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第三章 池谷杏子は白雪姫にはなれない
第九話
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ちらっと、隣のテーブルを見る。カップルが隣同士座り、旅行の本を広げて楽しそうに話し込んでいる。クリスマスか年末年始にでもどこか旅行する予定なんだろう。
男の顔はまあまあ。中の上くらい。女は中の下くらいか。さらに隣の席でひとり座る男は、結構イケメンだ。
時々、暇すぎると近くにいる人たちの人間観察に没頭してしまう。勝手に顔面偏差値をつけて楽しむのが趣味だったりする。
ふと、前に座っている三谷を見る。顔はやっぱり整っている。このカフェの中にいる店員を含め、ダントツ一番カッコいい。
……だけど。
「あー、三窪だ」
三谷がスマホを見て言った。三窪という言葉に、びくっと身体が反応する。
「え? 恭介くん?」
「なんか、バイトのシフトで変わってほしい日があるって相談」
ふぅん、と答えて外を見る。
恭介、まだ姉を追いかけているのかな。なんで、姉がいいんだろう。あたしにしておけばいいのに。
「あいつ、まだ杏子のお姉ちゃんが好きなの?」
「そうなんじゃない? この前告白してフラれたらしいけど」
笑いながら答えると「なんで知ってるの?」と訊かれた。
「前にちょっとだけ相談に乗ってたから。フラれたけど、諦めてないと思うよ」
今度は三谷が「ふぅん」と答えて、スマホをいじっていた。
三谷は、あたしのなにが良くて付き合うことにしたのだろうか。あたしが合コンメンバーの中で一番タイプだったからだろうか。それとも、三谷も同じニオイを嗅ぎ取ったのだろうか。もしくは、あたしが一番落としやすそうに見えたとか?
訊いてみたいけど、おそらく本当の答えは教えてくれない気がする。てきとうな嘘を並べられておしまいだ。
「隆弘は、なにかほしいものはある?」
クリスマスプレゼントを考えるのは面倒くさいが、あげないわけにはいかないので仕方なく訊ねた。
「特にないかな」
そう言うと思った。これじゃ、なんの役にも立たない。
「杏子は?」
「あたしは、新しいブーツがほしいな」
絶対に三谷が買わないだろうものを答えておく。さすがにブーツがクリスマスプレゼントにはならないだろう。足のサイズも知らないだろうし、プレゼントするにはちょっとハードルが高いはずだ。思う存分、プレゼント選びに悩むがいい。
「今から買い物いかない? 俺、ちょっと本屋に行きたいんだけど」
「いいよ」
人間観察もそろそろ飽きてきたので、ちょうどよかった。
あたしたちは店を出て、当たり前のように手を繋いで、時々微笑み合って買い物をした。これが普通のカップルだ、というポーズをとりながら。通りすがる誰もが、あたしたちを羨むだろう。美男美女カップルだ、と。あたしたちの笑顔を嘘だと思う人はいない。
その日の夜、恭介から連絡があった。スマホに通知が入ったとたんに、なぜだかものすごく嬉しくなった。
返事は早い方がいい?
焦らして遅くした方がいい?
そんなあたしらしくない疑問が、頭の中にぱっと現れる。
恭介は相変わらず姉を追い求めているらしい。文面からは、うじうじ悩んでいる様子が伺える。悩み苦しむ恭介の顔がすぐに想像できた。「久しぶりに会って話そうよ」と、恭介を誘ってみた。すぐに「会って話したい!」と返事が返ってくる。
恭介に会える。
ふと、部屋の鏡に自分の顔が映った。
気持ち悪いほど、にやにやしただらしない表情。自分で自分の喜びの顔にドン引きする。
どうしたんだ、あたし。らしくないじゃないか。
代わりに「クリスマスプレゼント 彼氏 おすすめ」で検索して、出てきたものを順に見てただ時間を潰した。クリスマスなんて、プレゼントを選ぶのも面倒だからやっぱり嫌いだ。
男の顔はまあまあ。中の上くらい。女は中の下くらいか。さらに隣の席でひとり座る男は、結構イケメンだ。
時々、暇すぎると近くにいる人たちの人間観察に没頭してしまう。勝手に顔面偏差値をつけて楽しむのが趣味だったりする。
ふと、前に座っている三谷を見る。顔はやっぱり整っている。このカフェの中にいる店員を含め、ダントツ一番カッコいい。
……だけど。
「あー、三窪だ」
三谷がスマホを見て言った。三窪という言葉に、びくっと身体が反応する。
「え? 恭介くん?」
「なんか、バイトのシフトで変わってほしい日があるって相談」
ふぅん、と答えて外を見る。
恭介、まだ姉を追いかけているのかな。なんで、姉がいいんだろう。あたしにしておけばいいのに。
「あいつ、まだ杏子のお姉ちゃんが好きなの?」
「そうなんじゃない? この前告白してフラれたらしいけど」
笑いながら答えると「なんで知ってるの?」と訊かれた。
「前にちょっとだけ相談に乗ってたから。フラれたけど、諦めてないと思うよ」
今度は三谷が「ふぅん」と答えて、スマホをいじっていた。
三谷は、あたしのなにが良くて付き合うことにしたのだろうか。あたしが合コンメンバーの中で一番タイプだったからだろうか。それとも、三谷も同じニオイを嗅ぎ取ったのだろうか。もしくは、あたしが一番落としやすそうに見えたとか?
訊いてみたいけど、おそらく本当の答えは教えてくれない気がする。てきとうな嘘を並べられておしまいだ。
「隆弘は、なにかほしいものはある?」
クリスマスプレゼントを考えるのは面倒くさいが、あげないわけにはいかないので仕方なく訊ねた。
「特にないかな」
そう言うと思った。これじゃ、なんの役にも立たない。
「杏子は?」
「あたしは、新しいブーツがほしいな」
絶対に三谷が買わないだろうものを答えておく。さすがにブーツがクリスマスプレゼントにはならないだろう。足のサイズも知らないだろうし、プレゼントするにはちょっとハードルが高いはずだ。思う存分、プレゼント選びに悩むがいい。
「今から買い物いかない? 俺、ちょっと本屋に行きたいんだけど」
「いいよ」
人間観察もそろそろ飽きてきたので、ちょうどよかった。
あたしたちは店を出て、当たり前のように手を繋いで、時々微笑み合って買い物をした。これが普通のカップルだ、というポーズをとりながら。通りすがる誰もが、あたしたちを羨むだろう。美男美女カップルだ、と。あたしたちの笑顔を嘘だと思う人はいない。
その日の夜、恭介から連絡があった。スマホに通知が入ったとたんに、なぜだかものすごく嬉しくなった。
返事は早い方がいい?
焦らして遅くした方がいい?
そんなあたしらしくない疑問が、頭の中にぱっと現れる。
恭介は相変わらず姉を追い求めているらしい。文面からは、うじうじ悩んでいる様子が伺える。悩み苦しむ恭介の顔がすぐに想像できた。「久しぶりに会って話そうよ」と、恭介を誘ってみた。すぐに「会って話したい!」と返事が返ってくる。
恭介に会える。
ふと、部屋の鏡に自分の顔が映った。
気持ち悪いほど、にやにやしただらしない表情。自分で自分の喜びの顔にドン引きする。
どうしたんだ、あたし。らしくないじゃないか。
代わりに「クリスマスプレゼント 彼氏 おすすめ」で検索して、出てきたものを順に見てただ時間を潰した。クリスマスなんて、プレゼントを選ぶのも面倒だからやっぱり嫌いだ。
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