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第47話 振り回される
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【モリーヌ視点】
ダンスホールを追い出された私は、ホールを出てすぐの庭園をフラフラと歩いていた。
本当は王宮のあちこちを見学して回りたいところだけど、お父様にダンスレッスンを受けられずに追い出されたとバレるわけにはいかない。
タンスホールの出入り口が見える場所を行ったり来たり……
ほーんと嫌になっちゃう。
なぜ私がこんなことしなきゃならないのよっ!
「これはこれは、ラザーニア公爵令嬢ではないですか?」
つい最近まで婚約関係にあったイコアス伯爵令息だ。
「あら、リアン様。お久しぶりです。王宮でお仕事ですか?」
ひしっと彼の腕にしがみつく。
もしリナさんと仲良くなることに失敗したら、アランド帝国へ嫁ぐより、リアン様と復縁したい。
望まれずに嫁がされたとしたら……どんな扱いを受けるかわからないじゃない。
リアン様はイヤミだし、容姿もぜーんぜんタイプじゃないけれど、まだマシよ。
必死に笑顔を振り撒き、媚をうる。
「はぁー、君はあいかわらずだね、僕たちは赤の他人だ。もう名を呼ぶのはやめてくれ。ああ、君から婚約を解消してくれて助かったよ。お互い望まぬ婚約だったからね。君の幸せを祈ってるよ」
リアン様はご機嫌な様子で手を振りながら去っていった。
なによ、なによっ!
あなたなんて、こっちから願い下げよっ!
ああ、イコアス伯爵令息との復縁は無理か。
リナさんと仲良くなるのは、もっとハードルが高いのよね……
彼女を見ていると、それだけでムカつくんだもの。
ダンス講師が退室した後、しばらくしてリナさんたちがズラズラとダンスホールから出てきた。
廊下を移動する彼女についていく。
一番最後を歩く侍女はついてくる私が気になって仕方がないようだ。
ふふんっ、でも私は公爵令嬢よ。
あなたでは何もできないはずよ。
リナさんが入っていった部屋のドアが閉まる前に、ずいっと体を滑り込ませる。
突然、目の前をシャッと風が横切る。
あまりのことに「ギャッ」と叫び、尻もちをついた。
あー、びっくりした。
危ないじゃないのっ。
私の目の前には鞘に入ったままの剣。
私に剣を突きつけた男性は、フンッと鼻を鳴らすと、ササッと剣を腰元へと戻した。
「あっ……あなた、あなた、ねぇ、危ないじゃない。怪我したらどうするのよっ!いったい私が誰だかわかってるの? こんなことをして許されると思っているの?」
震える声で、精一杯抗議する。
「おいっ、不審者!さっきからキャンキャンうるさいぞっ。リナ様は今から講義を受けるんだ。静かにしないかっ!早く出ていけ」
怒鳴られた。男声に怒鳴られたわ。
私に剣を向けるなんて、許せない、許せないわ。
尻もちをついた私に、手を差しのべる者は、誰もいない。
しょうがない。
私は床に手をつくと、スクッと立ち上がり、手をパンパンはらった。
「今から講義なんでしょ?私もその講義を受けるわ」
リナさんのほうを見ると、彼女の向かいにもイスが1脚置かれていた。
私のイスはそこね。
お尻をパンパンと叩くと、イスに向かって歩き出す。
イスに座ろうとした私をリナさんが止める。
「そこは講師の方が座る席です。仕方がないですね……ハンス、私の隣に席を用意してあげて」
彼女は私と講義を受ける気になったみたい。
とりあえずは何とかなりそう。
***
【リナ視点】
モリーヌ様が部屋に入り込んできたのには、びっくりした。
でもそれ以上に、今までずっと静寂を貫いてきたハンスが、剣を彼女の鼻先に突き出したのには、もっともっとびっくりした。
驚きすぎて、息が止まるかと思ったわ。
尻もちをつきながらも、自力で立ち上がり、私とともに講義を受けると言った彼女。
なんて自分勝手なの?と腹が立つけれど、一度は一緒に講義を受けなければ諦めそうにない。
ハンスの行動にケチをつけられても困る。
今回は仕方がないわね。
ダンスホールを追い出されてから、ずっと待っていたわけだもの。
侍女のロナとドーラに重たいイスを運ばせるのには抵抗があり、先程、モリーヌ様を牽制してくれた護衛のハンスに頼む。
ハンスは、へっ?と驚いた顔をしたけれど、すぐに従ってくれた。
「いいんですか?」
ドーラから心配の声があがる。
「私は彼女が居ても構わないわ。邪魔さえされなければ……あとは講師の判断に任せます。これ以上揉めたら、また講義の時間がなくなってしまうもの」
モリーヌ様が席につくと、男性が1人入ってきた。
私たちが2人並んで座っているのを見て、少し首を捻り、眉間にシワを寄せたように見えた。
だが、彼は何も指摘することもなく、簡単な自己紹介をした後、私たちにも自己紹介をさせた。
モリーヌ様の自己紹介に、えっ?えっ?と目をパチパチさせていたが、やはり何も触れない。
用意されたテキストを私たちの間に広げると、歴史の講義を始めた。
講義の内容は、デリーノ伯爵家で読んだアマリア王国の成り立ちについて書かれた本の内容と被っていた為、私は復習しているような感覚で講義を聞くことができた。
でも彼女は違ったようで、
「はいっ、これはどういう意味ですか?」
「あの、もう一度お願いします」
何度も声をあげ、講義を中断させる。
わざと講義を妨害しているんじゃないかと勘ぐりたくなるくらい。
少し前まで男爵令嬢だったのかもしれないけれど、貴族なんだから、国の歴史くらいは学んでいるはずなのに。
私だけなら、もっと先まで進めたのに……
進むのが遅れてしまうと、王宮での滞在が延びてしまうかもしれないじゃない。
どっと疲れたわ。
「さぁ、次の講義は何かしら?楽しみね。リーナさん」
モリーヌ様が馴れ馴れしく話しかけてくる。
もう勘弁してくれないかしら。
彼女はいったい何がしたいの?
ダンスホールを追い出された私は、ホールを出てすぐの庭園をフラフラと歩いていた。
本当は王宮のあちこちを見学して回りたいところだけど、お父様にダンスレッスンを受けられずに追い出されたとバレるわけにはいかない。
タンスホールの出入り口が見える場所を行ったり来たり……
ほーんと嫌になっちゃう。
なぜ私がこんなことしなきゃならないのよっ!
「これはこれは、ラザーニア公爵令嬢ではないですか?」
つい最近まで婚約関係にあったイコアス伯爵令息だ。
「あら、リアン様。お久しぶりです。王宮でお仕事ですか?」
ひしっと彼の腕にしがみつく。
もしリナさんと仲良くなることに失敗したら、アランド帝国へ嫁ぐより、リアン様と復縁したい。
望まれずに嫁がされたとしたら……どんな扱いを受けるかわからないじゃない。
リアン様はイヤミだし、容姿もぜーんぜんタイプじゃないけれど、まだマシよ。
必死に笑顔を振り撒き、媚をうる。
「はぁー、君はあいかわらずだね、僕たちは赤の他人だ。もう名を呼ぶのはやめてくれ。ああ、君から婚約を解消してくれて助かったよ。お互い望まぬ婚約だったからね。君の幸せを祈ってるよ」
リアン様はご機嫌な様子で手を振りながら去っていった。
なによ、なによっ!
あなたなんて、こっちから願い下げよっ!
ああ、イコアス伯爵令息との復縁は無理か。
リナさんと仲良くなるのは、もっとハードルが高いのよね……
彼女を見ていると、それだけでムカつくんだもの。
ダンス講師が退室した後、しばらくしてリナさんたちがズラズラとダンスホールから出てきた。
廊下を移動する彼女についていく。
一番最後を歩く侍女はついてくる私が気になって仕方がないようだ。
ふふんっ、でも私は公爵令嬢よ。
あなたでは何もできないはずよ。
リナさんが入っていった部屋のドアが閉まる前に、ずいっと体を滑り込ませる。
突然、目の前をシャッと風が横切る。
あまりのことに「ギャッ」と叫び、尻もちをついた。
あー、びっくりした。
危ないじゃないのっ。
私の目の前には鞘に入ったままの剣。
私に剣を突きつけた男性は、フンッと鼻を鳴らすと、ササッと剣を腰元へと戻した。
「あっ……あなた、あなた、ねぇ、危ないじゃない。怪我したらどうするのよっ!いったい私が誰だかわかってるの? こんなことをして許されると思っているの?」
震える声で、精一杯抗議する。
「おいっ、不審者!さっきからキャンキャンうるさいぞっ。リナ様は今から講義を受けるんだ。静かにしないかっ!早く出ていけ」
怒鳴られた。男声に怒鳴られたわ。
私に剣を向けるなんて、許せない、許せないわ。
尻もちをついた私に、手を差しのべる者は、誰もいない。
しょうがない。
私は床に手をつくと、スクッと立ち上がり、手をパンパンはらった。
「今から講義なんでしょ?私もその講義を受けるわ」
リナさんのほうを見ると、彼女の向かいにもイスが1脚置かれていた。
私のイスはそこね。
お尻をパンパンと叩くと、イスに向かって歩き出す。
イスに座ろうとした私をリナさんが止める。
「そこは講師の方が座る席です。仕方がないですね……ハンス、私の隣に席を用意してあげて」
彼女は私と講義を受ける気になったみたい。
とりあえずは何とかなりそう。
***
【リナ視点】
モリーヌ様が部屋に入り込んできたのには、びっくりした。
でもそれ以上に、今までずっと静寂を貫いてきたハンスが、剣を彼女の鼻先に突き出したのには、もっともっとびっくりした。
驚きすぎて、息が止まるかと思ったわ。
尻もちをつきながらも、自力で立ち上がり、私とともに講義を受けると言った彼女。
なんて自分勝手なの?と腹が立つけれど、一度は一緒に講義を受けなければ諦めそうにない。
ハンスの行動にケチをつけられても困る。
今回は仕方がないわね。
ダンスホールを追い出されてから、ずっと待っていたわけだもの。
侍女のロナとドーラに重たいイスを運ばせるのには抵抗があり、先程、モリーヌ様を牽制してくれた護衛のハンスに頼む。
ハンスは、へっ?と驚いた顔をしたけれど、すぐに従ってくれた。
「いいんですか?」
ドーラから心配の声があがる。
「私は彼女が居ても構わないわ。邪魔さえされなければ……あとは講師の判断に任せます。これ以上揉めたら、また講義の時間がなくなってしまうもの」
モリーヌ様が席につくと、男性が1人入ってきた。
私たちが2人並んで座っているのを見て、少し首を捻り、眉間にシワを寄せたように見えた。
だが、彼は何も指摘することもなく、簡単な自己紹介をした後、私たちにも自己紹介をさせた。
モリーヌ様の自己紹介に、えっ?えっ?と目をパチパチさせていたが、やはり何も触れない。
用意されたテキストを私たちの間に広げると、歴史の講義を始めた。
講義の内容は、デリーノ伯爵家で読んだアマリア王国の成り立ちについて書かれた本の内容と被っていた為、私は復習しているような感覚で講義を聞くことができた。
でも彼女は違ったようで、
「はいっ、これはどういう意味ですか?」
「あの、もう一度お願いします」
何度も声をあげ、講義を中断させる。
わざと講義を妨害しているんじゃないかと勘ぐりたくなるくらい。
少し前まで男爵令嬢だったのかもしれないけれど、貴族なんだから、国の歴史くらいは学んでいるはずなのに。
私だけなら、もっと先まで進めたのに……
進むのが遅れてしまうと、王宮での滞在が延びてしまうかもしれないじゃない。
どっと疲れたわ。
「さぁ、次の講義は何かしら?楽しみね。リーナさん」
モリーヌ様が馴れ馴れしく話しかけてくる。
もう勘弁してくれないかしら。
彼女はいったい何がしたいの?
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