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「来週の土曜日はヒマですか?」
真一へ、そう連絡した。今もすでにヒマだったのか、すぐに既読がついてすぐ返事が来た。
「ヒマですけど」
ヒマですけど、何ですかってことだ。絶対に、変な奴だと思われている。すべては翔のせいだ。警戒されているに違いない。
それにしても、翔は学校ではあんなに執念にしつこくまとわりついて来るのに、なぜ家では出て来ないんだろう。まぁ、出て来ないに越したことはない。家でも出て来られたら、私のプライバシーはない。
「土曜日空けといてください。詳細はまた連絡します」
合コン、と言ったら真一は断るような気がした。だからあえて何を目的とするのか伏せておいた方がいいように思えた。
金曜、大学の講義が終わるとすぐに駅に向かい、大須の商店街や栄をさ迷い歩いた。美佳は気に入った服を二着も購入した。
「あしたのたった少しの時間なのに、なんで二枚も。お色直しでもするの?」
冗談で言うと「今夜どっちにするかさらに吟味するんだから」と怒られた。かなり本気の様子だ。そこまでして、彼氏がほしいのか。
合コンの鉄則は知らないが、美佳は普段は着ない花柄のワンピースや白いスカートを熱心に見ていた。薄いピンク色やベージュの服も。
「いつもそんな恰好しないのに」
「白っていうのはね、確率高いの。あと、合コンだからってあんまり肌見せすぎるとよくない。だけど、今は夏だからこういうちょっと女の子らしいけど、短いスカート丈のワンピースで勝負しようかなと思って」
もう、何を言っているかわからない。知らない国に来てしまったような気分だ。
「夏芽、これに合うんじゃない?」
無理やり私に押し付けて、試着室へと連れて行こうとする。見れば、ジーンズのミニスカートだった。
「こんな短いの履かないって」
「いいじゃん、別にスタイル悪いわけじゃないんだし。ラスト十代だよ? 今肌見せないでいつ見せんの?」
「だけど……」
「いいから履いてみなって。これ、試着しまーす!」
ニコニコと店員さんがやってきて「どうぞ」と試着室へ案内した。もう、着るしかない。美佳の押しに負け、しぶしぶ試着室に入る。
ジーンズを脱ぎ捨て、それに足を通す。こんな服、今まで着たことがない。
「履いた? 開けるよ?」
「ちょっと待って」
「えー、まだ着てないの? 私が無理やり履かせようか?」
そんな言葉は無視して、鏡の前の自分をしばらく見つめた。
「なんだ、似合うじゃん!」
美佳はサッとカーテンの隙間から顔を覗かせて、ちゃんとスカートを履いていることを確認するとバサッとカーテンを開けた。
「ねぇ、こんな格好変じゃない?」
「何言ってんの夏芽、全然変じゃないよ」
真剣に訊ねた私に対し、馬鹿みたいに笑い飛ばしてくれた。
「夏芽、ジーンズとかパンツしか着ないからさ、たまにはスカートもいいじゃん」
友達と買い物なんて、初めてだった。いや、桃香と一緒に何度もした。でも桃香がいなくなって以来、もうずっとない。つまり中学以来になる。
あの当時の私たちの買い物とは、ずいぶん違った。あの時はまだ、私たちはうんと幼かった。近所のショッピングモールに親なしでふたりだけで行くと、大人になったみたいでいい気分だった。今でもよく覚えている。
「買えばいいじゃん、今セールだって。安いよ」
このスカートを買わなくても、私は今この瞬間が楽しくて、それだけで十分だった。だから、美佳の顔を見たら泣いてしまいそうな気がして、だけど今の気持ちをうまく伝えるほどの言葉は喉から出て来なかった。言葉になる前に、声にする前に、消えてしまう。
「買わないよ。バイトしてない私にとっては高価なんです」
意地を張ったように見せて、スカートを戻した。本当はちょっと、ほしかったかも。
「たまにはさ、本と安いカレー以外にもお金使わなきゃ」
きっと、唐揚定食さえなければ買えたはずだ。翔のせい、ということにしておけば気が楽だった。
「美佳はもう二着買ったんだから、これ以上要らないでしょ。帰るよ」
「えー、もう帰るの? あしたの合コンの作戦会議しようよ。スタバに行ってさ」
「お金ない」
「バイトすればいいのに、早く」
どこまで一緒にいていいのか、わからなかった。学校で一緒にいる時間はなんの問題もない。でも、こうしてふたりで作っている時間に、私はどのくらい一緒にいても迷惑にならないのか、美佳の邪魔をしないのか、さじ加減がわからなかった。私はどうしてこうも、人との付き合い方が下手くそなのか。
だから私は先に帰った。美佳は「帰ってもつまんないし」とまだひとりでぶらつくと言っていた。
「あしたは可愛い感じで来なよ、その方が成功するんだから」
と言われて、美佳と別れた。
でも次の日、待ち合わせ場所に来た私を見て、美佳は私のダサい格好なんかよりも、真一を連れてきたことに激怒した。
「ちょっと夏芽! 合コンが何なのか知らないの? なんでもう一人男連れて来てんの⁉」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ、美佳ちゃん」
翔の声なんて届かない。だからふざけて笑っている。
「いやあ、人足りないって言うからさぁ……」
ごまかしてみたが、ダメだった。ひどすぎる嘘だ。さすがに私だって、合コンが男女同じ数だとわかる。馬鹿にもほどがあった。
真一へ、そう連絡した。今もすでにヒマだったのか、すぐに既読がついてすぐ返事が来た。
「ヒマですけど」
ヒマですけど、何ですかってことだ。絶対に、変な奴だと思われている。すべては翔のせいだ。警戒されているに違いない。
それにしても、翔は学校ではあんなに執念にしつこくまとわりついて来るのに、なぜ家では出て来ないんだろう。まぁ、出て来ないに越したことはない。家でも出て来られたら、私のプライバシーはない。
「土曜日空けといてください。詳細はまた連絡します」
合コン、と言ったら真一は断るような気がした。だからあえて何を目的とするのか伏せておいた方がいいように思えた。
金曜、大学の講義が終わるとすぐに駅に向かい、大須の商店街や栄をさ迷い歩いた。美佳は気に入った服を二着も購入した。
「あしたのたった少しの時間なのに、なんで二枚も。お色直しでもするの?」
冗談で言うと「今夜どっちにするかさらに吟味するんだから」と怒られた。かなり本気の様子だ。そこまでして、彼氏がほしいのか。
合コンの鉄則は知らないが、美佳は普段は着ない花柄のワンピースや白いスカートを熱心に見ていた。薄いピンク色やベージュの服も。
「いつもそんな恰好しないのに」
「白っていうのはね、確率高いの。あと、合コンだからってあんまり肌見せすぎるとよくない。だけど、今は夏だからこういうちょっと女の子らしいけど、短いスカート丈のワンピースで勝負しようかなと思って」
もう、何を言っているかわからない。知らない国に来てしまったような気分だ。
「夏芽、これに合うんじゃない?」
無理やり私に押し付けて、試着室へと連れて行こうとする。見れば、ジーンズのミニスカートだった。
「こんな短いの履かないって」
「いいじゃん、別にスタイル悪いわけじゃないんだし。ラスト十代だよ? 今肌見せないでいつ見せんの?」
「だけど……」
「いいから履いてみなって。これ、試着しまーす!」
ニコニコと店員さんがやってきて「どうぞ」と試着室へ案内した。もう、着るしかない。美佳の押しに負け、しぶしぶ試着室に入る。
ジーンズを脱ぎ捨て、それに足を通す。こんな服、今まで着たことがない。
「履いた? 開けるよ?」
「ちょっと待って」
「えー、まだ着てないの? 私が無理やり履かせようか?」
そんな言葉は無視して、鏡の前の自分をしばらく見つめた。
「なんだ、似合うじゃん!」
美佳はサッとカーテンの隙間から顔を覗かせて、ちゃんとスカートを履いていることを確認するとバサッとカーテンを開けた。
「ねぇ、こんな格好変じゃない?」
「何言ってんの夏芽、全然変じゃないよ」
真剣に訊ねた私に対し、馬鹿みたいに笑い飛ばしてくれた。
「夏芽、ジーンズとかパンツしか着ないからさ、たまにはスカートもいいじゃん」
友達と買い物なんて、初めてだった。いや、桃香と一緒に何度もした。でも桃香がいなくなって以来、もうずっとない。つまり中学以来になる。
あの当時の私たちの買い物とは、ずいぶん違った。あの時はまだ、私たちはうんと幼かった。近所のショッピングモールに親なしでふたりだけで行くと、大人になったみたいでいい気分だった。今でもよく覚えている。
「買えばいいじゃん、今セールだって。安いよ」
このスカートを買わなくても、私は今この瞬間が楽しくて、それだけで十分だった。だから、美佳の顔を見たら泣いてしまいそうな気がして、だけど今の気持ちをうまく伝えるほどの言葉は喉から出て来なかった。言葉になる前に、声にする前に、消えてしまう。
「買わないよ。バイトしてない私にとっては高価なんです」
意地を張ったように見せて、スカートを戻した。本当はちょっと、ほしかったかも。
「たまにはさ、本と安いカレー以外にもお金使わなきゃ」
きっと、唐揚定食さえなければ買えたはずだ。翔のせい、ということにしておけば気が楽だった。
「美佳はもう二着買ったんだから、これ以上要らないでしょ。帰るよ」
「えー、もう帰るの? あしたの合コンの作戦会議しようよ。スタバに行ってさ」
「お金ない」
「バイトすればいいのに、早く」
どこまで一緒にいていいのか、わからなかった。学校で一緒にいる時間はなんの問題もない。でも、こうしてふたりで作っている時間に、私はどのくらい一緒にいても迷惑にならないのか、美佳の邪魔をしないのか、さじ加減がわからなかった。私はどうしてこうも、人との付き合い方が下手くそなのか。
だから私は先に帰った。美佳は「帰ってもつまんないし」とまだひとりでぶらつくと言っていた。
「あしたは可愛い感じで来なよ、その方が成功するんだから」
と言われて、美佳と別れた。
でも次の日、待ち合わせ場所に来た私を見て、美佳は私のダサい格好なんかよりも、真一を連れてきたことに激怒した。
「ちょっと夏芽! 合コンが何なのか知らないの? なんでもう一人男連れて来てんの⁉」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ、美佳ちゃん」
翔の声なんて届かない。だからふざけて笑っている。
「いやあ、人足りないって言うからさぁ……」
ごまかしてみたが、ダメだった。ひどすぎる嘘だ。さすがに私だって、合コンが男女同じ数だとわかる。馬鹿にもほどがあった。
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