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第54話 謝ってばかり
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「王妃様に逢瀬なんて言われちゃいましたね……
ケント様はダンスのレッスンで来てくれただけなのにね。
ケント様、ダンスパートナーを引き受けてくれてありがとうございます。
久しぶりにあなたに会えて嬉しかった。
久しぶりにあなたと踊れて楽しかった。
でも、どうして会いに来てくれなかったの?
私はずっと、ずっと待っていたのに……約束したのに……もう私のことなんかどうでもいいの?」
彼とふたりきりになると、溜まっていた想いがどんどん、どんどん、言葉となって溢れてくる。
我ながら恨みがましいと思う。
胸に何かが込み上げてもやもやっとするし、鼻はつーんとして、目の縁からポロポロ涙が溢れ落ちる。
「もう、もう、忘れられてしまったかと思って、悲しくて……寂しかったんだから」
ずっと我慢していた。
彼に会ったことで、我慢がきかなくなり、彼の胸でぐずぐずと泣き崩れる。
「すまない。リナ、不安にさせてごめん。僕が不甲斐ないばかりに……」
「どうせ次もダンスの時に来ればいいやと思ってるんでしょう?」
「そうじゃないんだ。君がいないと何もかもがどうでもいいように思えて……
言い訳になるけれど、一度だけリナに会いに来たんだ。君は講義中で会えなかったんだけど……」
「講義が終わるのを待っていてくれればよかったのに」
「ごめん」
「伝言やメモを残してくれればよかったのに」
「ごめん」
「ごめん、ごめん、と謝ってばかりでずるい」
「ごめん」
「もーうなんなのよ」
久しぶりに会った好きな人の前で、泣き崩れてぐちゃぐちゃな顔になっちゃったじゃないのよ。
「ごめん。僕が不甲斐ないばかりに……」
「そうよ、もっと自信を持ってよ。あなたは……私が好きになった人なんだから。ダンスパートナーとしてではなく、別の時にも会いに来て。私に会いたくないの?
私はケント様に会いたかったよ。会いたくて……会いたいのに、私からは会いにいけないんだもの」
「うん」
ぐずぐずに泣きじゃくる私の頭に大きな手が置かれた。
そのまま動けずにいると、その手がゆっくりゆっくりと私の頭の上を移動する。
そのぎこちない動きが、彼らしい。
「ごめん、次は必ず会いに来るから」
「うん、ダンス以外の時にも来てよ」
「うん、わかった」
本当に?本当に来てくれるんだろうか。
ケント様なだけに、怪しいものだ。
名残惜しいけれど、そろそろ次の講義が控えている。
彼の胸から距離をとる。
うわぁ~、シャツが濡れて、べちゃって。
しわがよってヨレヨレになってる。
これはどうしようもないな。
触れずに退散しよう。
「じゃあ、次の講義があるから……またね。今日はありがとう」
ケント様と別れ、部屋を移動する。
部屋に着くと、ロナとドーラが崩れた化粧や髪をすぐにととのえてくれる。
特に目は赤くなっていることだろう。
ドーラがこっそり氷を出して、ハンカチに包み、目にあてるよう渡してくれた。
こんなことに貴重な氷魔法を使わせてしまうなんて申し訳ない。
でも本当に助かる。
次の講義は、なんと王太子妃アリエラ様とご一緒するのだ。
アマリア王国の地理について。
各地方の気候や特産品などを学ぶ。
後日、王太子夫妻が地方の視察へ出るのに、私も同行することが決まったので、視察前の情報収集も兼ねている。
以前訪れたザブン領の話もあった。
ユリナーテ様、元気にしてるかな?
ロドニ-様とケンカしてないかな?
ザブンは海産物以外にも新たな特産品として、ショユ(醤油)やミッソ(味噌)があげられていて、なんだか嬉しくなった。
日本由来の調味料がこの国に認められたようで……
もちろんデリーノについても学んだ。
デリーノは柑橘類だったり、農作物もあり、自然豊かな場所。
ここ最近は変わった料理を出す店が増え、食べ歩き目的で訪れる旅行者が増えたらしい。
変わった料理として、唐揚げ、魚フライなどが名を連ねていて、驚いた。
もうそんなに取り上げられるほど広がってるの?
唐揚げもフライも美味しいからね。
海が遠い為、一部の人にしか手が届かなかった魚料理がデリーノ領では庶民にもなんとか手が届く価格に抑えられている。
それもこれもロドニ-様の状態維持魔法のおかげだ。
デリーノには、ロドニ-様が魔法をかけた特別便で新鮮な魚が届くから。
他にも鉱石が算出される領だったり、木材や織物で有名な領が紹介され、とても興味深かった。
穀物や野菜が豊富に作られている地域、酪農が盛んな地域は特に気になる。
何がって、どんな美味しい料理があるのかなって。
きっと地域、地域の郷土料理みたいなものがあると思うのよね。
そして最後に、今回視察する予定のラザーニア領。
ラザーニアは王宮が建つ王都のすぐ隣。
端の地域は水か豊富で、宝石や金属が取れる地域が近い為、金属加工、宝石加工の工場が集まっているらしい。
へぇー、意外だ。
職人の街を治めているのが公爵様だなんて……
そういえば、モリーヌ様は男爵令嬢だった時からいかにも高そうな宝石を身に付けていたような気がする。
男性に買ってもらったものもあるだろうけれど、もしかしたら実の父親である公爵様から贈られたものもあったのかも。
視察では、工場も見学できるのかな?
あー、楽しみだ。
ケント様はダンスのレッスンで来てくれただけなのにね。
ケント様、ダンスパートナーを引き受けてくれてありがとうございます。
久しぶりにあなたに会えて嬉しかった。
久しぶりにあなたと踊れて楽しかった。
でも、どうして会いに来てくれなかったの?
私はずっと、ずっと待っていたのに……約束したのに……もう私のことなんかどうでもいいの?」
彼とふたりきりになると、溜まっていた想いがどんどん、どんどん、言葉となって溢れてくる。
我ながら恨みがましいと思う。
胸に何かが込み上げてもやもやっとするし、鼻はつーんとして、目の縁からポロポロ涙が溢れ落ちる。
「もう、もう、忘れられてしまったかと思って、悲しくて……寂しかったんだから」
ずっと我慢していた。
彼に会ったことで、我慢がきかなくなり、彼の胸でぐずぐずと泣き崩れる。
「すまない。リナ、不安にさせてごめん。僕が不甲斐ないばかりに……」
「どうせ次もダンスの時に来ればいいやと思ってるんでしょう?」
「そうじゃないんだ。君がいないと何もかもがどうでもいいように思えて……
言い訳になるけれど、一度だけリナに会いに来たんだ。君は講義中で会えなかったんだけど……」
「講義が終わるのを待っていてくれればよかったのに」
「ごめん」
「伝言やメモを残してくれればよかったのに」
「ごめん」
「ごめん、ごめん、と謝ってばかりでずるい」
「ごめん」
「もーうなんなのよ」
久しぶりに会った好きな人の前で、泣き崩れてぐちゃぐちゃな顔になっちゃったじゃないのよ。
「ごめん。僕が不甲斐ないばかりに……」
「そうよ、もっと自信を持ってよ。あなたは……私が好きになった人なんだから。ダンスパートナーとしてではなく、別の時にも会いに来て。私に会いたくないの?
私はケント様に会いたかったよ。会いたくて……会いたいのに、私からは会いにいけないんだもの」
「うん」
ぐずぐずに泣きじゃくる私の頭に大きな手が置かれた。
そのまま動けずにいると、その手がゆっくりゆっくりと私の頭の上を移動する。
そのぎこちない動きが、彼らしい。
「ごめん、次は必ず会いに来るから」
「うん、ダンス以外の時にも来てよ」
「うん、わかった」
本当に?本当に来てくれるんだろうか。
ケント様なだけに、怪しいものだ。
名残惜しいけれど、そろそろ次の講義が控えている。
彼の胸から距離をとる。
うわぁ~、シャツが濡れて、べちゃって。
しわがよってヨレヨレになってる。
これはどうしようもないな。
触れずに退散しよう。
「じゃあ、次の講義があるから……またね。今日はありがとう」
ケント様と別れ、部屋を移動する。
部屋に着くと、ロナとドーラが崩れた化粧や髪をすぐにととのえてくれる。
特に目は赤くなっていることだろう。
ドーラがこっそり氷を出して、ハンカチに包み、目にあてるよう渡してくれた。
こんなことに貴重な氷魔法を使わせてしまうなんて申し訳ない。
でも本当に助かる。
次の講義は、なんと王太子妃アリエラ様とご一緒するのだ。
アマリア王国の地理について。
各地方の気候や特産品などを学ぶ。
後日、王太子夫妻が地方の視察へ出るのに、私も同行することが決まったので、視察前の情報収集も兼ねている。
以前訪れたザブン領の話もあった。
ユリナーテ様、元気にしてるかな?
ロドニ-様とケンカしてないかな?
ザブンは海産物以外にも新たな特産品として、ショユ(醤油)やミッソ(味噌)があげられていて、なんだか嬉しくなった。
日本由来の調味料がこの国に認められたようで……
もちろんデリーノについても学んだ。
デリーノは柑橘類だったり、農作物もあり、自然豊かな場所。
ここ最近は変わった料理を出す店が増え、食べ歩き目的で訪れる旅行者が増えたらしい。
変わった料理として、唐揚げ、魚フライなどが名を連ねていて、驚いた。
もうそんなに取り上げられるほど広がってるの?
唐揚げもフライも美味しいからね。
海が遠い為、一部の人にしか手が届かなかった魚料理がデリーノ領では庶民にもなんとか手が届く価格に抑えられている。
それもこれもロドニ-様の状態維持魔法のおかげだ。
デリーノには、ロドニ-様が魔法をかけた特別便で新鮮な魚が届くから。
他にも鉱石が算出される領だったり、木材や織物で有名な領が紹介され、とても興味深かった。
穀物や野菜が豊富に作られている地域、酪農が盛んな地域は特に気になる。
何がって、どんな美味しい料理があるのかなって。
きっと地域、地域の郷土料理みたいなものがあると思うのよね。
そして最後に、今回視察する予定のラザーニア領。
ラザーニアは王宮が建つ王都のすぐ隣。
端の地域は水か豊富で、宝石や金属が取れる地域が近い為、金属加工、宝石加工の工場が集まっているらしい。
へぇー、意外だ。
職人の街を治めているのが公爵様だなんて……
そういえば、モリーヌ様は男爵令嬢だった時からいかにも高そうな宝石を身に付けていたような気がする。
男性に買ってもらったものもあるだろうけれど、もしかしたら実の父親である公爵様から贈られたものもあったのかも。
視察では、工場も見学できるのかな?
あー、楽しみだ。
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