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第三章第二部 マグサヤ領へと駆ける風雲

85話

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※ミグサ領 北方検問所前にて

 今を知らない者達が我が先にと検問所に向かう、昨夜の夢は現だったのだろうか。先に見える幻だったものは、体に差し込む日差しで現実へと戻して行く。
「・・若様が又呆けてる・・サナー様、物理的に目を覚まさせて下さい」
「おっ、おぅ!起きてるよ。何か耳がキーンとしたままで、危なく変な事に成りそうだったよ。うーん、サナーは大丈夫そうだけどリーリェは・・ちょっと浮か・元気そうだな」

 検問所前で警備の兵士達との遣り取りから、俺達の事情を察したミグサ男爵はこちらへ向かって来ていると。それ程時間が掛からないで到着出来るとの事だった。此方もそれはそれで手間が省けるが、事細かに説明書きした俺の労力がちょっと残念だ。その文体に悩んでいる横から色々とサナーに仕掛けらた事は良い思い出なのか?俺の秘蔵品のオヤツを勢いに任せて出してしまったから、苦々しい思いの様な気がする。じゃれていた訳じゃないから!

 ここミグサ領の領主はかなり切羽詰まっている感じか?確かに俺は投げ遣りな形で通過したけど、それに纏わる話はしたと思ったが。王国の法律違反は数々の前例から、刑罰の範囲を絞ればその辺で予想が出来ただろうに。俺の方にその所を投げられても、何の助言も出来ない上に余計な事を言ったと責められるのも嫌だ。出来る事なんてその後の処理の評価だけだぞ。



・・・・・



「・・こちらまでお出で頂き、恐縮しております。私達は可及な用件が重なり時間の融通が利きません。先触れが申した概要をここで補足するのをお許し下さい」

 ここで必要に駆られた訳では無いが、立ち話であるから謝辞程度で済ませた。俺が受けてる教育の賜物から、其れ也の謝辞を述べられたけどな。その後に領に伝わっている数日の起こりを今一度確認する、簡単な箇条に並べるだけだからそこの肉付けはお任しな。屁の様に飛び込んて来た俺だから、臭さは際立ているけども元来は違うと言いたい。

「こちらの領で反逆行為し、ミグサ領主に謀反者の罪を押し付けようとした者達は、マグサヤ領にてもその策を繋げるべく2回の襲撃を行いました。それが無駄な行為と解ると、マグサヤ子爵の子息であるオカバク・マグサヤを殺めました。その後にマグサヤ子爵の臣下の者達によって、反逆者と成った彼等7名は掃滅さたのです。今もマグサヤ子爵様は、その他の関係者を追っております」

 この行動は行き当たりばったりな様相を、完全に裏切った一幕である。それこそマグサヤ子爵家に詳しい者が、虎視眈々と画策を施しているからだ。謀反行動をさせる為に陥れた当の子息を葬る事で、反逆者の烙印は消す事が出来なく成っている。策を論じた者がこの一点だけは譲らなかったのだろう、最初の行動に合ったミグサ男爵を謀反者に仕立てる行動は、この策の付加価値程度に落としている。だからあわよくばにしか聞こえない。

「こちらの領にも反逆者の関係者を追及の為に、引き渡しの要求が来るかも知れません。あの時に反逆者を捕縛していましたが、逃亡の手引きをした者や関係者は取り押さえていますか?」
「あ、の時は逃亡の報告を聞き、直ぐにその者達の捕縛を指示している。捕縛者が全てなのかは取り調べ中だが、それなりの人数の捕縛に成功させた。こちらから早めに護送をする方が良いだろうか?」
「その捕縛者は最優先で取り調べを進めて下さい」

 反逆者と名づけられた7名は、あちらで上手く口を封じられた。逃げる事が叶わなく成ったら、自害までも考えての行動だったのだろう。敵対相手の手で殺められれば、それまでの情報以降は露見しないそんな対策が垣間見える。そのお陰で反逆者を育てたという、親であるマグサヤ子爵の責務が固まった。この作戦はほぼ成功したのだ。

「こちらが今しなければ成らない事は、被害を最小限に抑える事です」
「急ぎで関係各所を押さなければ、次策を受けるからですか」
「いいえ、マグサヤ子爵家を切り捨てます」
「・・えっ・・なんと」

 そんな驚き顔は誰も欲してないぞ。ここで性急な保身対策は、相手が死者であっても罪を擦り付ける事だ。その者を言及しても弁明をしたりしないから、あからさまな捏造に感づかれても覆される未来は無い。ここからの路線を踏み外さなければ。

「マグサヤ子爵にお聞かせ出来る状況を作れませんでしたが、マグサヤ子爵家は取潰されるか良くて廃嫡に合います。嫡子であるオカバク・マグサヤ以外の子がいませんでしたから、反逆行為の言い逃れに嫡子を他の者に移せませんでした。嫡子の反逆は国への謀反と同義に値します。それで領主共々が処罰の対象に成ります。この反逆の策を論じた者は、オカバク・マグサヤを反逆者とし亡き者にし事で粗成就しました」
「・・ほぼ、ですか」
「こちらの領で謀反者を仕立て、オカバク・マグサヤを亡き者にし実行犯が生き残れれば、関係関連者の多くの者も逃走させられましたから。犠牲者を何処までの範疇に分けていたかは、もう知れません。こちらで行っていた検問での行為も、上手く誤魔化し機を伺っていたのでしょう」
「・・それは・・」

 その検問行為は領主の了承が合ったと誰かに述べられても、行為の範囲を何処までと言及するのは現状を遡る手段が無い限り難しい。そのどれもが個々人の才覚や能力を使った検査なのだ、得て不得手も多様で相手の持ち物次第で成果は厳しくなる。それを簡単に覆せるのは、時間を短縮する手抜き検査だ。手を抜く事で他の犯罪を見逃す事に成るのだから、その検査の仕方を推奨する者もいない。その提案を掲げるだけで、自らが破滅へ追い込まれる。まさに能無し扱いで。

「何をどうして欺いていたのかは調べようが無く成りましたが、近年に増えている禁制薬の流入を防ぐのには厳重な検問が必要です。検問の人員を増やせれば検査時間の短縮も計れますが、男爵領への制約が人員増を認めていません。検問時間の超過を咎めるのは筋違いと証言しましょう」
「・・それは・・宜しいのですか?」
「事実を語れる口が塞がれました。私が諮れるのはその程度です。それと領2つを失う損失を放置するのは性分に合いません。容疑者に関わった関係者から、策を論じた者には辿り着けないでしょうが、全てを勝手にされる分けには行きません。この策が上手く転べは、少なくともヌケタケナ男爵領には陽が当たるでしょう。ミグサ男爵は政策で巻き返しをはかって下さい。その手腕を見込まれれば領地が増えるかもしれません」

 ここでは別に恩着せがましい行為を押し付けないが、頑張る当人にはヒントくらいは上げても良い。策を論じる者が貴族を良く知った輩なのだから、領が潰れたら出る恩恵を狙った行いで間違い無い筈だ。ミグサ男爵の政策か稚拙だと中傷しても埒外でしか無いから、ならばヌケタケナ男爵領への牽制を引き締めさせたい。代替わりの可能性もかなり高いマグサヤ領を、上手く傘下に置くか提携の強化に走って欲しい。事の成り行きに疎い領民が持っている地盤に変化は少ないから、その辺の支援を明確に促進すれば現在までも拒んでいたヌケタケナ男爵領の販路にまで目を向ける者は少ないだろう。

 関係者の名が挙がった中に商業ギルドの者も数人が居たと言われ、今朝の早々にその者達を拘束に行かせているらしい。商業ギルド関連に手が伸ばせるのなら、領外での暗躍を辿れるかも知れない。それで炙れ浮く者達は末端でしか無いが、マグサヤ子爵の子息殺害事件の関係者と知れば友好を繋げる訳がない。今に必要なのはその看板なのだ、こちらはそれを掲げて押し入る者達を牽制し続ける。

 徹底的に遣り込まれた今だが、残りの全が負けても良いわけじゃない。相手は経済不振で大打撃を受けてる、今も梲の上がらない底辺領なのだ。立ち往生とも表現出来ない、能無し領主が祭られている。周りの臣下の能力を心配してしまう、類友が集まっているとしたら笑えないからな。

 そんな事を思う俺が言える事は、貴方は早く帰って必要な事を遣りなさいと。そこが言えない小心者だけど、目が乾く程に開いて訴えておいた。すっきりタイプの目薬が欲しい、ウソ泣きの使い勝手も良いしな。


・・・・・


「・・中々帰りませんでしたね。急ぎで必要な事をあれ程旦那様が教え説いたのに、それを理解しないとはこの領が心配になりました」
「先日の事で処罰がどうなるか、それを心配過ぎて何も考えられない感じだね。それでもサナーの言う通り、場数を知らな過ぎは間違いやすいかな。その煽りを受けるのは周りの者や領民だから、この場で見てる者がいたら不安に思っただろうね。その辺を考慮しているかは解らないけど、この場に出向いた事は良い方向性を選んだと思う。多分偶然だろうけど」

 先程の様子みたくこの場で醜態を晒すだけなら、先に何の改善にも繋がる事は無い。そこは追い詰められてる事を理解しつつ、何かの打開に走るか誰かから妥協案を提示して貰うとかだ。まあ、起死回生の一手を閃く強運の持ち主も世間には居るらしいが、こちらの当の本人はただの人だった。今の彼・・彼等に必要な事は、この策を施した黒幕を突き止める事じゃない。願わくばその者達が、ヌケタケナ男爵領の関係者である様にと。獅子身中の虫が身近な者では、続く困り事が大きくなるだけだ。それなら他領の貴族の方が諦めも付く。

「・・他領の領主が黒幕だったとしても、その方を裁きの場所に連れ出せるのでしょうか?」
「まず無理だろうね。実行行使者が当人であれば可能かも知れないけど、ほぼ口約束な命令なら知らを切られる。そこは立場の違いで、領主に落ち度は無いと裁定される。王国が下げ渡した貴族位だから、有り得ない信頼でも王国の威信が掲げられるから。たとえそれが世襲貴族だったとしても、王国が考えた貴族の規範を持ってる者は絶対とされる。それでも2度目は無いけどね」

 貴族の遣り口に、初犯と言い逃れされるのは甚だおかしい事もあるが、そこは貴族でも人なのだ。たまたまや何かの間違いだと扱われ、今回だけは許すって所に落ち着く。一々細かい事案の元に成った者を、その都度に処罰していては誰も残らない。現代の運転免許制度に似ているかも知れない、違反をすれば点数を引かれるが最悪の取り消しでも刑罰は別である。貴族が守る法など、運転者の交通ルールみたいなものだ。それだから違反と解っていても見つからなければオッケーみたいな。それも現行犯が基本だからな、それに人身が加わると少し様相が変わるが絶対的確定は無い。お金次第で示談に持って行き、無罪放免に逃げたりする。お金の無い奴は罰金分の拘留だ、1日に4千円には届かないが臭い飯を食わされる。

 それならホームレスが、それを狙いそうだと思うかも知れないが、車を盗むより無銭飲食の方が手っ取り早い。お腹も膨れるし。デパァ近の飲食店コーナーに飛び込んで、食い荒らせば数日は留置場で安泰だ。ホームレス目前の奴は、体力のあるうちに強盗に入ろう。その時なら捕まる時の痛さを軽減出来るかも知れない。

「・・若様、そろそろ移動しやすぜ」

そろそろでお願いします、俺の耳がミミガーって感じで鳴り続けますから。食べた事無かったんだよね・・油が強いイメージしか湧かないからそれはいいな。
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