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墓地の近くにある駐車場で、大智さんが待っていてくれた。
「どうだった? 親友には会えた?」
「やっと、会えました」
墓地についた時点で、親友がすでにこの世にいないと察しが付くだろう。でも大智さんは深追いして来なかった。
「そうか。よかった」
そう言って、ゆっくりと車を出した。
「じゃあ次、翔に会いに行くのはどうかな?」
「え? 翔に?」
「言いたいこと、あるんじゃない?」
私はわざとうーんと悩むフリをした。
翔にはまだ、言えそうにない。私は鞄から真一が持っていたノートを取り出した。
「翔はきっと、谷口さんから訊きたい言葉があるような気がするけどな」
悪戯に笑う大智さんは、ここ最近翔の笑い方に似せるのがもっと上手になった気がした。もしかして、翔が大智さんの中に入り込んでいたりして、と一瞬疑ったほどだ。
でも。
だからって、言えるわけない。
今でもまだ、翔が好きだなんて。
「いつか、新しい恋ができると思いますか?」
「それ、僕に訊いちゃう?」
へへ、と困ったように大智さんは笑った。
――あなたが一生のうち、本気で恋をするのはふたりだけです。
あの占い師のおばさんの言葉が頭の中で聞こえた。
二人目との出会いがいつなのか、もう出会っている人なのかは、今の私はまだ知らない。そう遠くない未来の私なら、知っているだろう。あの占いが当たったのかどうか。
海がキラキラと太陽の光を受けて輝いていた。宝石が海に散らばっているみたいだ。
「また来年の夏は、みんなで海に行きたいな」
つい、ひとりごとのように言ってしまった。
「僕もその中に入ってる?」
私は翔の笑い方を真似て、大智さんの方へ向けた。
「何、その企んだ笑顔は」
「誰かのモノマネです」
「誰だかわかる気がする」
そう言って笑って、
「また来年も、そのまた来年も、みんなで行こうよ」
大智さんは自分の言葉に大きく頷いた。
私たちはこの先どうなるかわからない不安定な未来で、やりたいことを約束した。これから先も、たぶん死ぬまでずっと、誰かとこうやって約束を交わし続けていくだろう。それが叶うか叶わないかは、問題ではない。大事なのは、誰とどんな約束をしたか、だ。
「そういえば、ノートの最後のページにリストが載ってたんだけど、これ、みんなでやってたの?」
「え?」
私は慌てて最後のページをめくった。
やり残したことリスト
その1,トマトへ行く
その2,合コンに参加
その3,海外旅行(海が綺麗なところ)
その4,親友の真一と一緒にこのやり残したことを実行する
その5,恋人を作る
見慣れたリストがそこにあった。私が持っていたリストは捨ててしまったが、翔もこのノートを使ってチェックしていたのだ。その4まではチェックが入っている。
「恋人を作る項目だけ、まだ達成してないね」
――一緒にやればいいじゃん。やりたいこと、俺と一緒に叶えれば。
翔は確かそんなことを言っていた。
「このリスト、これから付け足していくのはどうかな」
「……え?」
「一緒に、叶えたいことを書いて達成していこうよ」
言い方は違うけれど、あの日翔が言った言葉によく似ていた。本当にそっくりな兄弟だ。似ていないところもあるけれど。
「私なんかでいいんですか?」
「谷口さんとなら、きっと楽しいだろうから」
にぃ、と今度は大智さんが笑った。
俺が人生の楽しみ方を教えてやるよ、と言った翔とは違うけれど、私はまた断れそうになかった。
ペンならあるよ、と大智さんが胸ポケットから取り出した。
「職業柄、ここにどうしてもペンを入れておきたくなるんだよね」
私はペンを取って、その5に続く6を書き込んだ。
「じゃあ、何がしたいですか?」
うーんとあれこれ悩みながら、私たちは車を走らせた。
このリストが完成するのは、一体いつになるだろう。でも私はもうわくわくしていた。
これから先、きっと書ききれないほどの約束をいろんな人と交わしていく。ひとつひとつ叶えていけば、またどこかで桃香や翔に会える気がした。
きっと、またどこかで。
完
「どうだった? 親友には会えた?」
「やっと、会えました」
墓地についた時点で、親友がすでにこの世にいないと察しが付くだろう。でも大智さんは深追いして来なかった。
「そうか。よかった」
そう言って、ゆっくりと車を出した。
「じゃあ次、翔に会いに行くのはどうかな?」
「え? 翔に?」
「言いたいこと、あるんじゃない?」
私はわざとうーんと悩むフリをした。
翔にはまだ、言えそうにない。私は鞄から真一が持っていたノートを取り出した。
「翔はきっと、谷口さんから訊きたい言葉があるような気がするけどな」
悪戯に笑う大智さんは、ここ最近翔の笑い方に似せるのがもっと上手になった気がした。もしかして、翔が大智さんの中に入り込んでいたりして、と一瞬疑ったほどだ。
でも。
だからって、言えるわけない。
今でもまだ、翔が好きだなんて。
「いつか、新しい恋ができると思いますか?」
「それ、僕に訊いちゃう?」
へへ、と困ったように大智さんは笑った。
――あなたが一生のうち、本気で恋をするのはふたりだけです。
あの占い師のおばさんの言葉が頭の中で聞こえた。
二人目との出会いがいつなのか、もう出会っている人なのかは、今の私はまだ知らない。そう遠くない未来の私なら、知っているだろう。あの占いが当たったのかどうか。
海がキラキラと太陽の光を受けて輝いていた。宝石が海に散らばっているみたいだ。
「また来年の夏は、みんなで海に行きたいな」
つい、ひとりごとのように言ってしまった。
「僕もその中に入ってる?」
私は翔の笑い方を真似て、大智さんの方へ向けた。
「何、その企んだ笑顔は」
「誰かのモノマネです」
「誰だかわかる気がする」
そう言って笑って、
「また来年も、そのまた来年も、みんなで行こうよ」
大智さんは自分の言葉に大きく頷いた。
私たちはこの先どうなるかわからない不安定な未来で、やりたいことを約束した。これから先も、たぶん死ぬまでずっと、誰かとこうやって約束を交わし続けていくだろう。それが叶うか叶わないかは、問題ではない。大事なのは、誰とどんな約束をしたか、だ。
「そういえば、ノートの最後のページにリストが載ってたんだけど、これ、みんなでやってたの?」
「え?」
私は慌てて最後のページをめくった。
やり残したことリスト
その1,トマトへ行く
その2,合コンに参加
その3,海外旅行(海が綺麗なところ)
その4,親友の真一と一緒にこのやり残したことを実行する
その5,恋人を作る
見慣れたリストがそこにあった。私が持っていたリストは捨ててしまったが、翔もこのノートを使ってチェックしていたのだ。その4まではチェックが入っている。
「恋人を作る項目だけ、まだ達成してないね」
――一緒にやればいいじゃん。やりたいこと、俺と一緒に叶えれば。
翔は確かそんなことを言っていた。
「このリスト、これから付け足していくのはどうかな」
「……え?」
「一緒に、叶えたいことを書いて達成していこうよ」
言い方は違うけれど、あの日翔が言った言葉によく似ていた。本当にそっくりな兄弟だ。似ていないところもあるけれど。
「私なんかでいいんですか?」
「谷口さんとなら、きっと楽しいだろうから」
にぃ、と今度は大智さんが笑った。
俺が人生の楽しみ方を教えてやるよ、と言った翔とは違うけれど、私はまた断れそうになかった。
ペンならあるよ、と大智さんが胸ポケットから取り出した。
「職業柄、ここにどうしてもペンを入れておきたくなるんだよね」
私はペンを取って、その5に続く6を書き込んだ。
「じゃあ、何がしたいですか?」
うーんとあれこれ悩みながら、私たちは車を走らせた。
このリストが完成するのは、一体いつになるだろう。でも私はもうわくわくしていた。
これから先、きっと書ききれないほどの約束をいろんな人と交わしていく。ひとつひとつ叶えていけば、またどこかで桃香や翔に会える気がした。
きっと、またどこかで。
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