51 / 70
第51話 ダンスレッスン
しおりを挟む
今日はマーラ夫人のダンスレッスンがある。
彼女は『次回、ダンスパートナーを連れてくる』と言っていたけれど、パートナーが誰であるか明言しなかった。
なかなか決まらなかったのだろうか。
私がケント様を指名したと知っている彼女なら、彼を連れてきてくれるのではないかと、期待が高まる。
今日はケント様に会えるかもということで、ロナがはりきって髪にリボンを巻き込んでかわいく、崩れにくいよう複雑に編んでくれた。
用意されたドレスはスカイブルー。
ケント様と初めての舞踏会で着た思い出のドレスだ。
高鳴る胸を押さえながら、ゆっくりダンスホールへ向かう。
すると、廊下の曲がり角からひょっこりモレーヌ様が現れた。
淡いピンクのドレスがとても愛らしい。
「あなたのせいで、あなたのせいで、大変だったんだからっ!お父様にひどく怒られたんだからっ!」
ぷりぷり文句を言いながら後をついてくる。
見た目はかわいらしいのに、態度はふてぶてしい。
公爵に怒られた?
王族の居住スペースに許可なく入り込もうとしたんだもの。
怒られて当然よ。
というか、よくそれだけで済んだものだ。
一応は親戚にあたるから?
公爵が罪に問われないよう手をうったのかしら。
ダンスホールの中まで、彼女はズンズンついてきた。
「モリーヌ様、私は今からマーラ夫人のダンスレッスンなんです。夫人がいらっしゃる前に退室していただけませんか?」
「あら、どうして私が出ていかなきゃならないの?私も一緒にレッスンを受けるわ。それにあなたに指図されるいわれはないわ」
いやいや、前回マーラ夫人に断られましたよね?
ダンスホールから追い出されましたよね?
これから来るパートナーがケント様だったとしたら……
嫌だ、彼とモリーヌ様を会わせたくない。
彼女にはいろいろ問題がありそうだが、それでもやはりかわいらしくて魅力的だ。
再会して、万が一彼女を選ばれたら……立ち直れそうにない。
「前回、夫人からレッスンを断られましたよね?」
「あなた、前回、前回ってうるさいわね。今回は大丈夫よ」
モリーヌ様は、なかなかめげない性格のようだ。
あー、どうしたら、どう言ったら出ていってくれるの?
私が頭を抱えていると、マーラ夫人が入ってきた。
モリーヌ様を見て、気分を悪くされるのではないかと不安になる。
夫人は厳しい方なのだ。
夫人は彼女を見て、『はーっ、ふうーっ』と大きく深呼吸した。
「またいらしてたのね……」
「はい、マーラ夫人、先日は立場を弁えず、申し訳ございませんでした。本日はレッスンをよろしくお願いいたします」
モリーヌ様は夫人へ頭を下げた。
「そう…………わかりました。ラザーニア公爵から正式な依頼がきておりましたし、仕方がないですわね」
えっ、えー、これから一緒にレッスンを受けるの?
嫌だ、嫌だけど、夫人が許可したのであれば仕方がない。
「今日はダンスバートナーをお連れしました」
夫人の声に合わせ、ケント様がホールへ足を踏み入れた。
ケント様、ケント様だわ。
俯きがちで背中が少し丸まっている。
ふふふっ、彼は変わらないわね。
もっと堂々とすればカッコいいのに。
嬉しくて駆け寄りたくなる。
一歩前に足が出たところで、踏み止まる。
「あっ、ケント、久しぶりねっ!」
モリーヌ様が満面の笑顔で彼へと駆け寄ると、彼の腕に巻きついた。
はっ? 彼の名を呼び捨てたわねっ!
するりと腕に巻きついた?
信じられない……
「モリーヌ様、彼に触らないでください。
彼は私の婚約者……まだだけど……婚約者になる予定なんです」
怒鳴りたいのをぐっと我慢。
冷静に、冷静にと気持ちを押さえ、できるだけ淡々と告げる。
「あら?婚約者ではないのよね?
それならあなたが私に注意する権利などないはずよ。
私が来たからには、あなたが婚約者の席へ座ることはもうないと思うけれど……
それにしても、あなた、なかなか往生際が悪いわね。ケントのことは諦めなさいよっ!彼は私と一緒になれば、美しい妻も次期公爵の地位も手に入るのよ。彼の将来を考えたらどうかしら?」
「うっ……」
泣きそうだ。
確かにモリーヌ様は美しい。
次期公爵の地位は喉から手が出るくらい欲しい方もいるだろう。
でも、彼女の言葉に負けちゃダメだ。
「あなたこそ、彼の気持ちを全く考えてないじゃない。彼はデリーノ伯爵家の跡取りなのよ?彼が本当に大切ならあなたが嫁ぐはずだわ」
そう、そうなのだ。
モリーヌ様は自分のことしか考えていない。
私も……どうなんだろう。
私たちが言い合っても意味がない。決めるのは、ケント様なのだ。
パン、パン
マーラ夫人が大きく手を叩いた。
「もういいかしら?今からレッスンを始めるわよ。まずは基本のステップから」
夫人の手拍子に合わせ、モリーヌ様と私がステップを踏む。
彼女、なかなかやるわね。
「2人とも基本はできてるわね。次は実際に踊ってみましょう。ケント様、お願いします。まずは、リナさん、前に出て」
「はい」
ケント様が私をエスコートし、ホールの中心へ誘う。
夫人の軽やかなピアノの音がホールに響き、その音に合わせ、私は彼と踊り出す。
彼のリードは、本当に安心できる。
踊り出すと、背筋がビンと伸びてかっこいいのよね……
いつもそうしていればいいのに。
彼女は『次回、ダンスパートナーを連れてくる』と言っていたけれど、パートナーが誰であるか明言しなかった。
なかなか決まらなかったのだろうか。
私がケント様を指名したと知っている彼女なら、彼を連れてきてくれるのではないかと、期待が高まる。
今日はケント様に会えるかもということで、ロナがはりきって髪にリボンを巻き込んでかわいく、崩れにくいよう複雑に編んでくれた。
用意されたドレスはスカイブルー。
ケント様と初めての舞踏会で着た思い出のドレスだ。
高鳴る胸を押さえながら、ゆっくりダンスホールへ向かう。
すると、廊下の曲がり角からひょっこりモレーヌ様が現れた。
淡いピンクのドレスがとても愛らしい。
「あなたのせいで、あなたのせいで、大変だったんだからっ!お父様にひどく怒られたんだからっ!」
ぷりぷり文句を言いながら後をついてくる。
見た目はかわいらしいのに、態度はふてぶてしい。
公爵に怒られた?
王族の居住スペースに許可なく入り込もうとしたんだもの。
怒られて当然よ。
というか、よくそれだけで済んだものだ。
一応は親戚にあたるから?
公爵が罪に問われないよう手をうったのかしら。
ダンスホールの中まで、彼女はズンズンついてきた。
「モリーヌ様、私は今からマーラ夫人のダンスレッスンなんです。夫人がいらっしゃる前に退室していただけませんか?」
「あら、どうして私が出ていかなきゃならないの?私も一緒にレッスンを受けるわ。それにあなたに指図されるいわれはないわ」
いやいや、前回マーラ夫人に断られましたよね?
ダンスホールから追い出されましたよね?
これから来るパートナーがケント様だったとしたら……
嫌だ、彼とモリーヌ様を会わせたくない。
彼女にはいろいろ問題がありそうだが、それでもやはりかわいらしくて魅力的だ。
再会して、万が一彼女を選ばれたら……立ち直れそうにない。
「前回、夫人からレッスンを断られましたよね?」
「あなた、前回、前回ってうるさいわね。今回は大丈夫よ」
モリーヌ様は、なかなかめげない性格のようだ。
あー、どうしたら、どう言ったら出ていってくれるの?
私が頭を抱えていると、マーラ夫人が入ってきた。
モリーヌ様を見て、気分を悪くされるのではないかと不安になる。
夫人は厳しい方なのだ。
夫人は彼女を見て、『はーっ、ふうーっ』と大きく深呼吸した。
「またいらしてたのね……」
「はい、マーラ夫人、先日は立場を弁えず、申し訳ございませんでした。本日はレッスンをよろしくお願いいたします」
モリーヌ様は夫人へ頭を下げた。
「そう…………わかりました。ラザーニア公爵から正式な依頼がきておりましたし、仕方がないですわね」
えっ、えー、これから一緒にレッスンを受けるの?
嫌だ、嫌だけど、夫人が許可したのであれば仕方がない。
「今日はダンスバートナーをお連れしました」
夫人の声に合わせ、ケント様がホールへ足を踏み入れた。
ケント様、ケント様だわ。
俯きがちで背中が少し丸まっている。
ふふふっ、彼は変わらないわね。
もっと堂々とすればカッコいいのに。
嬉しくて駆け寄りたくなる。
一歩前に足が出たところで、踏み止まる。
「あっ、ケント、久しぶりねっ!」
モリーヌ様が満面の笑顔で彼へと駆け寄ると、彼の腕に巻きついた。
はっ? 彼の名を呼び捨てたわねっ!
するりと腕に巻きついた?
信じられない……
「モリーヌ様、彼に触らないでください。
彼は私の婚約者……まだだけど……婚約者になる予定なんです」
怒鳴りたいのをぐっと我慢。
冷静に、冷静にと気持ちを押さえ、できるだけ淡々と告げる。
「あら?婚約者ではないのよね?
それならあなたが私に注意する権利などないはずよ。
私が来たからには、あなたが婚約者の席へ座ることはもうないと思うけれど……
それにしても、あなた、なかなか往生際が悪いわね。ケントのことは諦めなさいよっ!彼は私と一緒になれば、美しい妻も次期公爵の地位も手に入るのよ。彼の将来を考えたらどうかしら?」
「うっ……」
泣きそうだ。
確かにモリーヌ様は美しい。
次期公爵の地位は喉から手が出るくらい欲しい方もいるだろう。
でも、彼女の言葉に負けちゃダメだ。
「あなたこそ、彼の気持ちを全く考えてないじゃない。彼はデリーノ伯爵家の跡取りなのよ?彼が本当に大切ならあなたが嫁ぐはずだわ」
そう、そうなのだ。
モリーヌ様は自分のことしか考えていない。
私も……どうなんだろう。
私たちが言い合っても意味がない。決めるのは、ケント様なのだ。
パン、パン
マーラ夫人が大きく手を叩いた。
「もういいかしら?今からレッスンを始めるわよ。まずは基本のステップから」
夫人の手拍子に合わせ、モリーヌ様と私がステップを踏む。
彼女、なかなかやるわね。
「2人とも基本はできてるわね。次は実際に踊ってみましょう。ケント様、お願いします。まずは、リナさん、前に出て」
「はい」
ケント様が私をエスコートし、ホールの中心へ誘う。
夫人の軽やかなピアノの音がホールに響き、その音に合わせ、私は彼と踊り出す。
彼のリードは、本当に安心できる。
踊り出すと、背筋がビンと伸びてかっこいいのよね……
いつもそうしていればいいのに。
0
お気に入りに追加
400
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました
奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」
妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。
「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」
「ど、どうも……」
ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。
「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」
「分かりましたわ」
こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる