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穏やかな暮らし
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僕はそれからジル様のお家で暮らしていた。
朝はふわふわに囲まれて起きて、虎くんにおはようと言うと、ジル様がやって来て一緒にご飯を食べる。
初めてリゾットを食べた時から、ずっと食事はジル様の膝の上だ。目の前にやってくるスプーンに齧り付いて、今日も美味しいご飯を食べる。
そして、ジル様に抱っこされたまま場所を移動すると、“執務室”という場所に着く。そこにはジル様の秘書さんのウェーゲルさんがいて、ここでジル様はお仕事をするらしい。
貴族様はお仕事をしないと誰かが言っていた気がするけど、本当はいっぱい働くらしい。紙をいっぱいめくりながら何か読んでいたりするのを、僕はふかふかなソファの上で見ている。しかし、すぐに眠くなってしまって、ソファで丸まって寝てしまうのだ。
途中で目を覚まして、「おやつの時間」に甘いお菓子を食べて、幸せになってまた眠る。
そして目が覚めると、夜のご飯を食べる。これも勿論ジル様の膝の上でだ。
そして、ベッドに入る前に“お風呂”の時間がある。
これが、嫌なのだ。
「みず、やだ。」
「でもルノ。温かい水だよ。」
「やだぁ...。」
ジル様の服を掴みながらなるべく水から遠ざかるように後ろへ隠れる。
「猫は基本的に水が嫌いって言うけどやっぱりそういう繋がりはあるんだね。ルノ、気持ちいいから少しだけ入ってみない?」
「...おこる?」
「怒らないよ。でも、体を綺麗にしてふかふかのタオルで体を拭いたらとっても気持ちがいいよ?」
僕の顔にふかふかのタオルを当てながらジル様がそう言う。たしかにこのふかふかに包まれるのはとっても気持ちいい。このまま寝ちゃいたいくらいだ。
「...わかった。」
「ありがとう、ルノ。良い子だね。」
ぽんと、頭に乗った大きな手が変わらず僕を優しく撫でる。頭を撫でられた事なんてこれまで無かったけれど、とっても心地いいんだ。だから僕は毎日虎くんを撫でるようになった。虎くんもきっと撫でられたら嬉しいだろう。
「んにゅぅ...!」
「にぃ...。」
「みゅぅぅ...。」
頭からお湯をかけられたり、お湯に入れられると、本能的に恐怖を感じてしまってついへんな声が出てしまう。全身がゾワゾワして、今すぐ逃げ出して頭をブルブル振りたくなるのを我慢するのも辛かった。
「ルノは本当に猫なんだね...あまりに可愛い。」
「るのは、つよいねこちゃんです。」
お湯に浸かりながら、ぎゅっと水の恐怖に身を固めてそう答える。
強い猫、それはつまり虎だ。
僕は虎なんだ。耳の形はちょっと違うけど、尻尾は似てる。
牙もある。...少し短いけど。
「そうだねぇ。がんばってお風呂に入ってるもんね。ルノは強い猫ちゃんだ。」
「ん!」
「よし。体が温まったら、そろそろ出ようか。」
「ん!!」
ジル様は、服が濡れるのも厭わずに、僕をお湯から出して抱き上げると、そのままさっきのもこもこタオルで包んでくれた。
「きゃあ!」
「ほーら、気持ちいいでしょ?」
「はい!」
タオルに全身が包まれるのが気持ちいい。そして安心する。
そして素早い動きで綺麗な服を着せてもらうと、髪が温かい風の出る機械で乾かされ、僕は寝室のベッドの上まで運ばれた。
体はジル様の言った通りとっても温かくなって、眠くなってきていた。
「ルノ?今日はもう寝る?」
「んぅ...やだぁ...。じるさま、えほん...。」
最近日課になりつつある、絵本の読み聞かせを強請るが、ジル様は僕の体にお布団をかけてぽんぽんと優しく叩いた。
「もう目が開いていないじゃないか。また明日の夜読んであげるから、今日はもうおやすみ。ほら、虎くんも眠そうだ。」
そう言ってジル様に差し出された虎くんは、確かに眠そうだった。僕の目が殆ど開いていないからそう見えるだけかもしれないけど、とにかく眠い。
「...とらくんもねむい...?そっか...じゃあいっしょに、ね...る......。」
僕はそこで限界が来てしまったので、僕の意識はコロッと落ちてしまった。
朝はふわふわに囲まれて起きて、虎くんにおはようと言うと、ジル様がやって来て一緒にご飯を食べる。
初めてリゾットを食べた時から、ずっと食事はジル様の膝の上だ。目の前にやってくるスプーンに齧り付いて、今日も美味しいご飯を食べる。
そして、ジル様に抱っこされたまま場所を移動すると、“執務室”という場所に着く。そこにはジル様の秘書さんのウェーゲルさんがいて、ここでジル様はお仕事をするらしい。
貴族様はお仕事をしないと誰かが言っていた気がするけど、本当はいっぱい働くらしい。紙をいっぱいめくりながら何か読んでいたりするのを、僕はふかふかなソファの上で見ている。しかし、すぐに眠くなってしまって、ソファで丸まって寝てしまうのだ。
途中で目を覚まして、「おやつの時間」に甘いお菓子を食べて、幸せになってまた眠る。
そして目が覚めると、夜のご飯を食べる。これも勿論ジル様の膝の上でだ。
そして、ベッドに入る前に“お風呂”の時間がある。
これが、嫌なのだ。
「みず、やだ。」
「でもルノ。温かい水だよ。」
「やだぁ...。」
ジル様の服を掴みながらなるべく水から遠ざかるように後ろへ隠れる。
「猫は基本的に水が嫌いって言うけどやっぱりそういう繋がりはあるんだね。ルノ、気持ちいいから少しだけ入ってみない?」
「...おこる?」
「怒らないよ。でも、体を綺麗にしてふかふかのタオルで体を拭いたらとっても気持ちがいいよ?」
僕の顔にふかふかのタオルを当てながらジル様がそう言う。たしかにこのふかふかに包まれるのはとっても気持ちいい。このまま寝ちゃいたいくらいだ。
「...わかった。」
「ありがとう、ルノ。良い子だね。」
ぽんと、頭に乗った大きな手が変わらず僕を優しく撫でる。頭を撫でられた事なんてこれまで無かったけれど、とっても心地いいんだ。だから僕は毎日虎くんを撫でるようになった。虎くんもきっと撫でられたら嬉しいだろう。
「んにゅぅ...!」
「にぃ...。」
「みゅぅぅ...。」
頭からお湯をかけられたり、お湯に入れられると、本能的に恐怖を感じてしまってついへんな声が出てしまう。全身がゾワゾワして、今すぐ逃げ出して頭をブルブル振りたくなるのを我慢するのも辛かった。
「ルノは本当に猫なんだね...あまりに可愛い。」
「るのは、つよいねこちゃんです。」
お湯に浸かりながら、ぎゅっと水の恐怖に身を固めてそう答える。
強い猫、それはつまり虎だ。
僕は虎なんだ。耳の形はちょっと違うけど、尻尾は似てる。
牙もある。...少し短いけど。
「そうだねぇ。がんばってお風呂に入ってるもんね。ルノは強い猫ちゃんだ。」
「ん!」
「よし。体が温まったら、そろそろ出ようか。」
「ん!!」
ジル様は、服が濡れるのも厭わずに、僕をお湯から出して抱き上げると、そのままさっきのもこもこタオルで包んでくれた。
「きゃあ!」
「ほーら、気持ちいいでしょ?」
「はい!」
タオルに全身が包まれるのが気持ちいい。そして安心する。
そして素早い動きで綺麗な服を着せてもらうと、髪が温かい風の出る機械で乾かされ、僕は寝室のベッドの上まで運ばれた。
体はジル様の言った通りとっても温かくなって、眠くなってきていた。
「ルノ?今日はもう寝る?」
「んぅ...やだぁ...。じるさま、えほん...。」
最近日課になりつつある、絵本の読み聞かせを強請るが、ジル様は僕の体にお布団をかけてぽんぽんと優しく叩いた。
「もう目が開いていないじゃないか。また明日の夜読んであげるから、今日はもうおやすみ。ほら、虎くんも眠そうだ。」
そう言ってジル様に差し出された虎くんは、確かに眠そうだった。僕の目が殆ど開いていないからそう見えるだけかもしれないけど、とにかく眠い。
「...とらくんもねむい...?そっか...じゃあいっしょに、ね...る......。」
僕はそこで限界が来てしまったので、僕の意識はコロッと落ちてしまった。
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