孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子

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第2章 魔塔編

【31】魔法

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ユノ先生とのお散歩の中で、疲れてしまった僕は一度立ち止まって、そのまましゃがみ込んでしまった。するとユノ先生が、「私にアステル様を抱き上げる栄誉を頂いても?」と紳士もびっくりなお言葉を貰ったので、今はユノ先生の腕の中だ。
父には及ばないにしても、意外と筋肉があるユノ先生。やっぱりイケメンは全員細マッチョなのだろうか。

なんて考えていたら、ベンチがあったのでそこに腰を下ろす。僕の隣に座ったユノ先生と一緒に噴水を見つめながらたわいのない会話に花を咲かせた。

「ゆのせんせいは、まほうがとってもじょうずなんですか?」

「とっても...というわけではないですが、人に教えられるくらいにはできますよ。アステル様は魔法が気になりますか?」

「はい!」

「そうですか。是非お見せしたいのですが、公爵家には結界があるので大きな魔法はディラード様の許可がないと使えないんです。」

「じゃあ!まほうってなんですか?まりょくはどこからわいてくるんですか?」

「そうですね。では簡単な所からお話ししましょうか。」

「わぁ!おねがいします!」

こうしてユノ先生の特別授業が始まった。

















「へぇ!まりょくのりょうってそんなにさがあるんですね!」

「はい。そしてイーゼル様は魔力量がとても多いんです。魔力理論もすんなり理解されますし、魔法覚醒前なのに仮説を立てて応用もできる。本当にすごいお方です。」

「ほんとうですか!えへへ、やっぱりにいさまはすごいんだなぁ...。」

ユノ先生に兄様が褒められて自分のことのように嬉しい。地面に足がつかなくて宙に浮いていた足をぶらぶらさせて喜ぶと、ユノ先生は何か懐かしいものでも見つめるような顔で笑った。

「アステル様のようにまるで自分のことのように喜んでくださる方がいて、イーゼル様はとっても幸せでしょうね。自分のために喜怒哀楽を感じてくれる。それは、かけがえのない存在ですから。」

「ゆのせんせいにも、そんなひとがいたんですか?」

何となくそう思って聞けば、ユノ先生は少し目を見開いた。しかしすぐにその顔は悲しげになる。

「...生憎私はあまり喜怒哀楽の激しい人間ではないのですが...そうですね、私のために怒ったり喜んだりしてくれる子がいましたね。」

そう言ったユノ先生は困ったように眉を垂らすと、遠くを見つめてしまった。

「いまは、はなればなれ、ですか?」

「...私が、逃げてしまったんです。」

「きらいでしたか?」

「いいえ。賢くて真っ直ぐで、...でも少し頑固で、私には特別素直で、とっても素敵な子でしたよ。」

「にいさまみたい!」

「おや、ふふっ。確かにイーゼル様のように普段は冷静沈着でしたが、イーゼル様が聞いたら怒りそうですね。あの子もきっと怒るでしょう。“同じにするな”と。」

そう言って笑うユノ先生は、これまでで一番無邪気な顔だった。本当にその子との思い出が先生の中ではキラキラと輝いているのだろう。

「ぼく、そのひとにあってみたいです!」

「うーん...どうでしょうねぇ...。あの子は私よりも優秀な魔法師ですから、とても忙しいかもしれません。」

「ええ!ゆのせんせいよりすごいんですか!?」

「そうですよ。私は2級で、彼は1級ですから。それも最年少の歴代2人目で、本当に凄いんですよ。」

ユノ先生はぴっと人差し指を立てて、自慢気にそう言った。その顔は照れ隠しのために冗談っぽく微笑んでいた。

「むぅ!にいさまのほうがすごいです!」

なのでこちらも冗談混じりに対抗すると、先生は真剣に考え込む。

「そうですねえ...正直どちらが凄いかはイーゼル様の覚醒次第ですが、ここは大事な弟子の肩をもつ事にしましょうかね。」

「ゆのせんせいのでし!?」

「そうですよ。幼い頃に私が拾ってきて育てたので親代わりでもあるせいか、ついつい手をかけてしまうんです。」

「ぼくも、にいさまとはちのつながったきょうだいじゃないけど、とってもだいすきなので、おなじですね!」

「ええ、同じですね。きっと家族になるのに、血の繋がりなんて些細な事ですよ。」

「ぼくもそうおもいます!」

ふふふ、えへへ、と見つめ合う事数秒。遠くからメイドのシュナの声が聞こえてきた。どうやら帰りが遅くて心配してきたらしい。

「そろそろ戻りましょうか。」

「はい!おさんぽとおはなしたのしかったです!ありがとうございます!」

「こちらこそ、とても幸せな時間を過ごさせて貰いましたよ。この思い出を形にして残しておきたいくらいです。きっと、こんなに幸せではイーゼル様に嫉妬されてしまうかもしれませんね。」

そう言ってにっこり笑うユノ先生に思わず見惚れる。
ふぁ~かっこい~。

ユノ先生は優しくて大人で紳士で、きっと女性なんて数秒接しただけでコロッと恋に落ちてしまいそうなほど完璧な人だった。その上優秀な魔法師で、公爵家で働けるほどの地位も持ってる。
そんな人と話せた事が嬉しい。魔法の事もたくさん知れたし。



その日の夜、手紙にあれを書こうこれを書こうと思っていたら僕はいつの間にか寝てしまっていた。




あれ、そういえばユノ先生の弟子って今どこにいるんだろう?優秀な魔法師は大体魔塔所属になるって言ってたから、もしかしたら兄様と同じところにいるのかもしれない。

仲良くしてたらいいなぁ。





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