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「そういえばさぁ、最近サークル活動があんまり活発じゃないって気が付いて。ユージに訊いたら、特に対して大きな活動はなくて、夏に大学内で合宿するらしいの。そこで天体観測するだけみたいなの」
「へぇ、面白そうじゃん」
美佳の口から、サークル活動が活発じゃないなんて真面目な言葉が出てくるとは思わず、私は久しぶりに面白いなと思いながら耳を傾けた。
学食は相変わらず人だらけで、きょうは席をふたり分確保することさえ難しかった。
「でもさ、大学内で合宿ってどうなのよ。なんか、合宿となると学校からもらえる資金ではとてもいけないし、各自で集金しても反対意見が多いらしいの。結局、みんな大学で何かのサークルに入ると楽しいから入るけど、あんまり熱心にやらないのが基本らしいんだよね」
「まぁ、そういうサークル意外に多いよね。サークルだし、部活と違うからさ」
「そうなんだよねぇ。軽音楽部の子から聞いたんだけど、軽音は毎年夏に合宿に行くんだって。長野の方。羨ましくなっちゃってさー。他のと掛け持ちしようかと思って見学をしてみたんだけど、やっぱりなんかめんどくさいなって思って。私たちでやりたいことやろうっていうのはどう? 例えばさ、旅行同好会みたいな感じとか」
きょうはバイトの給料日だったらしく、美佳はいつもは食べないカツ丼定食をつつき、相変わらず金欠の私は安いカレーを食べた。
「夏芽、大学生なんだしバイトしなよ。出会いも広がるし、お金も稼げるしさ。好きなことできるよ。てか、なんで高校の時にバイトしなかったの?」
「バイトしたかったけど、親が高校生はバイトなんてしなくていいって。それに、うちの高校、校則がかなり厳しくて。バイトするなら、どこでどんなバイトするのか学校側に提出しないといけないの。それで、許可が下りないとバイトできないし。でもまぁ、私のほしいものっていつも本くらいで、バイトしてもお金が増えるばっかりかなぁって思って」
「何言ってんの」
美佳は箸で私の鼻をつまみたいのか、顔の目の前に突き出してきた。
「ちょっと、いくら友達だからってその箸で顔つつかないでよね」
「そんなことしないって。でもさ、これからもっとお金必要だよ。今週でカレー何回目?」
「……三回目」
「ほーら。週三カレーなんてヤバいよ。血液カレーになるよ。もっといいもの食べなきゃ」
「カツ丼定食とか?」
思いっきり皮肉ったのに、美佳が美味しそうに食べているのを見て羨ましいと思った時点で負けだった。
「カツ丼定食マジうめぇー。この感動を親友に伝えたい。って、冗談はそこまでで、どっか行きたいと思ったら、困るでしょ? 大学生なんだからいろんなところ行きたいじゃん。簡単に行けるとしたらディズニーランドとか、USJとかさ。いつかは海外旅行だって行きたいよね」
「そんなに?」
「あんた、なんのために大学入ったの?」
「私は文学を学びたかっただけ。だって、この大学には芥川賞取った小説家の先生の講義あるじゃん」
「将来は小説家志望ですか?」
「いや、まさか」
「小説家だって、経験が必要でしょ。いろんなところへ行って、いろんなもの見て食べて感じて。経験なくしてはこんな小説は書けませんって」
美佳は鞄から私がこの間貸した小説をどーんと机の上に出した。
「この小説、バックパッカーの話だよ。ほら、やっぱり旅行しなきゃ」
確かに美佳の言うことには一理ある。
「私、ディズニーランドとか、そういうの好きじゃないんだよね」
「なんで? 楽しいじゃん」
「絶叫系ダメだし。この歳でキャーとか言えないし」
「あー、それは残念なタイプだわ。っていうかいくつよあんた」
美佳は笑いながらカツにかぶりつく。
「とりあえず、バイトしな。まずバイト。そしたら、お金の使い方私が教えてあげるって」
「いいよー別に」
「いいよーじゃない。まずは、そのファッションから変えましょう」
「そういうのいいって、本当にさー。私は美佳みたいな格好は似合わないし」
「誰が私と同じ格好しろって言ったの? 夏芽に似合うの探してあげるから、任せといて」
さすがアパレルでアルバイトしているだけはある。自信満々の美佳に、私は折れる他なかった。私が「わかった」と言わない限り、美佳は自腹切ってでも私のファッションを変えようとするような気がした。
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