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第3章 お友達編

【58】名前

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「...よし!じゃあ、おおかみさんのなまえは、ユーリです!」

『ユーリ?それが名前?ユーリ!僕の名前!』





兄様から解放されて遠吠えを諦めて部屋中を駆け回っていた狼さんを眺めながら名前を考え、思いついたのがこれだった。
綺麗な白い毛並みだから、同じく白で関連を考える。
シロだと単純すぎるし、ユキだとちょっと女の子っぽいし、と考え、白い花つまり百合の花から、ちょっと捻って“ユーリ”である!
動物に名前を付けるのは初めてだからセンスなんてものはない。

それでも嬉しいのかユーリは尻尾を振ってその喜びを表す。
...あれ?ユーリの目って緑色だったっけ?
白い花に緑の葉を連想させるその組み合わせは益々百合の花みたいだった。

『ゆりの花?何それ!どんなの?』

「しろいおはなだよ。」

『アステルはその花好き?』

「うん。きれいで、すき。」

『やったぁ!ユーリ!ユーリだね!僕の名前はユーリ!アステル!みんなに伝えて!僕の名前はユーリだよって!僕をユーリって呼んでって!』

「このこは、ユーリっていいます。」

「...そうか。ユーリか。」

父がまだ理解しきれていない顔で頷いた。

「えっと、ぼくはユーリとおともだちになりました!...おとーさま、ユーリをうちにおいていい...?」

「うっ...。...でも神獣だからなぁ。一応皇室に報告しなければいけないだろうし、そうなると引き取られてしまうかもなぁ...。」

『やだよ!僕はアステルと一緒に居る!皇室になんか行かない!!やだ!』

「おとーさま...だめ...?ユーリ、ぼくの、おともだち...。」

「父上。この犬も、申告しなければただの犬です。」

「だがなぁ...。どこにも属さない神獣が見つかるのは稀だから、皇室に悟られるのも時間の問題だ。」

難しい顔をした父がそう言うなら、もしかしたらユーリとは一緒にいられないのかもしれないと思って不安になる。
せっかくできたお友達なのに。

僕が何かできないかな...と考えていると、父と話していた兄様がユーリに声をかける。

「...おい、犬。こっちへ来い。」

『僕はユーリだもん!』

ぷんぷん怒りながらも、やはり助けてもらった恩なのか大人しくこっちへ近づいてくるユーリ。
そして兄様はユーリの顔に手をかざすと何かを呟いた。

『...えっ?』

瞬間兄様の手のひらがカッと強く光る。

「...俺と、従魔契約を結べ。」

『えぇ!?っや、やだ!!』

ブンブン顔を振るユーリ。

「お前のような得体の知れない犬をうちに置きたいというアステルのためだ。」

『...う...でもぉ...僕、一応神獣だから、普通の従魔契約じゃ無理だと...「“契約”」』

兄様が言うと、光る鎖がユーリの首に巻き付いた。それを見てユーリはありえないと驚く。

『えぇ!?できちゃうの!?』

「返事をしろ。...“ユーリ”」

『....................はぁい。』

有無を言わせない兄様の呼びかけにユーリは嫌々ながら答えた。その瞬間、鎖はユーリの体に溶け込むように消えていった。

「...これでいい。二度とアステルを危険な目に遭わせないように、俺が躾けてやる。」

やはり今回の誘拐事件のことを引きずっていた兄様は、いつもの優しい笑顔ではなくてニヤリと不気味に笑った。ユーリは毛で見えないが、それでもなんとなくわかるほど顔を青くした。

『わぁあん!絶対いじめられるよぉ!助けてアステル!僕アステルと遊びたいぃ!』

「ん!にいさまと、さんにんであそぶ!」

「そうだな。アステルも一緒にコイツを躾けよう。」

『僕は話が分かる狼だもん!犬じゃないもん~!!』

家が賑やかになって嬉しい。
父はもう何もかも諦めた顔をしているし、母は「お友達ができて良かったわねぇ」と微笑んでいる。

うん!初めての友達がこんなに凄い子なんてとっても嬉しい!













そうして僕とユーリは友達になったわけだけどもう一つ大きく変わったことがある。
それまでは、当たり前に兄様と別々だった寝室が同じになったのである。

というのも今回の騒動で過保護が加速した兄様からの提案だった。


この世界では親子ですらベッドを分けるのだが、「またアステルが居なくなったのではないかと思うと眠れない。」と本気で言う兄様に両親も納得したようだった。というかやっぱり僕がまた何かしでかすのではないかという懸念があるらしい。

前世も合わせると精神的には大人な気分だったからちょっと心外だが、これまでも兄様は僕が眠るまでずっとそばに居たし、朝も目覚めた瞬間からそばにいたからそう変化はないだろう。
それに、兄様の腕の中というのは世界で一番安全で安心できる場所だから、僕の快眠にも繋がる。そこにユーリというもふもふも追加されるのだからもう僕の最上級の眠りが保障されたようなものだ。

大好きな兄様と優しいもふもふに囲まれて、僕は穏やかに眠りについた。





こうして僕はユーリの友達に、兄様はユーリのご主人様になったのだ。





























___________________
元の世界由来の言葉+アステルが自分で考えた言葉なので、”ユーリ“はちゃんと発音できています。








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