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第3章 お友達編
【62】見送り
しおりを挟む「ほぁ~。」
『わぁ~。』
ユーリと共に見上げる。
そこには、パーティーのために着飾った兄様がいた。
いつもはセットしていない髪が、とってもかっこいい感じにセットされ、普段は前髪で若干隠れていた美貌が顕になっている。
ああ!そんな!おでこまで見えちゃっていいんですか!死人が出ますよ!
「にいさま...かっこいー。」
『僕も長く生きてるけど、ここまでの完成度は滅多に見ないよ...。』
「ありがとうアステル。」
「おぁー!」
僕に気づいた兄様が微笑む。もはや兵器だ。
眩しくて咄嗟に両目を塞いでしまう。
「どうした?目が痛いのか?おい犬。何をやってたんだお前は。」
『いやこれはご主人様のせいだから。』
「俺...?」
『えぇ...?この顔で自覚なしって何...?本当にアステルしか見えてないの...?こわ...。』
アステル?としゃがみ込んだ兄様に顔を覗き込まれる。
「にいさまが、かっこよすぎます...。みんな、にいさまに、みとれちゃう...。」
「俺はアステルが見惚れてくれたらそれで十分だ。」
いやー!これ以上微笑まないでぇ!僕の目が!目がぁ!!
「アステルの可愛い顔も見せてくれ。今日は夜まで見れないだ。」
『アステル、気を強く持って。』
兄様の甘い言葉に、慣れているはずの僕も流石にドキドキしてしまい、ユーリに励まされる。そうだ、今日はパーティーだから兄様と夜まで会えないのだ。下手したら僕はすでに寝てしまって、一日中会えないかもしれない。
そう考えると途端に寂しくなる。
しゅん、とし始めた僕を兄様は抱き上げる。僕は、兄様のかっこいい髪型が崩れないように気をつけながらその首に腕を回す。
「なるべく、はやくかえってきてください。」
「勿論だ。」
兄様がもし外でたくさん友達を作ったら、僕よりそっちを優先するようになるかもしれない。それがきっと正しいことで、貴族としては大事なことなのだろう。いつまでも今のままではいられないという事は分かってる。...でも、やっぱり寂しい。
それに兄様はとってもかっこいいからモテてしまう。絶対にモテてしまう。今日のパーティーでは女の人に囲まれるに違いない。
しかしそれをどうするか決めるのは兄様自身だ。兄様の選択を僕はただ受け入れるしかない。
だから、僕もちょっとわがままを言っても良い、よね。
「しらないひとと、なかよくしちゃいやです。にいさまは、ぼくとあそんでください。」
「...あんまり可愛い事を言うなアステル。行きたくなくなるだろう。」
「...ごめんなさい。」
「大丈夫だ。俺は呪われた赤い目を持ってるからな。誰も近づこうとはしないだろう。」
「のろわれてなんかないです。ぼくの、だいすきないろだもん。」
「ああ。初めてそう言ってくれたのはアステルだ。だから俺は今こうして“普通”でいられてる。...早く帰ってくるから、良い子で待ってろ。」
「はい。...いってらっしゃい、にいさま。」
「行ってくる。愛しい俺のアステル。」
ちゅ、と僕の頬に兄様の柔らかい唇が当たる。
それにさっきまで不安で固まっていた胸がぽかぽかしてくるのを感じ、もう一度兄様をギュッと抱きしめてから、僕も兄様の頬にちゅ、と唇を当てる。
「ぼくも、だいすきです。」
そう言うと僕を抱きしめる力が強まり、それは出発の時間まで緩むことはなく最後は父に引き剥がされていた。
それに不満そうに顔を歪めながら兄様は最後に王子様のように僕の指先へキスをして颯爽と馬車に乗り出かけて行った。最後にユーリをひと睨みして。
父の腕の中で兄様の乗った馬車を見送っていると、父と母が何か会話をしている。
「今生の別れみたいだったな。」
「あら、今生の別れなら頬と手だけでは済まないですわ。」
「あぁ。だろうな...。」
兄様が出かけてしまって暇になってしまった今日は、何をして過ごそうか。でもユーリが居てくれるから、兄様が魔塔に行ってしまった時よりは寂しくはないだろう。
『アステル!最後のご主人様の顔見た!?アステルに何かあったら殺すって顔だったよ!?もう今日は家で静かにしておこう!』
そう言って怯えるユーリを宥めながら、その言葉通り今日は家で静かに過ごすことにした。
▼
ガタガタと揺れながら進む馬車の窓の外をぼんやり見つめる。いつもなら膝の上にある愛しい重さが、今日はないので気分も下がるばかりだ。
社交界デビュー。
そんな面倒な事を貴族は毎年やっている。
どうせ社交界と言っても、あるのは誰かの汚職や不倫などの下世話な噂ばかりだと言うのに。
そこに、両親殺しの噂のある俺が行ったところで良い噂の種になるだけなのだが、参加しないのも公爵家のイメージを悪くさせてしまう。
魔塔でも騒動を起こしてしまい、北でまた魔力を暴走させてしまい、これ以上父上に迷惑をかける事だけはしたくないためこうしてアステルとの時間を犠牲にしてでもパーティーに出席することにしたのだった。
それにしても出かける時のアステルは可愛かった。
前に俺が皇宮に呼ばれていた時も、アステルは俺と離れるのを嫌がり駄々をこねていた。最近では毎日一緒にいたからそれも無かったのだが、久しぶりに浴びるアステルの寂しいという表情は正直天使でも敵わない愛らしさである。それに加えて「だいすき」の言葉と頬へのキスもついてくると言うのであれば、このパーティーへの出席も面倒なだけではないと言える。
むしろあんなに可愛いアステルが見れるのならこれからも定期的に外部へ顔を出しても良いかもしれない。...いや、やはりアステルと一緒に過ごす方が大事だ。それは何ものにも代え難い。
それに、なるべくアステルには辛い思いをさせたくない。
「...はぁ。」
家との距離が次第に離れる事で、ついため息が出る。
今頃アステルは何をしているだろうか。あの犬と楽しく遊んでいるだろうか。
帰ってアステルに傷一つでもできていたらあの犬を躾し直そうと、段々と会場に近づく景色を眺めながら決意した。
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