【完結】引きこもり伯爵令息を幸せにしたい

青井 海

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第17話 部屋でゆっくり

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目を覚ますと、私は部屋のベッドで横になっていた。

離れから本邸へ戻っている時、ふらついて意識を手放したんだった。
ロナが誰かを呼んで、部屋まで運んでくれたのだわ。

はー、私ったら、どうしちゃったんだろう。
緊張しすぎたのかな。
疲れが出たのかな。

ベッドでゆっくり上半身を起こしてみると、まだふらふらする。
そのままぼーっと座っていると……

トントン
ノック音の後、「失礼します」とロナが入ってきた。

「リナ様、起きていたんですね。意識が戻ってよかったです」

「ロナ、心配かけてごめんなさいね。私ったら豪華なドレスや宝石に緊張しちゃったみたい」

「これからはゆっくり過ごしてくださいね。リナ様が目を覚ましたとケント様に伝えてきます」
そう言うとすぐ、ロナは出ていった。

そして、バタバタと廊下を走る音が近づき……

「リナ、リナ、よかった~」
ベッド脇に座り込み、私の手を握るケント様。

えっ、どうした? なに、なに?
心が跳び跳ねる。

「母が君に無理をさせたんだろうか?」

「そんなことありません。私が勝手に緊張して、一気に気が抜けたんだと思います」

「そう、そうか?そんなこともあるのか?リナ、今日は何もしなくていいから、ゆっくり休むように」
ケント様は私の倒れた理由に納得できない様子で首を傾げながら、休むように言ってくれた。

「はい」
ここは素直に頷いておく。
誰だかわからないけれど、運んでもらっちゃったし、ロナやケント様には心配させてしまったからね。

「ロナ、リナの食事は部屋へ運ぶよう手配してくれ」
ケント様は私を部屋から出さないつもりのようだ。

「はい、わかりました」

ケント様の指示で、私は部屋でゆっくり過ごすことが決まった。

じーっとベッドに座っていたが、暇、暇だ、暇すぎる。

あっ、そうだ!
刺繍、刺繍をしよう。
今からケント様へ渡すハンカチに刺繍をしよう!

ベッドの上に刺繍の道具箱を持ってきて、スカイブルーのハンカチに白糸でチクチク、チクチク針を刺していきます。
途中で金色の糸を針に通して直して、またチクチク、チクチク。

散々練習した甲斐があって、上手く刺せたんじゃないかな……

「できたーっ!!」
顔の前にハンカチを広げてみる。
うん、うん、いい感じ。

ハンカチを丁寧にたたんでテーブルに置き、ベッドにゴロンとうつ伏せに寝転んだ。
嬉しい、できた、できたっ。
足をお尻にあたりそうなくらいバタバタしていたら……

トントン、ロナが入ってきた。

「「ハッ」」
私とロナの息を飲む音が被った。
互いの視線が絡む。
さすがに足をバタバタは自室とはいえ、お行儀が悪すぎただろうか?
なんだか恥ずかしい。

「リナ様、ご機嫌ですね。あっ、刺繍ができたんですか?」
ロナは先程の足バタバタをスルー。
何事もなかったかのように、テーブルに置かれた刺繍入りハンカチへと話題をふった。

「そう、そうなの!やっとできたの!」

「リナ様、やりましたねっ!では、包装紙とリポンをお持ちします」

「えっ、あるの?」

「もちろん、ありますよ」

伯爵家には何でもあるなぁ。

ハンカチの色に合わせ、ブルー系の包装紙を3枚、リボンを3本持ってきてくれたので、その中から一番シンプルなものを選び、ハンカチを包装する。

いつもなら食堂でケント様と共に食事をするのだが、今夜は部屋まで運んでもらうことになっている。
今日はもう会えないのかな……
ケント様へいつ渡そう。
街へ行ってからしばらく経ってしまったから、早めに渡せるといいんだけど……

***

翌朝、私の体調はすっかり元どおり、ピンピンしてる。

いつものようにロナの手で身だしなみを整えてもらい、朝食をとりに食堂へ向かう。

手にはしっかりと包装されたハンカチを持って……

「ケント様、おはようございます」

「リナ、おはよう。元気そうだね」

「はい、すっかり元気です。ご心配をおかけしました。どなたかに部屋まで運んでいただいたようで、ご迷惑をおかけしました」

「いや、構わない」となぜか頬をうっすら赤らめるケント様。

ん?
どうしてケント様が構わないと?
使用人の方の手を私が煩わしたのは別に構わないということ?

ロナがスススッと音もなく近づいてきて、私の耳元でコソコソ告げる。
「リナ様を運んだのはケント様です。すっかり伝えるのを忘れておりました」

なっ、なんてこと~!!!
プルプル震え、頭を抱える私。

私を、私を……ケント様が運んだ?運んだのぉ~。
重いよね?重かったよね?

「すっ、すみませんっ、ケント様が運んでくださったなんて……重かったですよね?ありがとうございました」

「うっ、いや、意外と重くはなかった。大丈夫、大丈夫だ」
なぜか狼狽える彼。
それにしても『意外と重くなかった』って発言はどうかと思う。意外とっていらなくない?
まぁ、ケント様らしいとは思うけれど……
なぜ彼が狼狽える?

スススッとロナが寄ってきて、耳元で囁く。
「リナ様を運ぼうとしたダレンを制止して、自らお姫様抱っこしたケント様はなかなかでしたよ?」

プシューと頭から湯気が出そうなくらい顔に、頭に血がのぼる。
お姫様抱っこ~っっっ、パニックになっていり私に、冷静なロナは、
「リナ様、今です。今がプレゼントを渡すチャンスですよっ!」

「うんっ、わかったわ」
「ケント様、いつもいろいろとありがとうございますぅ~」
パシッと腕を伸ばし包装されたプレゼントをケント様の目の前に差し出す。

「あっ、おっ、おうっ、ありがとう」
変な声をあげながら受けとる彼。

その後は2人してぎくしゃくと、何だか落ち着かない雰囲気のまま食事を終えた。



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