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第2章 魔塔編

【43】お迎え

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「アステル!イーゼルを迎えにいくぞ!」

兄様が家を出てからもうすぐで2ヶ月が経とうとしていたある日、勢いよく部屋のドアを開けた父が声高らかにそう言った。
兄様の手紙が10通を超え、母に保管用の宝箱を用意してもらったためその中身を眺めていた僕は「イーゼル」の言葉にぱっと顔を上げる。


兄様を迎えに...?
でも、まだ2ヶ月経ってない。あと一週間と少しほど時間がある。
早くて2ヶ月と言われていたのに、それより前倒しになることなんてあるのだろうか。



...まあでも、




「いきます!!!!」





兄様に会えるなら、そんな些細な事はどうでもいい。
















「イーゼルは優秀だから、魔法の基礎指導を受けずに試験だけ行うそうだ。まだ結果は出ていないが、イーゼルなら必ず合格するだろう。だからひと足先に迎えにいく。つまり、サプライズだ。」

魔塔へ向かう馬車の中、父は得意げにそう言っていた。

「ええ。イーゼルには内緒だから、きっと私たちが来たら驚くでしょうね。」

母は頬に手を当てながらふふ、と笑う。

「にいさまをびっくりさせます!」

僕も久しぶりに兄様に会えるとなってうきうき。

「そんなに優秀な教え子を持てて、教えていた身としては誇らしいです。」

そして、今回なんとユノ先生まで同行してくれることになった。魔法を扱う場所は僕のような子供には危険だから、護衛としてついてきてくれるらしい。前に兄様と通話した時に、お弟子さんと話していたから会いにいくのかもしれない。あの時はなぜか途中から耳を塞がれてしまってユノ先生がお弟子さんと何を話したのかは知らないのだが、きっとなにか前進したのだろう。

「おでしさんに、あいますか?」

「そうですね。私は伝え方を間違えたようなので、今度はちゃんとお互いが納得するまで話を続けるつもりです。」

「うまくいくといいですね!」

「はい。...多少怪我をしてでも、それは逃げた私への罰として受け入れるつもりです。」

既に痛みを受けているような顔で、ユノ先生はそう決意を口にした。なんだか想像以上にお弟子さんとの関係は複雑なようだった。だから僕はその固い決意に何も言えなくなって、頷くことしかできなかった。


それから馬車の中で、ユノ先生のお弟子さんの話を聞いた。名前はシェラルクさんで、東の国で拾った子で、魔法の才能がとてもある事。背が高くて、いつの間にかユノ先生より大きくなっていたそうだ。

前にシェラルクさんの話をしていた時は少し悲しそうな顔をしていたけれど、今回は可愛い弟子を自慢するようにユノ先生は楽しそうに話してくれた。その表情は晴々としていた。
だからきっと、二人は一緒にいるべきなんだと思った。





そして着いたのが、魔塔の外にある不思議な扉の中に作られた魔法空間という場所だった。辺りは何もないただ土でできた地面が広がるだけだ。



そして、目の前には爆炎が上がっている。





「......ほぁ......。」



僕は、抱っこしてくれているユノ先生の結界によって熱を感じることがないが、自然現象では到底起こり得ない天に届くほどの火柱を呆然と見つめるしかなかった。
僕と一緒にそれを見上げていたユノ先生は半笑いだった。

「...強いとは思っていましたが、恐ろしいですね。」

「これが、まほう...。」

「これは特例中の特例ですよ。1級魔法師でもあの大きさの炎の維持は10秒が限界でしょう。私の知る限りであんな事ができるのは、私の師匠くらいでしたが...。」

「あ、きえちゃった。」

ユノ先生が言葉を詰まらせるのと同時に、その火柱は空気に溶けるように消えていった。

「___です。_____しい。」

火柱の向こうに居た誰かが、なにか声を出す。紫色の長い髪が風に靡いているのが遠くからでもよく見える。
そしてその人の前には、





「!いーぜるにいさま!!!」





黒い外套に身を包んで、漆黒の髪を靡かせているのは紛れもなく僕の兄様だった。
ここから兄様までは結構な距離があったが、嬉しくてつい声をあげる。

しかし、運良く僕に気付いてくれたようで、兄様はこちらへ顔を向けた。

遠くに居てもまるで光っているように見える赤い目が僕を射抜く。

そして、その驚いた表情に向けて僕はここだよと手を振ろうとしたその瞬間に、少しの浮遊感を感じ、

「アステル。」

僕は溶けたように微笑む兄様の腕の中に居た。














「筆記は...満点じゃの。」

「そうか。」

覚醒後、特にすることもなく魔塔の図書館の本もほぼ読み終わったある日、シェラルクの伝言の通り魔塔主の部屋に行けば、何やら紙を渡され、言われるがままそこに書かれた問題を解いた。解き終わって、採点が終わると魔塔主に微妙そうな顔でそう言われた。
どうやらこれはこの魔塔を出るための試験らしかった。

「セストには難しく作っておくよう言ったんじゃがのぉ...。」

なぜか俺の満点に不満そうな魔塔主は、「では最後は実技試験じゃ。」と言って俺を魔法空間に放り込んだ。

そこは体力作りにの時に使っていた空間よりさらに殺風景で、今は俺と補佐官しか居なかったためとても広く感じた。それから、補佐官が様々な指示を出し、俺はその通りに魔法を使った。
小さな氷を出したり、水で霧を作り出したり、物を浮かせたり、壊したり。
そして一通り魔法の基礎と呼ばれるものは終わると、補佐官は手元の書類に何かを書き込みながらこう言った。

「...全て完璧です。属性に偏りがないのも驚きですね。」

先ほどから試験監督をする人間が全員微妙な顔をするが、不合格ではないようなので適当に流す。それよりも俺はこの試験をさっさと終えて帰りたい。

どうやら俺は、魔法の基礎講義は受けずにこの試験さえ突破できれば一週間ほど早く帰れるそうだ。自分の才能の有無には興味がないが、こればかりはありがたかった。
俺の人生において、アステルと過ごせる日が1週間増えたと言うことだから。

「試験は終わりか?」

そう問いかけると補佐官は、では最後にと言って俺から距離をとった。そして10メートルほど離れると俺の方に向き直って声を張る。

「最後は魔法維持の試験です。ここにできるだけ大きな炎を出し、最低でも10秒は維持してください。」

「長くてどれくらいだ。」

「そうですね...では1分をリミットにしましょう。しかし無理はしないでください。自分の限界も見極めることが大切です。」

「分かった。」

「では、始め。」


腕を前に出し、魔力を込める。イメージは大きな火。
できるだけ大きくと言っていたが、どれほど大きくすれば良いのか分からず、とりあえず補佐官の足元まで広げ、後は風魔法で上に伸ばした。

ゴォォォ、という炎の音が俺を囲む。

自分の魔力をこれだけ盛大に解放できるのは中々心地よかった。補佐官がもう少し離れていたら、もっと解放できただろうと考えながら魔法を維持する。

...そろそろ10秒経つか。やめても良いが、どうせここまで魔法を使える機会なんて滅多に無いのだから、1分経ってからでも良いだろう。
心の中で大体の数を数えながら周囲で轟轟と渦巻く炎をぼんやり見つめる。

炎は熱い。温かくはない。
俺にとっての温もりは、全てアステルから与えられるものだ。
アステルの体温。アステルの声。アステルの表情。その全てがこの炎以上の力を持っている。


「...もうすぐ、会える。」


そして自分の中でのカウントが60に到達したところで炎を消し、熱気だけがその場に残った。


「記録は1分です。...素晴らしい。」


そう言ってこちらへ歩いてくる補佐官。
やっと終わりか、と思ったその時だった。



『いーぜるにいさま!!!』


______確かに、アステルの声がした。


補佐官が何か言ってるのも聞かずに声のした方を見て全神経を集中させる。


そして、俺の目は難なくその愛しい存在を捉えた。



「イーゼル様?」



「...アステル。」

遠くにいるアステルに向けて、手を伸ばす。

やった事はなかったが、できる気がした。
アステルに触れたい。アステルに近づきたい。全力でそう願ったと同時に、

「ぇ、...あれ?...にいさま?」

愛しい弟は、俺の腕の中にいた。































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