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「たっくんは、何人目の彼氏だっけ?」
「あー……多分二十人目? その辺、記憶が曖昧だわ」

 自分について聞かれていると言うのに、他人事のようだった。

「どれくらい続いた?」
「確か、二週間」

 二週間。今まで美佳に聞いた話の中だと、まだ長く続いた方だろう。その前の彼氏は確か三日で終わっているはず。最早、付き合っていたと言えるかどうか問題だ。気の迷いでした、と言った方が納得できる。

「なんか、美佳の話を聞いてると、恋愛が紙切れよりも薄く感じる」
「え、なんで?」
「なんでだろうね」

 美佳は美人だ。誰もがそう思うはず。スタイルもいいし顔も整っていて、目はぱっちり二重。華奢なのに、胸は一丁前にある。私よりも大きい。Eカップくらいだろうか。私の方が美佳より太っているというのに、私の胸はぺたんこだ。唇はぷっくりした赤く、肌は白く滑らかだ。それに、腰まである長い髪。明るめの茶髪を保つために頻繁に美容院へ通っていると言う。私には無理だ。長い髪の毛になればなるほど手入れが大変だ。私はいつも肩よりやや下、髪の毛が一つに束ねられる程度にしか伸ばさない。美佳のネイルは殺傷能力がありそうな鋭い爪。ネイルだけで毎回一万円はかかるんだとか。ネイルや化粧について、男の好みはわからないし、派手なメイクやネイルは嫌う男が多いなんて聞くけれど、やっぱり美人に声をかけられたら男はみんな嬉しいだろう。特に、美佳みたいな子ならなおさら。

「早く次の彼氏見つけなきゃ」
「いや、別に彼氏なんて見つける必要ないと思うよ。美佳は可愛いから男なんてすぐに寄って来るだろうし。何か違うことしたらどう? サークルとか入ってみたら?」
「サークル! 夏芽も隅に置けないなぁ。サークルに入って彼氏を見つける手があったわ。よし、あたしサークルに入る」

 何か別の刺激を与えてしまったようだ。私は美佳に男を忘れるくらいの趣味を持ってほしい、と思ってサークルを提案したわけである。まあ、これでサークルに入って楽しいと思ってくれるようになるのなら、いいかもしれない。

「なんのサークルに入ろうかな。天体観測なんてロマンティックじゃない? あ、でもテニスもいいかもしれない。あたしこう見えて昔は運動得意だったんだから。そう言えば、夏芽は誰かいい人いた?」

 入学式からずっと鞄に入れっぱなしにしていただろうサークル紹介のパンフレットを引っ張り出しながら、美佳は目をキラキラさせてそう訊ねた。

「いい人?」
「この人いいかもって人、いた?」

 考えたこともなかった。今の今まで大学に慣れることで精一杯だったし、ほとんど誰とも必要以上に会話しない。つまり、美佳以外とは誰とも口を利かない。そもそも、いい人とはどんな人を言うのか。イケメンの定義はなんだ。

「いないでしょ」
「夏芽って、理想が高い系女子なの?」
「何それ」

 笑ったら、ふとさっきの講義で見かけた彼を思い出した。

「いい人というか、多分ここの一般試験の時に隣だった人だと思うけど……」

 すると美佳は私よりもずっと大きな瞳を、さらに大きく開かせた。

「何、その目は」
「そんな時から狙ってた人がいたの? どんな人?」
「狙ってたわけじゃないよ。ただ、すごく目につくというか。試験の時、ギリギリで駆け込んできて、息も絶え絶えでさ。嫌でも覚えてるって。多分次も講義が一緒だと思うよ。その時教える」

 センター試験の時の彼の姿を思い出した。見た目的に、美佳ならカッコいいと言うのではないだろうか。ちょっと遊んでいそうな感じの人に見えた。私には苦手なタイプだ。
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