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第1章 家族編
【13】溺愛
しおりを挟む「アステル、おはよう。今日も可愛いな。」
「んゅ、」
「あぁ...可愛い。こんなに可愛くては、いつか天に攫われてしまわないだろうか。...何か、いい方法を考えておこう。」
やばい、繋がれる。
「にーしゃ、おはよぅごじゃ、ましゅ。」
「ああ、おはよう。可愛い俺のアステル。」
スリっと頬が撫でられる。
その革手袋の感触は、今では“兄様の手”という記憶で僕にインプットされているから心地いい。
説明しよう。
あのアステル激おこ大号泣事件以降、「無口無表情兄様」は「饒舌甘々兄様」へと変化したのだ。
説明終わり。
まず朝は必ず起こしに来てくれる。というか目が覚める瞬間には絶対に居る。兄様って早起きなんだな。
そして沢山「可愛い」だの「天使のようだ」だのしまいには「愛しい」と散々愛を囁いてくる。初めはそのストレート過ぎる言葉が恥ずかしかったのだが、今となってはもう慣れてしまった。多分僕の外見は最強遺伝子でできているので一般的に見ても可愛いだろうし、兄様の目に万が一にも狂いがある筈ないからだ。あと単純に今まで素っ気なかった分、僕を見て甘やかしてくれるのが嬉しいのだ。
それから僕の身支度を兄様が魔法で手伝ってくれる。兄様がパチン、と指を鳴らすと一瞬で部屋着から普段着に早変わりし、顔もさっぱりして寝癖も整っている。
この魔法を初めて見た時にすごい!と素直に喜んだら兄様は照れくさそうに目を細めて笑った。あれは今の所一番の破壊力を持っていたと思う。弟じゃなきゃ心臓が止まってた。
そしてその後は兄様と朝食を食べる。
こんな風に兄様と食事ができるようになったのは嬉しい変化と言えるだろう。
しかし、「これも美味しいぞ」とか「もっと食べて太るんだ」とか「アステルの体重は幸せの重みだ」とか言われながらの食事は正直恥ずかしい。これももう慣れたけど。
そんな事より、僕があーんとすれば反射のように開く兄様の口に食べ物を詰め込む。毎日鍛錬をして沢山運動する兄様の方がずっと寝てるだけの僕なんかより食べるべきなのだ。僕にあーんされて満足そうに咀嚼する兄様も、最近では以前より肌艶がいいし、体格もしっかりしてきた。これは僕の餌付け...おほん、食事管理の賜物である!
「アステルに食べさせてもらうとこんなに美味しいんだな。」
「ん!みんなでたべると、おいしい!」
「ああ。アステルの言う通りだ。」
よしよし。これでもう兄様が一人ぼっちで食事をすることはなくなるだろう。
そして朝食が終われば兄様の稽古の時間だ。
いつものように乳母車から兄様の稽古を覗き、兄様と目が合うと手を振り、兄様に手を振り返してもらうと、きゃー!となる。
さながらアイドルのコンサートのようだ。
「すごい...。イーゼル様、相手を全く見ていないのに全て捌いてる。てか対戦中なのにアステル様に手を振ってるし。」
「どんだけ弟好きなんだ。」
「あ、勝った。」
そして、午後は座学。
なんでも今日から新しい家庭教師が来るようだ。
そして父と母による厳格な審査を通過したのはピンクの可愛い帽子を被ったマーティ先生だった。
「よろしくお願いします、マーティ先生。」
「よろしゅおねが、っしましゅ!まーてぃせんしぇ!」
兄様に倣って僕も挨拶する。
「今素晴らしい挨拶をした俺の膝にいる天使は弟のアステルです。一緒に授業を受けるのでアステルの耳に入る言葉にはくれぐれも注意してください。」
素晴らしい挨拶か天使かはとりあえず置いといて、そうです私が“弟の”アステルですよと胸を張ってマーティ先生にアピールする。
普通兄の授業にここまで介入してくる弟も中々居ないだろうが、これくらい許してくれる寛容で優しい先生でないともう兄様は任せられない。
なんと言っても兄様を守るのが僕の役目だからだ!
「そうなんですね!よろしくお願いします!イーゼル様!アステル様!」
さすがは父と母の厳格な審査を通過しただけあるマーティ先生だ。順応性抜群。とりあえずは合格だろう。
そして兄様の膝で授業が受けられるなんて夢のようで僕のやる気もアップする。
それでもやはり知らない言葉と難しい言葉の応酬の授業は眠気を誘い、いつの間にか寝てしまっていた。兄様が時々頭を撫でてくるのが悪い。そんな気持ちいい事されたら寝ちゃうに決まってる。
目を覚ましたら兄様は既に魔法の授業へ行った後だった。くそう、夢のようなひと時が本当に夢になってしまった。兄様の膝の安定感がヤバすぎたんだ。
魔法の授業から帰ってきた兄様は僕の部屋に直行して、すぐに僕を抱き上げる。
「おはよう、アステル。よく眠れたか?」
「ん!...じゅぎょう、ねんね、めんにゃしゃい。」
「良いんだ。俺はアステルがそばにいてくれるだけで嬉しい。」
「あい!あしゅてるも、にーしゃまいっしょ、うれしいでしゅ!」
「っ...そうか。」
そして、夕飯。
待ちに待った、家族団欒の食事だ!
「アステル、おいしいか?」
「んむ!」
「そうか。可愛いな。」
そう言って、隣に座った兄様は僕の口についたのを丁寧に拭ってくれる。朝食の時同様、僕のお世話につきっきりだ。
「にいしゃまも、たべる!」
「ああ。」
僕に構ってばっかりで中々食事が進まない兄様に食べるよう勧めるが、すぐに僕の方を向いてしまう。
どうやら『食べてるアステルが可愛すぎるから目を離したくない』らしい。
「...じゃあ正面の席にするか?」
と、父が提案するが、
「いえ、アステルのお世話ができなくなるので遠慮します。」
と、僕を見たままぴしゃりと断った兄様。
「そうか...。」と若干諦め気味のお父様。
そんな様子を楽しそうに見つめるお母様。
ずっとずっと待ち望んでいた家族との楽しい食事だ。
「にーしゃまも、おいし?」
「ああ、とっても美味しい。」
兄様が笑う。とてもとても幸せそうに。
良かった。
これでもう兄様は本当に大丈夫だ。
わけもわからず突然この世界にやってきたひとりぼっちな人間でも、誰かの役に立てたのが嬉しくて、僕も兄様に笑顔を返した。
________________
ここからが(いちゃいちゃの)本番です。
一区切りなので絵を置いておきます🤛
❤️や感想お待ちしてます...!
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