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僕のせい
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「いいえ、何も。」
「じゃあそこをどきなさい。...そうねえ、私達今日、実はある“噂”を聞いて来たの。公爵様が新しい“ペット”を飼い始めたって噂よ。だから少し見てみたいのよ。」
「...白虎様ならば、外に「違うわよ。分かってるでしょ?いいからどきなさい!!」っ...。」
ドサっとサナさんが地面に倒れる。
それによって僕の姿が顕になってしまった。
でも、怖くて顔が上げられないかった。
この人は“この家”の人じゃない。
僕に優しい“この家”の人じゃない。
「あら、本当に獣人だわ。...気持ち悪い。どうやって公爵様のお屋敷に忍び込んだのかしら?」
「っ、おやめください!!」
「貴女は黙って!」
「きゃっ!」
サナさんが貴族様の後ろにいた知らない女の人に取り押さえられる。さっきこの貴族様を連れて行った知ってる気配の男の人も、「おやめください!」と言っていたが、長い棒を持った男の人に取り押さえられていた。
「っ............。」
何が起きているのか分からず、息を呑む。
すると、そんな僕の顔を貴族様の一人が覗き込んできた。
「あらぁ?喋れないの?獣人は喋れると聞いていたけれど、これじゃあただの獣じゃない。さっさと靴を脱いで四つ足で歩いたらどうかしら?」
「まぁまぁ、お姉様。こんな獣と同じ空気を吸ってしまったら病気になってしまいますわ。リリアン、コレを外に出してここを消毒してちょうだい。」
「はい、シャルロッテ様。」
「...ぃっ......。」
知らない人に首元の服を掴み上げられてしまう。すると、どうやら突如周りに人が増えて来たようで一気に周囲が騒がしくなった。
「バーキンス伯爵令嬢、おやめください!それ以上は公爵様もお許しになりません!」
「お前達!ルノ様を守れ!」
「ちょっと、どこから出て来たの!?早くこいつらを取り押さえて頂戴!」
「このメイドがっ、気安くルノ様に触るんじゃないわよ!!」
「きゃあ!」
その瞬間ふっと、首元の締め付けが無くなり、体が床に落ちそうになるのを、誰かに受け止められる。それが誰かを確認する間もなく、すぐに床に下ろされて、僕はそのままへたり込んでしまった。
「っあんた達!!すぐにお父様に言って首を切ってやるんだから!!」
「こんな野蛮な使用人を抱えて、こんな汚い獣人を飼ってるなんて、公爵家も堕ちたものよ!!この獣が変な術でも使ってるんじゃないの!?」
ぐっと今度は貴族様に胸元を掴み上げられて、怒った顔の貴族様が間近に迫る。その気迫に押されて、かつての死に際の恐怖がぶり返した。
力の抜けた体から虎くんが床に落ちる。今度は酷い事をされないように、手を離した。
いつだって、僕を見るだけでみんな顔を怖くするんだ。
「シャルロッテ、そんな汚いもの触らないでちょうだい。臭いが移ったらどうするのよ。」
「あっ、ごめんなさい姉様。つい。」
どさっと、急に床に落とされる。その瞬間足首を変な方向に曲げてしまって、激痛が走った。
「っ...。」
「はぁ、ねぇ、そこの獣人。あなたがどうやって公爵様に取り入ったか知らないけどね、身の程をわきまえたほうがいいわよ。...気持ち悪い見た目ね。まだ獣の方がマシよ。本当に不快だわ。」
「そこまでです、令嬢。」
怖い声が頭に響く中、僕と貴族様の間に立ったのは、さっき声を上げていた男の人だった。
「ちょっと、この執事を早く退けて...え?」
「伯爵のあなた方には手を出せませんが、メイドと騎士は全員平民上がりのようでしたので、こちらで片付けさせていただきました。」
「...あなたの首だって、私達なら今すぐ切れるわよ?」
「どうぞ。私達全員の首を切る頃には公爵様がお戻りになるでしょうから。」
「っ......。」
くびを、きる...?
この人は、いったい何を言っているのだろうか。なんで、そんな首を切られてもいいような言い方をするのだろうか。
だって、首を切られたら死んでしまうのに。
人間は虎くんみたいに、治すことはできないのに。
「...だ、め...。」
「っ、ルノ様?」
「くび...きっちゃ、だめ...。」
「っ...。」
なんで、なんで、僕なんかを守るためにそこまでするの。僕にそんな価値はないのに。
この貴族様の言うように、僕はただの獣なんだ。
気持ち悪くて、人を不快にしかさせない生き物だ。
「なんだ、喋れるじゃない。ねぇ、あなたどうやってここまで来たの?どんな汚い手を使ったの?」
「...おやめください。ルノ様は公爵様の大切な方です。それ以上愚弄するようなら然るべき処罰が下されますよ。」
「黙りなさい。どうせ明日には息をしていない人間の言うことなんて聞く気にならないのよ。」
「勿論、後ろのメイド達もね。」
「...我々は公爵様のご命令に従うまでです。」
やめて、やめてやめてやめて。
僕なんかのために命を犠牲にするのはやめて。
僕にそんな価値ないの。
本当にないから。お願い、やめて。
僕が悪いから。
僕がここを居場所だと思っちゃったからいけないんだ。
僕がいなければこんなのことにはならなかった。
「...っぼくが、いなくなるから、」
だから、誰も傷つかないで。
「それは約束と違うよ、ルノ。」
「っ...ぇ...?」
不意に背後から聞こえた声に振り向くと、そこにはこちらに歩いてくるジル様が見えた。
その顔は少し笑っていたけれど、影が感じられる。
...ジル様は少し、怒っている気がした。
「じゃあそこをどきなさい。...そうねえ、私達今日、実はある“噂”を聞いて来たの。公爵様が新しい“ペット”を飼い始めたって噂よ。だから少し見てみたいのよ。」
「...白虎様ならば、外に「違うわよ。分かってるでしょ?いいからどきなさい!!」っ...。」
ドサっとサナさんが地面に倒れる。
それによって僕の姿が顕になってしまった。
でも、怖くて顔が上げられないかった。
この人は“この家”の人じゃない。
僕に優しい“この家”の人じゃない。
「あら、本当に獣人だわ。...気持ち悪い。どうやって公爵様のお屋敷に忍び込んだのかしら?」
「っ、おやめください!!」
「貴女は黙って!」
「きゃっ!」
サナさんが貴族様の後ろにいた知らない女の人に取り押さえられる。さっきこの貴族様を連れて行った知ってる気配の男の人も、「おやめください!」と言っていたが、長い棒を持った男の人に取り押さえられていた。
「っ............。」
何が起きているのか分からず、息を呑む。
すると、そんな僕の顔を貴族様の一人が覗き込んできた。
「あらぁ?喋れないの?獣人は喋れると聞いていたけれど、これじゃあただの獣じゃない。さっさと靴を脱いで四つ足で歩いたらどうかしら?」
「まぁまぁ、お姉様。こんな獣と同じ空気を吸ってしまったら病気になってしまいますわ。リリアン、コレを外に出してここを消毒してちょうだい。」
「はい、シャルロッテ様。」
「...ぃっ......。」
知らない人に首元の服を掴み上げられてしまう。すると、どうやら突如周りに人が増えて来たようで一気に周囲が騒がしくなった。
「バーキンス伯爵令嬢、おやめください!それ以上は公爵様もお許しになりません!」
「お前達!ルノ様を守れ!」
「ちょっと、どこから出て来たの!?早くこいつらを取り押さえて頂戴!」
「このメイドがっ、気安くルノ様に触るんじゃないわよ!!」
「きゃあ!」
その瞬間ふっと、首元の締め付けが無くなり、体が床に落ちそうになるのを、誰かに受け止められる。それが誰かを確認する間もなく、すぐに床に下ろされて、僕はそのままへたり込んでしまった。
「っあんた達!!すぐにお父様に言って首を切ってやるんだから!!」
「こんな野蛮な使用人を抱えて、こんな汚い獣人を飼ってるなんて、公爵家も堕ちたものよ!!この獣が変な術でも使ってるんじゃないの!?」
ぐっと今度は貴族様に胸元を掴み上げられて、怒った顔の貴族様が間近に迫る。その気迫に押されて、かつての死に際の恐怖がぶり返した。
力の抜けた体から虎くんが床に落ちる。今度は酷い事をされないように、手を離した。
いつだって、僕を見るだけでみんな顔を怖くするんだ。
「シャルロッテ、そんな汚いもの触らないでちょうだい。臭いが移ったらどうするのよ。」
「あっ、ごめんなさい姉様。つい。」
どさっと、急に床に落とされる。その瞬間足首を変な方向に曲げてしまって、激痛が走った。
「っ...。」
「はぁ、ねぇ、そこの獣人。あなたがどうやって公爵様に取り入ったか知らないけどね、身の程をわきまえたほうがいいわよ。...気持ち悪い見た目ね。まだ獣の方がマシよ。本当に不快だわ。」
「そこまでです、令嬢。」
怖い声が頭に響く中、僕と貴族様の間に立ったのは、さっき声を上げていた男の人だった。
「ちょっと、この執事を早く退けて...え?」
「伯爵のあなた方には手を出せませんが、メイドと騎士は全員平民上がりのようでしたので、こちらで片付けさせていただきました。」
「...あなたの首だって、私達なら今すぐ切れるわよ?」
「どうぞ。私達全員の首を切る頃には公爵様がお戻りになるでしょうから。」
「っ......。」
くびを、きる...?
この人は、いったい何を言っているのだろうか。なんで、そんな首を切られてもいいような言い方をするのだろうか。
だって、首を切られたら死んでしまうのに。
人間は虎くんみたいに、治すことはできないのに。
「...だ、め...。」
「っ、ルノ様?」
「くび...きっちゃ、だめ...。」
「っ...。」
なんで、なんで、僕なんかを守るためにそこまでするの。僕にそんな価値はないのに。
この貴族様の言うように、僕はただの獣なんだ。
気持ち悪くて、人を不快にしかさせない生き物だ。
「なんだ、喋れるじゃない。ねぇ、あなたどうやってここまで来たの?どんな汚い手を使ったの?」
「...おやめください。ルノ様は公爵様の大切な方です。それ以上愚弄するようなら然るべき処罰が下されますよ。」
「黙りなさい。どうせ明日には息をしていない人間の言うことなんて聞く気にならないのよ。」
「勿論、後ろのメイド達もね。」
「...我々は公爵様のご命令に従うまでです。」
やめて、やめてやめてやめて。
僕なんかのために命を犠牲にするのはやめて。
僕にそんな価値ないの。
本当にないから。お願い、やめて。
僕が悪いから。
僕がここを居場所だと思っちゃったからいけないんだ。
僕がいなければこんなのことにはならなかった。
「...っぼくが、いなくなるから、」
だから、誰も傷つかないで。
「それは約束と違うよ、ルノ。」
「っ...ぇ...?」
不意に背後から聞こえた声に振り向くと、そこにはこちらに歩いてくるジル様が見えた。
その顔は少し笑っていたけれど、影が感じられる。
...ジル様は少し、怒っている気がした。
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