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第三章 池谷杏子は白雪姫にはなれない
第二話
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「はじめまして。三窪恭介、20歳です!」
合コンは美佳が言うようにイケメンぞろいだった。でも、どの男もいいと思えない。誰でも同じ。男はみんな、同じだ。あたしがここにいる理由と同じで、みんな退屈している。女でも作って、てきとうに遊んで時間を潰そうとしているだけ。
「杏子だよ。タメじゃん」
あたしは身長が低い。幸い、あたしのコンプレックスは男受けする。多少身長が低い男でも、あたしには手が出しやすい。女は自分よりも身長が低い男を自然と恋愛対象から外しがちだ。あたしよりも身長が低い男なんて、小学生くらいだろう。
男性側の幹事をやっている男、三谷隆弘が美佳の言う遊び人だった。うまく隠しているようだが、あたしにはわかる。同じニオイがした。
誰でもいい。この4人の中の誰でもいい。ひと夏、いや、1週間でもいいからあたしを退屈させないでくれるなら。まぁ、期待しても無理だとわかっている。これまでの男はみんな、退屈だったから。
隣に座ったのは、恭介という人だった。茶髪に右の目元にほくろがある。顔はまあまあいい感じ。少しチャラい感じがした。
「それ、泣きぼくろ?」
「よく揶揄われるから、このほくろあんまり好きじゃないんだよね」
「ごめん。あたしは身長が低いのがコンプレックス」
大抵の男は小さい女の子をかわいいと思うらしい。彼も、例外ではないだろう。
「杏子ちゃん、絶対末っ子タイプ!」
名前はもう忘れた。3人目の男があたしの斜め前の席でそう言った。顔はそこそこイケてるのに、食べ方が汚い。おつまみの枝豆をくちゃくちゃと口を開けて食べている。残念、除外。
「ひとりっ子かなって、俺は思ったけどな」
今度は恭介が言った。
ひとりっ子だの、末っ子だの、どうでもいい。つまらない。血液型占いや星座占いと同じくらいのレベルだ。
「8つ離れたお姉ちゃんがいるよ」
どうしてあたしは、この人たちとこんなにもくだらない話をしているのだろう。誰と話してもビビッと来ないし、誰と話していても感想は同じ。つまらない。退屈だ。中身のない会話。当たり障りのない内容。
現実を知りすぎたあたしが、恋なんておとぎ話にいまさら夢中になれるはずがない。こんなもの、ただのゲームだ。誰が一番にカップルになれるかを競い合うゲームでしかない。
「めっちゃ離れてるじゃん」
恭介は言葉とは裏腹に、そこまでびっくりした様子ではなかった。ああ、この人も多分、あたしと話していてつまらないのだろう。
「写真見る?」
「いいね、見たい」
恭介が言うので、あたしは1枚写真を見せた。この間、久しぶりに会ってなんとなく撮った1枚だ。こういうときの、ネタにするための写真。
「お姉ちゃんとよく似てるって言われるんだ」
「……え、これお姉ちゃん?」
恭介は携帯に顔をぐいぐい近づける。
「うん、似てるでしょ?」
すると、突然恭介はあたしの手を握った。なんだ、気持ち悪い。
でもあたしは表情には出さず「どうしたの?」とわざと首を傾げて訊ねた。
「きょう、ここへ来てよかったぁー!」
力いっぱいガッツポーズをしている。一体なんだ、こいつは。意味がわからない。
「なに、どうしたの?」
「お姉さん、なんて名前?」
「え? お、お姉ちゃんの名前?」
なんだこいつ。あたしじゃなくて、姉に興味があるのか。
……気持ち悪。というか、普通にあり得ない。
「…………邑子だけど」
完全に、全力で引いてしまった。顔だけ無理やり笑顔を貼り付けておいたけれど、心はこの場所からずっと遠くにいる。ドン引きだ。同じ空間にいたくない。変態め。
「え、なに邑子さん?」
「池谷……邑子です」
つい、同い年なのに敬語になってしまう。あまりにも押しが強すぎて、どんどん押されていた。
「池谷邑子さん! そうかぁ、いい名前!」
恭介の目にあたしは映っていない。こいつ、姉を知っている。というより、姉に恋しているのだ。
姉を好きだという男が、今目の前にいる。堅物真面目で、趣味は読書と映画鑑賞で引きこもりみたいな姉の、どこを好きになったというのだろう。顔こそ多少似ているが、姉は極度の人見知りで性格は暗い。しかも、今年で28歳になる。年上好きなのか。
「邑子さんって、今いくつなの?」
「27だよ」
「へぇ、やっぱり社会人なんだ。どんな仕事してるの?」
「事務」
姉に本気なのか。こいつ、絶対におかしい。あたしという女が今目の前にいるのに、姉にしか食いついてこないなんて。しかもここに姉はいないのに、どうしてこんなにも興奮しているんだ。
「ごめんね、俺気持ち悪いよね」
うん。気持ち悪い。マジで。本当に。
「……そんなことないけど、どうしてお姉ちゃんを知りたいの?」
訊ねると真剣な顔つきで、話し始めた。もはや、恭介にとって合コンなんてどうでもよくなっている様子だ。この様子から、恭介はおそらく人数合わせのために連れてこられただけの人材だったのだろう。あとの2人は、本気で出会いを求めているように見える。美佳と美佳の大学の友人だという女の子もそうだ。しまった。こいつと話している間に、他の4人はいい感じになっている。
「実は俺、本屋でバイトしてるんだけど」
「へぇ、そうなんだ」
「よく来る邑子さんに、一目惚れしちゃって。話しかけたりしたけど、名前なんて聞けないしさ」
やっぱり。恭介は姉が好きなのだ。
ちょっと、面白くなってきた。
これは、いいかもしれない。恋愛ゲームするよりも退屈しない。自分の恋愛ゲームはもう飽きた。違うゲームがしたい。
「じゃあ、あたしが仲を取り持ってあげるよ。連絡先、交換しよ!」
あたしたちは連絡先を交換した。その後、他の2人とも一応交換したが、恭介以外に興味はなかった。別の意味で、恭介にはとても興味がある。
姉は、果たしてこの三窪恭介に恋をするのか。その行方が気になる。
合コンは美佳が言うようにイケメンぞろいだった。でも、どの男もいいと思えない。誰でも同じ。男はみんな、同じだ。あたしがここにいる理由と同じで、みんな退屈している。女でも作って、てきとうに遊んで時間を潰そうとしているだけ。
「杏子だよ。タメじゃん」
あたしは身長が低い。幸い、あたしのコンプレックスは男受けする。多少身長が低い男でも、あたしには手が出しやすい。女は自分よりも身長が低い男を自然と恋愛対象から外しがちだ。あたしよりも身長が低い男なんて、小学生くらいだろう。
男性側の幹事をやっている男、三谷隆弘が美佳の言う遊び人だった。うまく隠しているようだが、あたしにはわかる。同じニオイがした。
誰でもいい。この4人の中の誰でもいい。ひと夏、いや、1週間でもいいからあたしを退屈させないでくれるなら。まぁ、期待しても無理だとわかっている。これまでの男はみんな、退屈だったから。
隣に座ったのは、恭介という人だった。茶髪に右の目元にほくろがある。顔はまあまあいい感じ。少しチャラい感じがした。
「それ、泣きぼくろ?」
「よく揶揄われるから、このほくろあんまり好きじゃないんだよね」
「ごめん。あたしは身長が低いのがコンプレックス」
大抵の男は小さい女の子をかわいいと思うらしい。彼も、例外ではないだろう。
「杏子ちゃん、絶対末っ子タイプ!」
名前はもう忘れた。3人目の男があたしの斜め前の席でそう言った。顔はそこそこイケてるのに、食べ方が汚い。おつまみの枝豆をくちゃくちゃと口を開けて食べている。残念、除外。
「ひとりっ子かなって、俺は思ったけどな」
今度は恭介が言った。
ひとりっ子だの、末っ子だの、どうでもいい。つまらない。血液型占いや星座占いと同じくらいのレベルだ。
「8つ離れたお姉ちゃんがいるよ」
どうしてあたしは、この人たちとこんなにもくだらない話をしているのだろう。誰と話してもビビッと来ないし、誰と話していても感想は同じ。つまらない。退屈だ。中身のない会話。当たり障りのない内容。
現実を知りすぎたあたしが、恋なんておとぎ話にいまさら夢中になれるはずがない。こんなもの、ただのゲームだ。誰が一番にカップルになれるかを競い合うゲームでしかない。
「めっちゃ離れてるじゃん」
恭介は言葉とは裏腹に、そこまでびっくりした様子ではなかった。ああ、この人も多分、あたしと話していてつまらないのだろう。
「写真見る?」
「いいね、見たい」
恭介が言うので、あたしは1枚写真を見せた。この間、久しぶりに会ってなんとなく撮った1枚だ。こういうときの、ネタにするための写真。
「お姉ちゃんとよく似てるって言われるんだ」
「……え、これお姉ちゃん?」
恭介は携帯に顔をぐいぐい近づける。
「うん、似てるでしょ?」
すると、突然恭介はあたしの手を握った。なんだ、気持ち悪い。
でもあたしは表情には出さず「どうしたの?」とわざと首を傾げて訊ねた。
「きょう、ここへ来てよかったぁー!」
力いっぱいガッツポーズをしている。一体なんだ、こいつは。意味がわからない。
「なに、どうしたの?」
「お姉さん、なんて名前?」
「え? お、お姉ちゃんの名前?」
なんだこいつ。あたしじゃなくて、姉に興味があるのか。
……気持ち悪。というか、普通にあり得ない。
「…………邑子だけど」
完全に、全力で引いてしまった。顔だけ無理やり笑顔を貼り付けておいたけれど、心はこの場所からずっと遠くにいる。ドン引きだ。同じ空間にいたくない。変態め。
「え、なに邑子さん?」
「池谷……邑子です」
つい、同い年なのに敬語になってしまう。あまりにも押しが強すぎて、どんどん押されていた。
「池谷邑子さん! そうかぁ、いい名前!」
恭介の目にあたしは映っていない。こいつ、姉を知っている。というより、姉に恋しているのだ。
姉を好きだという男が、今目の前にいる。堅物真面目で、趣味は読書と映画鑑賞で引きこもりみたいな姉の、どこを好きになったというのだろう。顔こそ多少似ているが、姉は極度の人見知りで性格は暗い。しかも、今年で28歳になる。年上好きなのか。
「邑子さんって、今いくつなの?」
「27だよ」
「へぇ、やっぱり社会人なんだ。どんな仕事してるの?」
「事務」
姉に本気なのか。こいつ、絶対におかしい。あたしという女が今目の前にいるのに、姉にしか食いついてこないなんて。しかもここに姉はいないのに、どうしてこんなにも興奮しているんだ。
「ごめんね、俺気持ち悪いよね」
うん。気持ち悪い。マジで。本当に。
「……そんなことないけど、どうしてお姉ちゃんを知りたいの?」
訊ねると真剣な顔つきで、話し始めた。もはや、恭介にとって合コンなんてどうでもよくなっている様子だ。この様子から、恭介はおそらく人数合わせのために連れてこられただけの人材だったのだろう。あとの2人は、本気で出会いを求めているように見える。美佳と美佳の大学の友人だという女の子もそうだ。しまった。こいつと話している間に、他の4人はいい感じになっている。
「実は俺、本屋でバイトしてるんだけど」
「へぇ、そうなんだ」
「よく来る邑子さんに、一目惚れしちゃって。話しかけたりしたけど、名前なんて聞けないしさ」
やっぱり。恭介は姉が好きなのだ。
ちょっと、面白くなってきた。
これは、いいかもしれない。恋愛ゲームするよりも退屈しない。自分の恋愛ゲームはもう飽きた。違うゲームがしたい。
「じゃあ、あたしが仲を取り持ってあげるよ。連絡先、交換しよ!」
あたしたちは連絡先を交換した。その後、他の2人とも一応交換したが、恭介以外に興味はなかった。別の意味で、恭介にはとても興味がある。
姉は、果たしてこの三窪恭介に恋をするのか。その行方が気になる。
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