいでしょう。よく頑張りましたね」

「マーラ夫人、私を導いてくださり、ありがとうございました」
感謝の気持ちを込めて、しっかりと頭を下げた私。
夫人は優しく私の背中を叩き、退室していった。

ダンスを皮切りに、終了を告げる講師が出てきた。

***

そしていよいよバルバラでの視察へ。
バルバラは王都から馬車で5時間ほど離れた領地。
日帰りできないことはないが、かなりの強行軍になるということで、今回はバルバラ侯爵邸で一泊するそうだ。

泊まりの荷物は、ロナとドーラが準備してくれている。

ヘンリー王子は側近の方々と、私はロナとドーラと馬車へ乗り込む。
ハンスは馬で並走。
わたしの周りは、いつものメンバーだ。

視察の話を知った王太子妃アリエラ様は同行したいと目で訴えていたが、私の一存ではどうにもならない。
ヘンリー王子とガチャガチャ揉めて、却下されたようだ。

アリエラ様がいないのは残念だけど、現地にはバルバラ侯爵令嬢ダイアナ様がいるはずだ、
仲良くなれるといいなぁと思い、手作りの焼き菓子を土産にと持参した。

今回作ったのはメレンゲクッキー。
真っ白な見た目めもかわいらしい。
サクッとしてシュワーと溶ける独特な食感が面白いとロナとドーラは気に入ってくれた。
ダイアナ様はどうだろうか……
今回は留守番となるアリエラ様には多めに渡してきたので、きっと王妃様とお茶の時間にでも召し上がっていただけるだろう。

長い道のりを馬車に揺られていると、車窓から見える風景がだんだんのどかになってきた。

おおっ、あそこに牛を発見。
広大な牧草地をゆったりと歩きながら、草を食んでいる。
白と黒の柄な牛を想像していたけれど、今まで見た牛は茶色や黒色だった。
品種によって違うのかな……

そのまま通り過ぎ、まずはバルバラ侯爵家を訪れ、挨拶する。
バルバラ侯爵夫妻は私たちを温かく歓迎してくれた。

夫妻の後ろからヒョッコリ現れたお嬢様。
栗色の髪は柔らかく波打ち、翡翠のように美しい緑のキラキラした瞳。
白くてマシュマロのような肌をお持ちで、思わずその柔らかそうな頬を触りたくなる。

「ダイアナ、久しぶりだね。彼女はリナ、手紙に書いてた〈神贈り人〉だよ」

「リナ、君は今、僕に無断でダイアナに触れようとしたね?ダイアナは僕のだから、触っちゃダメだよ?」
あっ、ついつい彼女の頬に手を伸ばしていたようだ。
いや、わざとじゃなくて、無意識に。
ヘンリー王子が止めてくれてよかった。

初対面で頬を触ったりしたら、警戒されちゃうとこだった。
第三王子と婚約者の仲も良好なんだね。

ヘンリー王子、かわいらしく告げたつもりかもしれませんが、『ダイアナは僕のだから』と告げた時の目がするどくて怖かったです。





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