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第1章 家族編

【3】1歳の誕生日。ついにご対面。

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僕の毎日といえば、朝起きてミルクを飲んでゲップして、頭上でくるくる回る魔法のおもちゃを見つめて、寝て。ミルクを飲んで、母やメイドさんとぬいぐるみ遊びやボール遊びに興じて、たまに来る父におもちゃを貰って、ミルクを飲んで、寝る。
赤ん坊は楽でいいなぁ、と思う毎日だ。

そんな風に特に変化もなく、この世界にも次第に慣れてきたある日のことだった。
いつものように僕の部屋にやってきてベビーベッドを覗き込んだ母は、普段にも増して上機嫌に問いかけてきた。

「アステル。今日は何の日か分かるかしら?」

「ぅ~...?」

「そうよ!あなたの誕生日よ!」

いや何も言ってないですお母様...。










その日は朝から家の中で会う使用人全員に「おめでとうございます」と祝われ、僕を抱く母が代わりにありがとうと返すことの繰り返しだった。どうやら本当に僕の誕生日のようだ。
僕がこの世界に来てもう1年経つのか。なんだか凄く早い気がする。

自我が芽生えたのが数ヶ月前だから当たり前と言えば当たり前だが。

「アステル1歳の誕生日おめでとう。ほら、プレゼントだ。」

「う!」

祝いの席で父がラッピングされた箱をくれた。母が僕の代わりに開けてくれたので、中を覗き込む。
そこには綺麗な宝石でできたお座りするクマがいた。
10cmくらいのそのクマは緑色で透き通ってキラキラと輝いている。

「うちで抱えている職人にアステルの瞳と同じ色のエメラルドで作ってもらったんだ。クマはこの帝国の守り神と言われているからな。きっとアステルを守ってくれるだろう。」

えぇ!?これ本物の宝石!?ガラスとかじゃなくて!?

ちなみに僕の目は本当に母と同じエメラルド色だった。そして赤ん坊でも分かる、これ整ってるやつじゃん...といった顔だった。さすがは美形二人の遺伝子。強い。ありがとうと言わざるを得ないだろう。

それにしてもこの大きさでこんなに綺麗な宝石いったいいくらするんだ...と思うと怖くて若干慄く。
すると僕がプレゼントを気に入らなかったのかと勘違いして、しょんぼりする父が目に入った。

「ぁう~。」

「...気に入らなかったか?」

いいえ!!気に入らないとかじゃないんです!!ただ赤ん坊の僕が触ったら壊してしまうかもしれなくて!!と弁解したいが、赤ん坊だから喋れるはずもない。

どうしよう...と思っていると、母がそのクマをそっと持ち上げながら僕に差し出す。

「アステル、このクマには保護魔法がかかっているから壊れないわ。だから触って大丈夫よ。」

「なんだ、壊してしまうことを気にしていたのか。アステルはなんて優しいんだ。」

父の大きな手が頭を撫でる。
相変わらず息子に激甘な夫婦である。

「(...やっぱり血が繋がっているとこうなのかな。)」



ふわふわなマットが敷かれた床の上でクマの宝石と対面し、ちょんちょんと触れてみる。赤ん坊の小さい体で見ると本当に大きいクマだ。そして、この大きさの宝石はそれなりの重さのようでびくともしなくて安心した。角度によって輝きが違うのも綺麗で、ぐるぐるとクマの周りをはいはいで回りながら眺める。
金額や量がそのまま愛情の大きさだとは思わないけれど、父は日頃からおもちゃを色々プレゼントしてくれるのに、大事な日にはこうして特別手とお金をかけたものをくれるのはやはり大事にされている証拠のようだ。

誕生日にあまり良い思い出が無かったから、本当に嬉しい。

ありがとうの意味を込めてあう!と笑顔を送っておく。
すると父は胸を押さえながら膝をついた。え?撃たれた?発作?

「私の息子が、可愛すぎる...。」

そんな様子の父をあらあらと見下ろす母。どうやらいつもの親バカだったようだ。
そう考えていると、ドアがノックされた。

「あら、イーゼルかしら。」

悶える父親を置いてドアを開けた母。そこにはしゃんと背筋を伸ばしたイケショタが居た。兄様だ。
今日もぱっちり赤目とサラサラ黒髪が麗しい。白い肌とかもはや発光している。
もしこの世界にSNSがあったら、鬼のようにバズっているに違いない。いいや、絵だと思われるかもしれない。それくらい美しい。

「失礼致します。」

「待っていたわイーゼル。アステルのお祝いに来てくれたの?」

「...はい。お邪魔して申し訳ありません。」

お邪魔じゃない!!
「あう!!」

「そうよ。アステルの言う通りお邪魔じゃないわ、大歓迎よ。来てくれてありがとう。」

言いたいことは全部母が代弁してくれた。兄様はそんな母の優しさに怯みながらも、ゆっくり僕の目の前まで来て膝を付いた。
近くで見るとスベスベなお肌とか、二重のラインとか、伏せられて頬に影を作る長いまつ毛とか色々見えて絶句する。


...え、僕の兄様もはや人外...?


そんな兄様は少し緊張した面持ちでゆっくり口を開いた。

「おめでとう、ございます。アステル様。」

「あうぅ!!」

なんでそんな他人行儀なんですか!!僕は弟だからもっと気楽に喋ってください!!アステルって呼んでください!!イーゼル兄様!!!

という不満をバシバシ床を叩くことで表現する。

「あら、アステルが他人行儀は不満みたいだわ。」

「...でも...。」

「アステルはあなたの弟なのよ?もっと気楽に接してあげて。」

「ぁうう!!」
そうです!!

「アステルもこう言ってるわ。」

いえお母様...、きっと兄様には「ぁうう!!」としか聞こえなかったと思います。その証拠に兄様の顔に明らかな困惑が...。

でも、兄様はまるで人類の母のようなお母様の笑顔に弱いのか、もう一度僕に向き直ると改めてこう言った。




「...おめでとう、アステル。」



_____アステル。

そう、僕の名前はアステルだ。それだけだ。

血の繋がった優しい両親に愛されて、僕の誕生日を祝いに来てくれる優しい兄を持つ、幸せ者のアステルだ。
ただ不思議な記憶を持っているだけの、ただのだ。

「う!!」

父にもあげた満面の笑みを兄様にも送る。
それを受け取った兄様はしばらく放心したのちにスッと立ち上がって急いでお辞儀をして小走りで去ってしまった。







去って行く兄様の耳の先が少しだけ赤かったのには僕だけが気づいていただろう。






(兄様可愛い!!!!)






こうして僕は段々と兄様に心を奪われて行くのだった。





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