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第11話 不思議な女性
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【ケント視点】
僕の部屋に、ある日突然現れた女性リナ。
彼女はとても不思議な女性だ。
肌を大胆に出した有り得ない格好で、思うことを思うように口にする。
行き場がなく困っているようだったから、居場所を提供すると、「働きます!」と言う。
働くも何も、違う世界から来たばかりの彼女に何ができるんだ、何もできないだろうと思った。
部屋にひきこもっている僕を、病人だと勘違いして、看病を申し出てくれたが、看病、いらないんだよな。
僕は病気じゃないから。
失恋のショックで、ひきこもっているだけなのだから。
働く、働きたいと言う彼女に、僕の話し相手になるよう提案した。
僕は人と話すのが苦手だ。
小さな頃から側に居てくれる使用人たちとは問題なく話せるのだが、一人っ子としてあまり人と関わることなく育った僕は、人が苦手。特に同年代の女性はベタベタひっつくので苦手だ。
社交界に顔を出した僕に、多くの女性たちがすり寄って来たけれど、少し会話をすると、すぐに別の男性の方へと雪崩のように流れていった。
そしてそのまま誰も戻ってこない。
僕は何か失礼なことをしたんだろうか。
そんな中、会が終盤にさしかかった頃、可憐な少女が僕の前に現れたんだ。
彼女の名前はモリーヌ・タントン男爵令嬢。
蜂蜜色のふんわりと柔らかそうな髪をふんはわりとまとめ、淡いグリーンの軽やかなドレスを身に纏ったほっそりとした女性だ。
小さくて細くて、優しく接しないと倒れてしまうのではないかと不安になる。
彼女が僕の目の前で、ふらりと倒れそうになり……
僕が支えて、救護室へ付き添ったのが縁で、社交界で会うと、一言、二言、話すようになった。
そしてダンスを一緒に踊るようになり……
彼女がしきりに僕を誉めてくれるのが嬉しくて……
そのうち自然と僕の心に彼女が住み着くようになっていた。
エスコートを望まれ、一緒に出かけたことも何度かあった。
これは期待してしまうだろう?
僕の気持ちに気づいた彼女は、僕にいい顔をしながらも、別の男性とも会話やダンスを楽しんでいた。
後になって思えば、女性慣れしていない僕は、彼女にコロッと騙されて、キープされていたんだと思う。
しばらくすると、イコアス伯爵令息とモリーヌが婚約したとのニュースを耳にした。
僕はすっかりモリーヌ嬢は自分に気がある。
僕と婚約するつもりだと勘違いして、父に婚約の打診を願い出ている段階だった。
父があれこれ調査中で、まだ動いてなかったのがせめてもの救いだ。
僕の心は傷つき、部屋にひきこもるように。
僕は一部の人たちとだけ接する生活を送っていた。
リナは、彼女は、本当に僕の閉ざされた心にスッと入ってきた。
土足でズカズカではなく、いつの間にか滑り込んできた感じだ。
彼女とは緊張せず、構えずに話せる。
とにかく楽だ。
彼女と踊るダンスは心が踊る。
本当に楽しい時間だ。
リナ、リナは、僕の為に神様が寄越してくれた女神なんじゃないかとさえ思う。
僕の生活は、すっかり彼女のペースに巻き込まれている。
「ケント様もよく食べて、よく動いて、すっかり健康的になりましたね。健康ならそろそろ仕事をしませんか?ずっと休んでいるんでしょう?私も手伝いますから」
彼女に言われて、目が覚めた。
そうだ、ずっと仕事を休んでしまっていた。大丈夫だろうか……
急に心配になり、父に確認すると、急ぎの仕事は父が代わりに対応してくれていた。
本当は僕が父を支える立場なのに……
父から仕事を受け取り、執務室へ戻ると、リナが部屋に置かれたソファーに座り、書類を分類してくれる。
少しでも僕の仕事を助けたいと、母にやり方を教わりに行ってくれたようだ。
サラサラの黒髪をバレッタでまとめ、真剣な表情で書類を分類してくれるリナ。
彼女の真剣な眼差しは凛としていて、とてもキレイだ。
ついつい彼女の横顔に見とれてしまう。
彼女を働かせて、僕がぼーっとしていてはダメだな。
気合いを入れ、書類と格闘する。
久しぶりに働いた。
本当に久しぶりだ。
なんだか充実した感じで、疲れているはずなのに、気持ちがみなぎってくる。
リナ、君は本当に不思議な女性だ。
君が僕の前に現れてから、僕の人生がハァッと開けたような気がする。
彼女との時間、彼女との気持ちのよい空間に身を置いている時、ふと彼女からお願いされた。
「私、街へ行って見たいです。ロナと一緒に……街へ行かせてもらえませんか?」
リナと街へ行くのは楽しそうだ。
パッと想像した。
街を歩くリナの隣には僕がいた。
「リナは街で何がしたいの?」
うーん、と顎に手を添え考える彼女。
何ともかわいらしい。
「そうですねぇ、私はこの邸内のことしか知らないので……公園を散歩したり、お店を覗いてみたり、気軽な食事を楽しんだり、美味しいお菓子を食べたりしてみたいです。あっ、景色がキレイな観光名所があれば、そこにも行ってみたいですね……」
いい、いいな、すごく楽しそうだ。
リナと一緒に出かける想像をする。
「そう、そうかぁ……」と呟きながら……
「ダメですか?」
不安そうに様子を伺う彼女が何とも言えない。
「ダメではない、ダメではないけれど、ロナと一緒で、女性だけでは危ないんじゃないかと……もちろん、護衛はつける。つけるんだが、うーん……」
僕もついていっちゃダメかな?
ダメだろうか……聞いてみるか。
「それ、街へ出かける時は、僕も一緒でいいか?」
「へっ?」
リナの口から変な声が出た。
そんなに驚くことかな?
「ケント様が付き添ってくれるんですか?
ありがとうございます!心強いです!是非とも、是非とも一緒に出かけさせてください!街へ連れてってください!」
すごい勢いで、了承が得られた。
「あっ、ああっ、わかった」
ちょっとびっくりしながらも了承の意思を伝える。
リナと街へ出かける。
彼女と共にあるのなら、どこへ行っても楽しそうだ。
僕の部屋に、ある日突然現れた女性リナ。
彼女はとても不思議な女性だ。
肌を大胆に出した有り得ない格好で、思うことを思うように口にする。
行き場がなく困っているようだったから、居場所を提供すると、「働きます!」と言う。
働くも何も、違う世界から来たばかりの彼女に何ができるんだ、何もできないだろうと思った。
部屋にひきこもっている僕を、病人だと勘違いして、看病を申し出てくれたが、看病、いらないんだよな。
僕は病気じゃないから。
失恋のショックで、ひきこもっているだけなのだから。
働く、働きたいと言う彼女に、僕の話し相手になるよう提案した。
僕は人と話すのが苦手だ。
小さな頃から側に居てくれる使用人たちとは問題なく話せるのだが、一人っ子としてあまり人と関わることなく育った僕は、人が苦手。特に同年代の女性はベタベタひっつくので苦手だ。
社交界に顔を出した僕に、多くの女性たちがすり寄って来たけれど、少し会話をすると、すぐに別の男性の方へと雪崩のように流れていった。
そしてそのまま誰も戻ってこない。
僕は何か失礼なことをしたんだろうか。
そんな中、会が終盤にさしかかった頃、可憐な少女が僕の前に現れたんだ。
彼女の名前はモリーヌ・タントン男爵令嬢。
蜂蜜色のふんわりと柔らかそうな髪をふんはわりとまとめ、淡いグリーンの軽やかなドレスを身に纏ったほっそりとした女性だ。
小さくて細くて、優しく接しないと倒れてしまうのではないかと不安になる。
彼女が僕の目の前で、ふらりと倒れそうになり……
僕が支えて、救護室へ付き添ったのが縁で、社交界で会うと、一言、二言、話すようになった。
そしてダンスを一緒に踊るようになり……
彼女がしきりに僕を誉めてくれるのが嬉しくて……
そのうち自然と僕の心に彼女が住み着くようになっていた。
エスコートを望まれ、一緒に出かけたことも何度かあった。
これは期待してしまうだろう?
僕の気持ちに気づいた彼女は、僕にいい顔をしながらも、別の男性とも会話やダンスを楽しんでいた。
後になって思えば、女性慣れしていない僕は、彼女にコロッと騙されて、キープされていたんだと思う。
しばらくすると、イコアス伯爵令息とモリーヌが婚約したとのニュースを耳にした。
僕はすっかりモリーヌ嬢は自分に気がある。
僕と婚約するつもりだと勘違いして、父に婚約の打診を願い出ている段階だった。
父があれこれ調査中で、まだ動いてなかったのがせめてもの救いだ。
僕の心は傷つき、部屋にひきこもるように。
僕は一部の人たちとだけ接する生活を送っていた。
リナは、彼女は、本当に僕の閉ざされた心にスッと入ってきた。
土足でズカズカではなく、いつの間にか滑り込んできた感じだ。
彼女とは緊張せず、構えずに話せる。
とにかく楽だ。
彼女と踊るダンスは心が踊る。
本当に楽しい時間だ。
リナ、リナは、僕の為に神様が寄越してくれた女神なんじゃないかとさえ思う。
僕の生活は、すっかり彼女のペースに巻き込まれている。
「ケント様もよく食べて、よく動いて、すっかり健康的になりましたね。健康ならそろそろ仕事をしませんか?ずっと休んでいるんでしょう?私も手伝いますから」
彼女に言われて、目が覚めた。
そうだ、ずっと仕事を休んでしまっていた。大丈夫だろうか……
急に心配になり、父に確認すると、急ぎの仕事は父が代わりに対応してくれていた。
本当は僕が父を支える立場なのに……
父から仕事を受け取り、執務室へ戻ると、リナが部屋に置かれたソファーに座り、書類を分類してくれる。
少しでも僕の仕事を助けたいと、母にやり方を教わりに行ってくれたようだ。
サラサラの黒髪をバレッタでまとめ、真剣な表情で書類を分類してくれるリナ。
彼女の真剣な眼差しは凛としていて、とてもキレイだ。
ついつい彼女の横顔に見とれてしまう。
彼女を働かせて、僕がぼーっとしていてはダメだな。
気合いを入れ、書類と格闘する。
久しぶりに働いた。
本当に久しぶりだ。
なんだか充実した感じで、疲れているはずなのに、気持ちがみなぎってくる。
リナ、君は本当に不思議な女性だ。
君が僕の前に現れてから、僕の人生がハァッと開けたような気がする。
彼女との時間、彼女との気持ちのよい空間に身を置いている時、ふと彼女からお願いされた。
「私、街へ行って見たいです。ロナと一緒に……街へ行かせてもらえませんか?」
リナと街へ行くのは楽しそうだ。
パッと想像した。
街を歩くリナの隣には僕がいた。
「リナは街で何がしたいの?」
うーん、と顎に手を添え考える彼女。
何ともかわいらしい。
「そうですねぇ、私はこの邸内のことしか知らないので……公園を散歩したり、お店を覗いてみたり、気軽な食事を楽しんだり、美味しいお菓子を食べたりしてみたいです。あっ、景色がキレイな観光名所があれば、そこにも行ってみたいですね……」
いい、いいな、すごく楽しそうだ。
リナと一緒に出かける想像をする。
「そう、そうかぁ……」と呟きながら……
「ダメですか?」
不安そうに様子を伺う彼女が何とも言えない。
「ダメではない、ダメではないけれど、ロナと一緒で、女性だけでは危ないんじゃないかと……もちろん、護衛はつける。つけるんだが、うーん……」
僕もついていっちゃダメかな?
ダメだろうか……聞いてみるか。
「それ、街へ出かける時は、僕も一緒でいいか?」
「へっ?」
リナの口から変な声が出た。
そんなに驚くことかな?
「ケント様が付き添ってくれるんですか?
ありがとうございます!心強いです!是非とも、是非とも一緒に出かけさせてください!街へ連れてってください!」
すごい勢いで、了承が得られた。
「あっ、ああっ、わかった」
ちょっとびっくりしながらも了承の意思を伝える。
リナと街へ出かける。
彼女と共にあるのなら、どこへ行っても楽しそうだ。
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