【完結】引きこもり伯爵令息を幸せにしたい

青井 海

文字の大きさ
上 下
46 / 70

第46話 後がない

しおりを挟む
【モリーヌ視点】

悔しいっ、悔しいっ、悔しい、あの夫人は何なのよ!公爵令嬢である私を追い出すだなんて……あり得ない、あり得ないわ。お父様に言いつけてやるんだからっ!

また爪を噛んでしまった。

***

私が実は公爵の庶子だと聞いた時には、本当に驚いた。
でもそれなら……と私の希望で、イコアス伯爵令息リアン様との婚約を解消した。
だって、彼の容姿では私とは釣り合いがとれないんだもの。
それに彼ったら、私と2人きりになると怒ってばかり。
『マナーがなってない』だとか細かいことをぐちゃぐちゃと、全く嫌になっちゃうわ。
でももう私は彼から解放されたの。
自由になったのよ。

その後すぐにデリーノ伯爵令息ケント様と新たな婚約を結ぶはずだったのよ?

お父様には私とケント様が結ばれれば、リナさんがもれなく我が家までついてくると説明したの。
だって彼らはいつも一緒にいるんだもの。
ケント様が私の旦那様になったら、浮気はダメよ。
リナさんは、そうね、彼女には住む場所と仕事を与えないと。
公爵家の使用人として雇うのはどう?
私の侍女にしてもいいわね。
我ながらいい考えだ。

それなのに……
公爵令嬢である私との婚約話を、まさか彼が断るなんて思ってもみなかったわ。

しかも断りの理由が、リナさんと婚約の約束があるから?
彼女は〈神贈り人〉という特別な存在?
なんなのよっ!それは……

お父様は「ふむ、やはり〈神贈り人〉であったか……内密にギートを他国へ行かせて正解だったな」と自分の下した選択に酔っている。

そう、お義兄様は事故に巻き込まれてなんかいない。
もともと他国で学びたいと切望していた彼をうまく誘導しただけ。
学びに行かせる条件として、私を公爵家に引き取ることと、跡取りの立場は保留とすることに同意させたのだ。
そして秘密裏に彼を他国へ出国させた。

私がうまくリナさんをラザーニア公爵家へ取り込めない時には、私を見切ってギートお義兄様に後を継がせるつもりなのだ。

きっと『跡取りはギートにする。他国で最新の治療を受けて回復した』と言って……

「まさかデリーノ伯爵令息に婚約を断られるとはな。お前ではダメだそうだ。はははっ」
お父様の乾いた笑いに怒りを感じる。

まずい、まずいわ。
お父様は私に見切りをつけるつもりだわ。

「待って、待ってください。私にもう一度チャンスを、チャンスをくださいっ」
私はお父様にしがみつき、頭を下げて必死に頼み込んだ。

「そうか……わかった。もう一度だけお前にチャンスを与えよう。これから私は〈神贈り人〉を王宮で滞在させるよう陛下に進言してくる。お前は彼女とともに学び、強固な関係を築くのだ。もし失敗したら……」

「もし失敗したら……」
緊張で、ゴクリと喉が鳴る。

「アランド帝国の皇帝に嫁いでもらう」

えっ、アランド帝国?
あまり勉強が得意ではない私でも聞いたことがある大きな国だ。
大きな国の皇帝に嫁ぐと聞いて、一瞬喜びそうになったわ。
危ない、危ない。
失敗したら、送られるのよ?
いい条件であるはずはない。

お父様が立ち去った後、侍女に調べさせた。
アランド帝国は一夫多妻制であり、皇帝は50を過ぎている今でも、妻を押し付けられている。
押し付けられている?
それって、表現がおかしくない?
必要ないのに、押し付けられて困っているように聞こえるのだけど……

いや~、ないわ、ない。
私は私だけを大切にしてくれるかっこいい旦那様がいいのよ。

そんなところに嫁ぐなんて、嫌、嫌よ。
私には後がないのね……

***

公爵家に引き取られてから、私はいつも部屋で食事を取っている。
食堂へ呼ばれたことはない。

今日、初めて食堂に呼ばれ、お父様と夕食を共にした。
お父様はナイフとフォークを使って食事をする私をじっとみつめた後、スーッと目を反らした。

「〈神贈り人〉が王宮に滞在することになった。お前は彼女と共に講義を受けなさい。うまくやるんだぞ?」
有無を言わさぬ圧を感じる。
もちろん私に断るなんて選択はない。
私にはもうここにしか居場所がないのだから……

「はい、お父様。私、頑張りますわっ」
ぐっと拳を握りしめ、頑張りますアピールをしたのだが、父には通用しなかった。

***

後日、父に連れられて訪れた王宮で、リナさんと再会。

私は大変な思いをしているのに、のほほーんと幸せそうに過ごす彼女にムカついた。

「リナさん、あなた、どうして王宮にいるの?ただの平民でしょ?私は公爵令嬢、公爵令嬢なのよ?なぜあなたには王宮に部屋が与えられ、私にはないのよぅ~」
文句を言っているうちに、どんどん頭に血がのぼる。

「それは私にもわかりません。私はデリーノ邸に帰りたいんです。帰れるのなら、王宮の部屋はあなたに使ってもらって構いません」

えっ、あなた帰りたいの?
王宮に部屋を与えられる栄誉と何だと思ってるのよっ。

「なんですってぇー。あなた生意気だわっ」
つい大きな声を出してしまった。

「何を騒いでいるんですか?」
見知らぬおばさまが入室してきた。
誰よ、あなたは?
私はリナさんと話しているのよ。
邪魔よと、キ-ッと睨みをきかせる。

「私はリナさんにダンスレッスンをと依頼を受けています。あなたはどなた?」
ダンス講師の女性か……
早く私に挨拶しなさいよっと、ぐっと睨む。

「あら、挨拶もできない方にレッスンはできないわ。ここから去ってくださいな」
いったい何様なの?
私を追い出すなんて……

この状況はまずいと気づき、レッスンを受けると下手に出た私に、退室を命じるなんて。

「まぁ、まぁ、まぁ、あなたマーラ夫人と言ったわね?私は公爵令嬢なのよ?あなた、何者か知らないけれど覚えておきなさい。私を追い出したこと、後悔しても知らないわよ」
そう啖呵をきりながらも、私は後悔でいっぱいだった。

お父様に言いつける?
ダメ、ダメだ、絶対にできない。
次の講義で挽回するしかない。

イライラする気持ちを押さえきれず、私は爪を噛んだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

王子の婚約破棄に対抗する令嬢はお好きですか?~妹ってうるさいですね。そこまでおっしゃるのでしたら別れましょう~

岡暁舟
恋愛
妹のほうが好きな理由は……説明するだけ無駄なようなので、私は残された人生を好きに生きようと思います。でもね、それだけ簡単な話ではないみたいですよ。王子様、妹の人生まで台無しにするだなんて……そこまでされたら、黙ってはいられませんね。

バッドエンド確定の悪役令嬢に転生してしまったので、好き勝手しようと思います

新野乃花(大舟)
恋愛
日本で普通の生活を送っていた私は、気が付いたらアリシラ・アーレントという名前の悪役令嬢になってしまっていた。過去には気に入らない他の貴族令嬢に嫌がらせをしたり、国中の女性たちから大人気の第一王子を誘惑しにかかったりと、調べれば調べるほど最後には正ヒロインからざまぁされる結末しか見えない今の私。なので私はそういう人たちとの接点を絶って、一人で自由にのびのびスローライフを楽しむことにした……はずだったのに、それでも私の事をざまぁさせるべく色々な負けフラグが勝手に立っていく…。行くも戻るもバッドエンド確定な私は、この世界で生き抜くことができるのでしょうか…?

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

俺の天使は盲目でひきこもり

ことりとりとん
恋愛
あらすじ いきなり婚約破棄された俺に、代わりに与えられた婚約者は盲目の少女。 人形のような彼女に、普通の楽しみを知ってほしいな。 男主人公と、盲目の女の子のふわっとした恋愛小説です。ただひたすらあまーい雰囲気が続きます。婚約破棄スタートですが、ざまぁはたぶんありません。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 小説家になろうからの転載です。 全62話、完結まで投稿済で、序盤以外は1日1話ずつ公開していきます。 よろしくお願いします!

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...