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第51話 ダンスレッスン

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今日はマーラ夫人のダンスレッスンがある。

彼女は『次回、ダンスパートナーを連れてくる』と言っていたけれど、パートナーが誰であるか明言しなかった。
なかなか決まらなかったのだろうか。

私がケント様を指名したと知っている彼女なら、彼を連れてきてくれるのではないかと、期待が高まる。

今日はケント様に会えるかもということで、ロナがはりきって髪にリボンを巻き込んでかわいく、崩れにくいよう複雑に編んでくれた。

用意されたドレスはスカイブルー。
ケント様と初めての舞踏会で着た思い出のドレスだ。

高鳴る胸を押さえながら、ゆっくりダンスホールへ向かう。

すると、廊下の曲がり角からひょっこりモレーヌ様が現れた。
淡いピンクのドレスがとても愛らしい。

「あなたのせいで、あなたのせいで、大変だったんだからっ!お父様にひどく怒られたんだからっ!」
ぷりぷり文句を言いながら後をついてくる。
見た目はかわいらしいのに、態度はふてぶてしい。

公爵に怒られた?
王族の居住スペースに許可なく入り込もうとしたんだもの。
怒られて当然よ。
というか、よくそれだけで済んだものだ。
一応は親戚にあたるから?
公爵が罪に問われないよう手をうったのかしら。

ダンスホールの中まで、彼女はズンズンついてきた。

「モリーヌ様、私は今からマーラ夫人のダンスレッスンなんです。夫人がいらっしゃる前に退室していただけませんか?」

「あら、どうして私が出ていかなきゃならないの?私も一緒にレッスンを受けるわ。それにあなたに指図されるいわれはないわ」

いやいや、前回マーラ夫人に断られましたよね?
ダンスホールから追い出されましたよね?

これから来るパートナーがケント様だったとしたら……
嫌だ、彼とモリーヌ様を会わせたくない。

彼女にはいろいろ問題がありそうだが、それでもやはりかわいらしくて魅力的だ。
再会して、万が一彼女を選ばれたら……立ち直れそうにない。

「前回、夫人からレッスンを断られましたよね?」

「あなた、前回、前回ってうるさいわね。今回は大丈夫よ」

モリーヌ様は、なかなかめげない性格のようだ。
あー、どうしたら、どう言ったら出ていってくれるの?
私が頭を抱えていると、マーラ夫人が入ってきた。
モリーヌ様を見て、気分を悪くされるのではないかと不安になる。
夫人は厳しい方なのだ。

夫人は彼女を見て、『はーっ、ふうーっ』と大きく深呼吸した。
「またいらしてたのね……」

「はい、マーラ夫人、先日は立場を弁えず、申し訳ございませんでした。本日はレッスンをよろしくお願いいたします」
モリーヌ様は夫人へ頭を下げた。

「そう…………わかりました。ラザーニア公爵から正式な依頼がきておりましたし、仕方がないですわね」

えっ、えー、これから一緒にレッスンを受けるの?
嫌だ、嫌だけど、夫人が許可したのであれば仕方がない。

「今日はダンスバートナーをお連れしました」
夫人の声に合わせ、ケント様がホールへ足を踏み入れた。

ケント様、ケント様だわ。
俯きがちで背中が少し丸まっている。
ふふふっ、彼は変わらないわね。
もっと堂々とすればカッコいいのに。
嬉しくて駆け寄りたくなる。
一歩前に足が出たところで、踏み止まる。

「あっ、ケント、久しぶりねっ!」
モリーヌ様が満面の笑顔で彼へと駆け寄ると、彼の腕に巻きついた。

はっ? 彼の名を呼び捨てたわねっ!
するりと腕に巻きついた?
信じられない……
「モリーヌ様、彼に触らないでください。
彼は私の婚約者……まだだけど……婚約者になる予定なんです」
怒鳴りたいのをぐっと我慢。
冷静に、冷静にと気持ちを押さえ、できるだけ淡々と告げる。

「あら?婚約者ではないのよね?
それならあなたが私に注意する権利などないはずよ。
私が来たからには、あなたが婚約者の席へ座ることはもうないと思うけれど……
それにしても、あなた、なかなか往生際が悪いわね。ケントのことは諦めなさいよっ!彼は私と一緒になれば、美しい妻も次期公爵の地位も手に入るのよ。彼の将来を考えたらどうかしら?」

「うっ……」
泣きそうだ。
確かにモリーヌ様は美しい。
次期公爵の地位は喉から手が出るくらい欲しい方もいるだろう。
でも、彼女の言葉に負けちゃダメだ。

「あなたこそ、彼の気持ちを全く考えてないじゃない。彼はデリーノ伯爵家の跡取りなのよ?彼が本当に大切ならあなたが嫁ぐはずだわ」
そう、そうなのだ。
モリーヌ様は自分のことしか考えていない。
私も……どうなんだろう。

私たちが言い合っても意味がない。決めるのは、ケント様なのだ。

パン、パン

マーラ夫人が大きく手を叩いた。

「もういいかしら?今からレッスンを始めるわよ。まずは基本のステップから」

夫人の手拍子に合わせ、モリーヌ様と私がステップを踏む。
彼女、なかなかやるわね。

「2人とも基本はできてるわね。次は実際に踊ってみましょう。ケント様、お願いします。まずは、リナさん、前に出て」

「はい」

ケント様が私をエスコートし、ホールの中心へ誘う。
夫人の軽やかなピアノの音がホールに響き、その音に合わせ、私は彼と踊り出す。
彼のリードは、本当に安心できる。

踊り出すと、背筋がビンと伸びてかっこいいのよね……
いつもそうしていればいいのに。





    
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