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第3章 お友達編

【49】北へ!

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「ゆき!ゆきです!」

「ああ、雪だな。」

遠路を走り続け、とうとう北部に入った馬車の中で兄様と一緒に窓の外を見て声を上げる。当たり前に僕は兄様の膝の上であるため、馬車から身を乗り出すことは出来ない。
それよりも僕はこの世界に来て初めての雪にテンションが上がりまくっていた。僕が前世で住んでいた地域は雪は少ししか降らなかったから、こうして一面雪景色になっているのを見るのは初めてなのだ。

「まっしろ~!」

地面も木も建物も真っ白に染め上がった街並みは、とても幻想的だった。

「アステル、寒くないか?」

「んー!さむい!」

「どこだ?どこが寒い?手か?足か?すぐに温めるから言ってくれ。」

後ろから慌てて覗き込んでくる兄様を見上げる。

「てがさむいです!にいさま、ぎゅってしてください!」

「っ...あぁ。」

兄様が後ろから両手をそれぞれギュッと握ってくれる。僕よりも随分と大きい手に包まれて安心する。

「へへ~。」

「なんだ、アステルの手の方があったかいぞ。」

「えへへ...にいさまとぎゅってしたかっただけです!」

「............。」

「止めを刺されたな。」

「アステルは止めを刺すのが本当に上手だわ。」

「君に似たんだろうなぁ。」

「あら、刺さっているのですか?」

「だから結婚したんだ。」

父も母もお熱いことで。まだまだラブラブ夫婦だ。














街の中を進み一旦邸宅へと到着した僕達は、北の地に常駐している使用人の人たちに出迎えられた。初対面の人が大人数で来られると人見知りを発動してしまう僕は、兄様の腕の中で身を隠すように丸まる。

そんな中まずは公爵家の当主である父が一歩前に出て労いの声をかける。

「全員、今年もご苦労だった。先に言ってあった通り今回は息子のイーゼルとアステルも連れてきた。よろしく頼む。」

「お初にお目にかかります。私はこの邸宅の管理を務めております執事長のメドベル・ガーネスです。お二人にお会いできて光栄です。」

メドベルさんは、父と同じくらいの年齢の男性で、茶髪の素朴な人だった。姿勢の良さや投げかけてくる笑顔からとても優しい人なんだとわかる。

「長男のゼルビュート・イーゼルです。...アステル、挨拶できるか?」

兄様にそう声をかけられ、これから1週間お世話になる身として挨拶はしなければと思い、なんとか勇気を振り絞って顔を上げる。
この人達も、公爵家の一員なんだから、大丈夫、怖くない。
震える声をなんとか押し留めて、床におろしてもらってから自己紹介をする。

「...あすてる、です。ろ、ろくさいです...。お、おねがいします...。」

そっと一人ずつ顔を眺めながら挨拶をする。しかしやはり怖くてすぐに俯いてしまう。そんな僕をよくできたな、と褒めてくれた兄様の首にすぐに腕を回して再び抱き上げてもらう。

「弟は人数が多いと人見知りをしてしまうようです。すみません。」

「いえ、とんでもございません。北の者一同、心より歓迎いたします。アステル様の元にはできる限り少人数で伺いますので、ご安心ください。イーゼル様も、お気軽にお声掛けください。」

「そうか、ありがとう。」

「...ぁ、ありがと、ございます。」

「はい。」


挨拶も終えて、荷物も運び終えると父は執務室で仕事に取り掛かり、母は邸宅の状況を確認しに行った。
残された僕と兄様は、使用人の内の一人に勧められて邸宅の裏にある庭にやってきた。

森に囲まれたそこは広いのにまだ誰も足を踏み入れていないのか、雪が真っ白な絨毯のように広がっていた。

「...わぁ...すごい...。いきしろい!!」

新調した裏地の赤いコートも着て、手袋とマフラーもして完璧な僕は、その上からさらに兄様に防水と防寒の魔法をかけられた。あれ、その魔法があるならコートを着てる意味って...とは思ったが野暮なことは言うまいと口を噤んだ。なんと言っても兄様とお揃いのコートを着れるんだから!

雪の絨毯に一歩踏み込むと、足が膝上まで埋まった。

「っ!ここ!とびこんでいいですか!?」

「危険は。」

「この庭は平地で大きな石などは除かれています。雪もまだ柔らかいかと。」

「アステル。怪我はするなよ。」

「はーい!」

兄様の許可も出たところで、雪に向かって大の字にジャンプする。前世で見たことがあって一度やってみたかったのだ。
兄様の魔法のおかげで、飛び込んでも顔が少し冷たいだけで済んだ。

「あはは!すごい!」

初めて感じる雪にテンションはMAXだ。
すぐに立ち上がって雪の中を駆け巡る。が、雪に足を取られてすっ転ぶ。でも雪がクッションになって全然痛くない。すごい。

「アステル!大丈夫か?」

大股で後ろから付いてくる兄様に起こされた。

「だいじょーぶです!たのしい!!」

「...そうか。良かったな。」

僕の顔についた雪を払いながら兄様も微笑む。まるで僕が楽しそうで嬉しいと言った顔である。
しかし!今日は兄様にも楽しんでもらわなければ!!

「にいさま!おにごっこしましょう!!」

「おにごっこ?」

「おにいさまがにげて、ぼくがおいかけて、てでさわるんです!」

「...絶対に追いつけないぞ?」

確かに、明らかに年齢と足の長さに差がありすぎる。これでは日が暮れても兄様には追いつけないだろう。

「んー、じゃあにいさまは、あるくのだけです!」

「わかった。」

「よーい、どん!!」

その掛け声と同時に兄様が歩き出す。その後ろを懸命に僕が追いかける。どうにか兄様が踏んだ雪を踏みながら前に進む。たまに転んだり、休んだりしながらも懸命に兄様の背中を追いかけるが、一向に距離は縮まらなかった。

というか兄様の方はすでに足を止めていて、僕が頑張って少し近づくと、一歩で簡単に距離をとってしまう。

走っても走っても縮まらない距離。
疲れた体。息切れ。
もう少しと思ったところで離れていく兄様。

提案をしたのは僕だが、なんだか寂しくなる。

「...うぅ...。」

「アステルっ...?」

突然瞳を潤ませた僕に気づいた兄様がすぐさま近づいて、僕を抱き上げた。そして僕が怪我をしたんじゃないかと心配をする。

「どうした?どこか痛いか?」

「...もう、おにごっこやめる...。にいさまといっしょにあそぶ...。」

「っあ、ああ、そうだな。一緒に遊ぼう。」

という事で僕の我儘でその後は雪だるまや雪のお城を作って遊んだ。
兄様は魔法で僕が入れる大きさのお家を作ってくれたり、雪でできた動物を動かしたりしてくれた。新たな雪遊びも発見できてとても楽しかった。


そして電池が切れるように突然体力が底をつきた僕は、兄様に運ばれて邸宅まで帰ったのだった。















「父上、母上。おにごっことは何か知っていますか?」

「おにごっこ?...知らないな。」

「では雪だるまは。」

「雪だるま...?知らないわね。だるまってなにかしら?」

「アステルが言っていたのですが...どこで覚えたのでしょうか。」












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