上 下
32 / 72

32

しおりを挟む
「夏芽ちゃんだよね? 美佳ちゃんから聞いたよ」

 チャラ男が話しかけて来た。

「そうです。えっと……」
「俺、幹事の勇人と同じ大学の亮平。で、こっちが勝。こいつ、アメフトやってるからムキムキなんだ」
「うるせぇよ」

 スポーツマンっぽいというのは、外れていなかった。正真正銘のスポーツマンだった。アメリカンフットボールというのは、やっぱり体格が勝負なんだろうか。結構ムキムキだ。

「それで、君は?」
「……真一です」

 どう考えたって場違いもいいところだろう、と言いたげな顔をして私を見ている。翔は「俺、橘翔! よろしくな! 何歌う?」と騒いでいる。

「ふたりは、付き合ってるの?」

 チャラ男の亮平が私の隣に座って、こっそり耳打ちしてきた。

「いえ、付き合ってません」

 面倒くさそうな奴だなぁと思いながら、ズズズっとジンジャーエールをすするように飲んだ。

「そうなんだ。俺てっきり、合コンに誘われた彼女が心配になって着いてきちゃった彼氏くんかと思ってた」

 なんなんだ、この人は。会ったばっかりなのにずいぶんと馴れ馴れしい。

「ただの、友達ですよ」
「じゃあ、俺が好きになっても、真一くんは怒ったりしないよね」
「え?」

 真一はアメフトのマサルと何やら会話している。美佳は勇人と何かをデュエットしていた。楽しそうだ。

「夏芽ちゃんてさ、可愛いよね」

 見え見えの嘘だ。美佳の男版に違いない。

「夏芽、気をつけろよ」

 翔は美佳の隣で踊りながら、私を見て言った。

「嫌なら、はっきり嫌って言った方がいい。どう見たって遊んでるよ、そいつ。そんな奴より、俺は真一の方がいい男だと思う。優しいし、面白いし、俺には劣るけど、イケメンだろ?」

 真一が?
 私の横でアメフト選手と意気投合している真一を見て、つい笑ってしまった。真一もアメフト選手もそっちの人なのか。

「何笑ってるの?」
「いや、私彼氏いるんで。残念ですけど」

 自然と、そんな風に言葉が出てきた。

「ええー、彼氏いるの? 嘘?」

 なんて失礼な奴だ。
 私はチャラ男を放っておいて、真一に話しかけた。

「何話してるの? 仲良くなった?」
「つい、いろいろ聞いちゃったよ。ずっとスポーツやってるんだって。俺、運動ダメだからなぁ」

 なんだろう。真一が少しだけ、翔に似ているような気がした。唐揚のときや最初に会ったときは、もっと大人しくて、静かな人だと思っていた。でも、今は少しだけ、本当の真一を見た気がした。

「いいな、青春! 大学生最高っ!」

 翔のテンションの高さを、誰にも見せられないのが残念だった。
 その後の飲み会は、ただの懇親会のような感じに終わった。美佳が望んでいた、彼氏をゲットする合コンにはなれなかったものの、意外とみんな楽しんでいるように見えた。
 その日、解散後に来た美佳からのLINEを見なければ、私はそう勘違いしたままだっただろう。

「この埋め合わせは絶対にしてもらうからな、覚えてろよ」

 完全に、脅迫文である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう一度『初めまして』から始めよう

シェリンカ
ライト文芸
『黄昏刻の夢うてな』ep.0 WAKANA 母の再婚を機に、長年会っていなかった父と暮らすと決めた和奏(わかな) しかし芸術家で田舎暮らしの父は、かなり変わった人物で…… 新しい生活に不安を覚えていたところ、とある『不思議な場所』の話を聞く 興味本位に向かった場所で、『椿(つばき)』という同い年の少女と出会い、ようやくその土地での暮らしに慣れ始めるが、実は彼女は…… ごく平凡を自負する少女――和奏が、自分自身と家族を見つめ直す、少し不思議な成長物語

雨が乾くまで

日々曖昧
ライト文芸
 元小学校教師のフリーター吉名楓はある大雨の夜、家の近くの公園でずぶ濡れの少年、立木雪に出会う。  雪の欠けてしまった記憶を取り戻す為に二人は共同生活を始めるが、その日々の中で楓は自分自身の過去とも対峙することになる。

たとえ空がくずれおちても

狼子 由
ライト文芸
社会人の遥花(はるか)は、ある日、高校2年生の頃に戻ってしまった。 現在の同僚であり、かつては同級生だった梨菜に降りかかるいじめと向き合いながら、遥花は自分自身の姿も見詰め直していく。 名作映画と祖母の面影を背景に、仕事も恋も人間関係もうまくいかない遥花が、高校時代をやり直しながら再び成長していくお話。 ※表紙絵はSNC*さん(@MamakiraSnc)にお願いして描いていただきました。 ※作中で名作映画のあらすじなどを簡単に説明しますので、未視聴の方にはネタバレになる箇所もあります。

月の女神と夜の女王

海獺屋ぼの
ライト文芸
北関東のとある地方都市に住む双子の姉妹の物語。 妹の月姫(ルナ)は父親が経営するコンビニでアルバイトしながら高校に通っていた。彼女は双子の姉に対する強いコンプレックスがあり、それを払拭することがどうしてもできなかった。あるとき、月姫(ルナ)はある兄妹と出会うのだが……。 姉の裏月(ヘカテー)は実家を飛び出してバンド活動に明け暮れていた。クセの強いバンドメンバー、クリスチャンの友人、退学した高校の悪友。そんな個性が強すぎる面々と絡んでいく。ある日彼女のバンド活動にも転機が訪れた……。 月姫(ルナ)と裏月(ヘカテー)の姉妹の物語が各章ごとに交錯し、ある結末へと向かう。

フレンドシップ・コントラクト

柴野日向
ライト文芸
中学三年に進級した僕は、椎名唯という女子と隣同士の席になった。 普通の女の子に見える彼女は何故かいつも一人でいる。僕はそれを不思議に思っていたが、ある時理由が判明した。 同じ「period」というバンドのファンであることを知り、初めての会話を交わす僕ら。 「友だちになる?」そんな僕の何気ない一言を聞いた彼女が翌日に持ってきたのは、「友だち契約書」だった。

浴槽海のウミカ

ベアりんぐ
ライト文芸
「私とこの世界は、君の深層心理の投影なんだよ〜!」  過去の影響により精神的な捻くれを抱えながらも、20という節目の歳を迎えた大学生の絵馬 青人は、コンビニ夜勤での疲れからか、眠るように湯船へと沈んでしまう。目が覚めるとそこには、見覚えのない部屋と少女が……。  少女のある能力によって、青人の運命は大きく動いてゆく……! ※こちら小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...