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第七章 猫神様と恋心
第二話
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「夢を叶えることと、恋を叶えることは同じじゃねぇが、どちらにも言えるのは諦めたら終わりってことだ。相手に自分の気持ちを伝えるのを諦める。夢を諦める。愛することを諦める。自分が諦めることに納得できるなら、とっとと諦めろ。でも、納得できないなら諦めるなんて簡単に言うんじゃない」
恭介はオレの顔をじぃっと、食い入るように見つめている。そんな言葉を言われるなんて、思ってもいなかった。という顔をしている。
「……俺、猫神様に全部叶えてもらおうって思ってました。まさか本当に神様がいる……いらっしゃるとは思いませんでしたけど、叶うなら全部叶えてもらっちゃおうって、心のどこかで思っていたんです」
だろうな。恭介が初めて神社に願掛けしに来たとき、ただ「お願い」だけを念仏でも唱えるみたいに何度も繰り返していた。
「願いは全部叶わない。ランプをこすって出て来た魔神も、3つまでしか叶えてくれねぇしな」
恭介はふっとため息でもつくような、悲しげな笑顔を浮かべた。
「突然なにかが現れて『願いを叶えてやる』って言われたとしても、それで叶えてもらった願いは虚しいだけだ。その先は、もしかしたら不幸かもしれない。願いはな、叶ったあと大切に育てられるかどうかが肝心なんだ。オレがお前たちを恋人にしたって、その先は自分たちでどうにかしなきゃならない。ただ叶うだけの願いは、すぐに壊れる」
ははっと、恭介は残念そうに笑った。オレをランプの魔神かなにかだと思っていたんだろうか。都合がいい奴だ。
「願いが叶わなかったとしても、必ずなにかを手にしているはずだ。ただ、手にするものは良いものとは限らない。でもそれは、叶えようとしたから手に入れられたものだ。願いを叶えようとするってことは、そういうことだ。良いものだけを手に入れられるのが人生じゃねぇ。理不尽だと思うかもしれない。他人だけが、幸運を掴んでいるように見えるかもしれない。だけど、どう思うかは自分で決められる。幸か不幸か。願いは叶うか、叶わないか。それが、大きな違いだ」
恭介は、邑子の気持ちの変化を知らない。〈恋心〉を捨て、永遠に戻らないつもりだった邑子の気持ちを変えた。物語の先は、オレには見えている。ここで諦めてもらっちゃ、つまらない。
「ひとつ、訊きたいんですが」
「なんだ?」
「どうして、他の誰でもない俺なんかを選んでくださったんですか?」
「選ぶって?」
オレは別に、恭介の願いを叶えるためになにか特別にしたことなんてない。願いなんて本当なら簡単に叶えられるが、恭介の願いは叶えてやっていない。
「その、こうやって話しかけてくださったりして……」
なんだ、そんな簡単なことか。
オレは恭介を見てにぃっと笑った。笑うオレを見て「猫も笑うんですね」なんて、のんきなことを言う。
「お前が、諦めの悪い男だからだ」
オレの言葉に、今度は恭介がにたぁっと気味の悪い笑顔を見せた。
「お前言ったよな、初めて会った日に。邑子じゃなきゃ、ダメなんだろ?」
他の誰でもない、ただひとり、邑子だけ。恭介はそう言った。
恭介は立ち上がり、大きく腕を空に伸ばした。恭介の頭上だけ、分厚い雲が割れ青い空が顔を出す。
勝負はまだ、終わっていないようだ。
恭介はオレの顔をじぃっと、食い入るように見つめている。そんな言葉を言われるなんて、思ってもいなかった。という顔をしている。
「……俺、猫神様に全部叶えてもらおうって思ってました。まさか本当に神様がいる……いらっしゃるとは思いませんでしたけど、叶うなら全部叶えてもらっちゃおうって、心のどこかで思っていたんです」
だろうな。恭介が初めて神社に願掛けしに来たとき、ただ「お願い」だけを念仏でも唱えるみたいに何度も繰り返していた。
「願いは全部叶わない。ランプをこすって出て来た魔神も、3つまでしか叶えてくれねぇしな」
恭介はふっとため息でもつくような、悲しげな笑顔を浮かべた。
「突然なにかが現れて『願いを叶えてやる』って言われたとしても、それで叶えてもらった願いは虚しいだけだ。その先は、もしかしたら不幸かもしれない。願いはな、叶ったあと大切に育てられるかどうかが肝心なんだ。オレがお前たちを恋人にしたって、その先は自分たちでどうにかしなきゃならない。ただ叶うだけの願いは、すぐに壊れる」
ははっと、恭介は残念そうに笑った。オレをランプの魔神かなにかだと思っていたんだろうか。都合がいい奴だ。
「願いが叶わなかったとしても、必ずなにかを手にしているはずだ。ただ、手にするものは良いものとは限らない。でもそれは、叶えようとしたから手に入れられたものだ。願いを叶えようとするってことは、そういうことだ。良いものだけを手に入れられるのが人生じゃねぇ。理不尽だと思うかもしれない。他人だけが、幸運を掴んでいるように見えるかもしれない。だけど、どう思うかは自分で決められる。幸か不幸か。願いは叶うか、叶わないか。それが、大きな違いだ」
恭介は、邑子の気持ちの変化を知らない。〈恋心〉を捨て、永遠に戻らないつもりだった邑子の気持ちを変えた。物語の先は、オレには見えている。ここで諦めてもらっちゃ、つまらない。
「ひとつ、訊きたいんですが」
「なんだ?」
「どうして、他の誰でもない俺なんかを選んでくださったんですか?」
「選ぶって?」
オレは別に、恭介の願いを叶えるためになにか特別にしたことなんてない。願いなんて本当なら簡単に叶えられるが、恭介の願いは叶えてやっていない。
「その、こうやって話しかけてくださったりして……」
なんだ、そんな簡単なことか。
オレは恭介を見てにぃっと笑った。笑うオレを見て「猫も笑うんですね」なんて、のんきなことを言う。
「お前が、諦めの悪い男だからだ」
オレの言葉に、今度は恭介がにたぁっと気味の悪い笑顔を見せた。
「お前言ったよな、初めて会った日に。邑子じゃなきゃ、ダメなんだろ?」
他の誰でもない、ただひとり、邑子だけ。恭介はそう言った。
恭介は立ち上がり、大きく腕を空に伸ばした。恭介の頭上だけ、分厚い雲が割れ青い空が顔を出す。
勝負はまだ、終わっていないようだ。
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