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第5話 転校生

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友人に恵まれ、楽しい日々を送っていた時、転校生がやってきた。

彼の名は、ハイド・ジルニア。
ジルニア男爵家の長男。
ジルニア男爵家は幅広い商品を取り扱うジルニア商会を経営している。
彼は、近々、新たな支店を立ち上げるという両親について、この町へ引っ越してきたらしい。

女の子たちは、見目麗しい転校生に歓声を上げて歓迎していたけれど、私はちっとも嬉しくない。

彼が同じクラスなんて……
彼は昨日、我がランドリー商会に来ていた。

パジャマを林間学校で宣伝してからというもの学院の生徒が親と一緒に買いに来てくれるものだから、私もたまに店舗へ顔を出すようになっていた。

いつものように、店先で棚の商品を確認しつつ、誰か友人が来ないかなぁと思っていると、同年代の男の子が使用人と思わしき大人とともに、店に入ってきた。

見ない顔だな~とこっそり様子見していたら、彼は商品を次々と手に取り、確認しては慣れた手つきでたたみ、棚に戻していく。
試着なんて全くしない。

女性の服も構わず広げて見ている。
広げた商品は、きちんと元通り。
衣類をたたみなれた様子から、素人ではないなとすぐにわかった。

「何かお探しですか?」
声をかけた私に、彼はニコリと笑った。

「いいや。ちょっと見に来ただけ。
特に欲しいものはなかったからもう帰るよ。あっ、そうだ。もうすぐ近くにジルニア商会の支店ができるんだ。
お嬢さんにピッタリの商品も取り揃える予定だから買い物に来てね。」
パチンとキレイなウインクをして去っていった彼。

その彼が、今 同じ教室にいる。

「やぁ、昨日はどうも。ランドリー商会のお嬢さん。同じクラスになるなんて奇遇だね。これって運命なのかも。どう?僕と付き合わない?」

軽い、軽すぎる。
会ったばかりで、付き合う?
「あなたなんてお断りよ!」

「ふぅ~ん、そう。」
特にショックを受けた様子もなく席へ戻っていった彼。
一体なんなのよー。

ロンが心配そうに瞳を揺らし、席を立ったが、もうすぐ授業が始まる。

『大丈夫だから。』私が口バクで伝えると、ロンはガタンと大きな音をたてて、席についた。

***

翌日もハイドくんは私の机の前に現れた。
「カスミンちゃん、君の姉さんには婚約者や付き合っている彼がいるの?」

「どうしてあなたにそれを答えないといけないの?」

「いいじゃないか、ジャスミンさんは美人で才女だと評判らしいじゃないか。
教えて減るわけじゃあるまいし、確か婚約はしてないよね?彼は?」

「付き合っている人ならいるわ。姉は溺愛されていて、毎朝、馬車で迎えに来るの。通う学校が違っているのにね。」

「違う学校で、馬車? 相手は上位貴族か。遊ばれてるだけじゃない?」

「さぁね。それは私にはわからないことよ。」

「じゃあ君は?カスミンちゃんは婚約者や彼はいる?」

「もーうっ、朝から煩いわ。あっちへ行って!シッシッ」
手のひらをヒラヒラ振って、追い払う。

ロンが『よく言った!』とグータッチ、態度で示してくれる。
ライアとサマンサも『何よ、あの人』と顔が言ってる。
『まぁ、姉がダメなら妹でもいいか。』というやりとりは、さすがに腹がたつ。

それに、姉にしろ私にしろ、彼とはほとんど関わったことがない。
容姿や家が商売をしていることくらいしか知らないはずだ。

はぁーっ。
思わず、ため息が漏れる。

授業が終わり、ロンと帰っていたら、ハイドくんが追いかけてきた。
「カスミンちゃん、待ってよー。帰りにお茶していかない? パジャマっていう商品について、ちょっと聞きたいんだけど……」

「パジャマ?」
私の案で初めて形になった商品、パジャマ。
それだけに思い入れがある。
つい立ち止まってしまった。

「じゃ、そういうことで。」
ハイドくんはロンにそう伝えると、私の手を引き、連れて行こうとする。

急に手を握られた私はビクッと固まってしまった。
小さな頃は、ロンと手を繋いで遊んでいた。
でも、いつからか手を繋ぐことがなくなって……
久しぶりに繋がれた手は、ロンのものではなくて、冷たくて滑らかな手。
私を強く掴んでいる。

男の子と手を繋いだことなどほとんどなくて戸惑っていると、すぐに反対側の手にぬくもりを感じた。
ロンが私の手を取ったのだ。
優しい握り方で、安心する。

ロンの手はゴツゴツして硬くなった部分があり厚みがある。
子供の時はもっと柔らかかったのに……頑張っている手だと思う。

これからもっと硬く厚みのある手になっていくのだろうか……
学校帰りに工房の隅で、兄のレンから仕事を教えてもらっている姿を見かけたことがある。
真剣に教えを乞う姿はかっこよかった。
あーっ、私ったら何考えてるんだろ。

「ハイドくん、カスミンと話すのは、この先にある公園でいいだろ?
ちょうど帰り道でベンチもある。
カスミン、俺も一緒に話を聞いていいか?」

ハイドくんと二人になるのは緊張する。
ロンが傍にいてくれると心強い。
彼は工房長の息子だし、パジャマの作り方も知っている。

「うん。ロンが居てくれると、心強いよ。ハイドくん、公園でいいなら、話を聞くよ。
手は離してね。」

『手は離してね。』の言葉に反応したハイドくん、ロンが同時にパッと手を離した。

ハイドくんは平然としてるが、ロンのそっぽを向いた耳が少し赤くなってる。
もしや照れてる? 
何だか彼の普段見せない顔に、ドキリと胸が高鳴った。
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